第4話.怪盗ナバーロ参上④

 後は兄に任せておけば、は手に入れてくれるはずだ。


 ティトは遠見筒スコープから目を離すと長距離射撃用魔銃アキュラスのボルトハンドルを起こして手前いっぱいまで引いた。


 空薬莢が排出され弾倉マガジンの奥まであらわになる。


 ティトはポケットから新しい弾丸を取り出した。弾頭を一周する白いラインが入っている弾丸。

 それを、一つ一つ弾倉マガジンの奥へと詰めていく。


 全部で5発。


 それが、長距離射撃用魔銃アキュラス弾倉マガジンに詰められる弾丸の数。


 5発すべてを詰め終わると、ティトはボルトハンドルを戻して、再び膝立ちになり遠見筒スコープを覗き込む。


 スタンレー伯爵は椅子の上でぐったりとしている。

 おそらくルイスによって眠らされたのだろう。


 そのルイスだが、ちょうど窓に向かって走っているところだった。

 殺到する兵士たちの剣をひらりひらりと躱すと、そのままの勢いで窓に突っ込み窓ガラスを砕きながら外へと躍り出る。


 空中に出た瞬間にルイスが振り返って右手を振ったのが見えた。


 おそらくアラクネの糸を使ったのだろう。


 アラクネの糸というのは、ティトが創った道具の一つだ。

 アラクネという蜘蛛の魔物が持つ糸袋。それを加工して、自在に糸を出せるようにしたものだ。


 その糸はとても丈夫で、細い糸一本で、人ひとりくらいの体重は余裕で支えられる。

 それは、そうだろう。

 アラクネという魔物の大きさは人の数倍はあるのだ。


 しかも、その特性は丈夫なだけではない。

 どこにでもくっついて簡単に剥がれない粘着力。

 ゴムよりも良く伸びる伸縮性。

 一方で、火や刃物には弱く、簡単に燃えるし簡単に切ることが出来る。

 この特性を生かして、使える道具にしたティトの才能はなかなかのものだ。


 ルイスは、粘着力を上手く使って糸の先端を屋根に貼り付けると、その伸縮性により落下の勢いを殺して地面に降り立った。


 しかし、すぐに中庭に居た兵士たちが集まってくる。


 ティトは、ルイスの立っている少し前方を狙うと引き金を引いた。

 弾丸はルイスの前方の地面へと着弾する。

 直後に着弾した地面から煙があがった。


 煙幕弾。

 これもティトの道具だ。

 弾頭の中に空洞を作って、二つの薬品を入れてある。着弾の衝撃で弾頭が潰れ、中の薬品が混ざることで大量の煙が発生する。


 ティトは、すぐさまボルトハンドルを操作して次弾を装填すると、再び同じ場所を狙って引き金を引く。


 カシャン

 ダーン


 カシャン

 ダーン


 ボルトハンドルの操作と銃声が交互に響く。

 その数、合計5回。

 弾倉マガジンに込めたすべての弾を撃ち尽くす。


 遠見筒スコープ越しに見る屋敷の中庭。

 その一部はいま、ティトの弾丸が作り出した大量の煙に覆われていた。


 ルイスは、その煙の中へと足を踏み入れ、すぐに見えなくなる。


「これで大丈夫でしょう。さて、兄さんと合流しましょうか」


 ティトは小声で独り言ちると、長距離射撃用魔銃アキュラスを肩に担いで、その場を後にした。

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