第47話.イーリスの遺跡⑦
突き当りの壁の材質は、今までの通路と変わらなかった。淡い灰色に、よく見なければ分からないくらいの薄いマーブル模様が入っている。
壁自体がうっすらと発光しているところも同じだった。
幅も高さも2メートルほど。
そして、その壁のちょうど半分より右側。そこが扉のように見える。
扉の色は濃いグレー。
よく見れば、壁と同じようにマーブル模様が入っている。
ティトは、その色の境目に、細い筒状の魔法道具で光を当てて、じっくりと観察していたが、突然、はっとしたようにルイスの方を振り返った。
「兄さん、この境目ですが、隙間がありません。浅い溝が彫られているだけです」
「なるほど。フェイクか?」
「はい。ドアノブがあるから、扉は手前か奥へと開くはずですが、溝があるだけで切れていないわけですから、どちらにも開かないと思います。右はドアノブと鍵穴も含めて偽物だと思います」
ティトが興奮して言うと、ルイスは嬉しそうに目を細める。
「やっぱりか。どうにも不自然なんだよな。このスペースなら、出入り口は中央付近に作りそうなものだが、やけに右端に寄っている。ティト、左側を調べてみろ。近づいてよく見ていいぞ。先へ進む出入り口は、左側に造られている可能性がある」
ルイスに言われるまま、ティトは左側の壁を調べ始めた。
壁にかぶりつく様にしながら、注意深く魔法道具の光をあてる。
そこでティトは、毛ほどの細い切れ目を壁に見つけた。それを辿ると、右側の色が変わっているところと同じように長方形の形をしている。
「兄さん、ここに切れ目が。兄さんの言う通り、ちょうど扉の形をしているように見えます。ここが出入り口でしょう。でも、どうやって開けたらいいのでしょうか?」
ティトが分からないというように眉間に皺を寄せると、ルイスはニヤリと笑った。
「そんなの簡単だろ。その壁に魔力を流せば開くと思うぞ」
「なるほど。先ほどと同じ仕掛けですね」
ティトは納得して、壁に手を触れようとして、寸前のところで手を引っ込めた。
「でも、壁に触っても大丈夫でしょうか?」
「まあ、フェイクのほうを触らなければ大丈夫だろう。特に、あのドアノブと鍵はやばそうだな」
「もし、不用意にドアノブとか鍵を触っていたら、どうなっていたんでしょう?」
「そうだな。イーリスってやつは性格が悪いらしいから、ほぼ間違いなく生きてはいないだろう」
軽い雰囲気で言うルイスの言葉に、ティトは身を震わせた。
「やっぱり兄さんはすごいです。僕一人だったら、確実に罠にかかっていましたよ」
「ふん。おまえは
ルイスは、鼻をならして笑うと、左側の壁に手を置いて魔力を流す。
先ほどと同じように、バチバチバチという音と共に、壁に青白い光が走った。その直後、重い音を立てながら壁の一部が徐々に左へとスライドしていく。そして、人ひとりが余裕で通り抜けられる隙間が出来た。
その向こうは、20メートルほど通路が続いて、さらにその先は
「あの先がイーリスの研究施設なのかもしれませんね」
ティトは嬉しそうに言うと、先へと進もうと一歩踏み出した。
「ちょっと待て」
そこで、またもやルイスに止められる。今度も、襟首をつかまれて引き戻された。
「落とし穴かもしれん」
ルイスはティトを引き戻すと、じっと床を見ている。
「そこの床を見てみろ。埃も塵も無いだろう? 綺麗すぎると思わないか?」
そう言うと、ルイスは短剣を抜いて、その床へと突き刺した。
剣は、床を通り抜ける。
それを見たティトは、目をまるくした。
「なっ!?」
「幻覚の魔法だな? ここの入り口に使われていたものと同じ
「これが、幻覚の魔法!? すごいですね。本物の床があるようにしか見えない。しかも使われなくなって何百年も経っているのに、まだ効果が残っているなんて。さすがは、
「まあな。そりゃあ天才かもしれないが、本当に性格悪いよな。罠を見破って、先に進む方法を見つけた瞬間に落とし穴ときてる。俺はイーリスってやつとは絶対仲良くなれねぇ」
ルイスは、そんなことを言いながら、しばらく床に埋まって見える剣を動かしていた。だが、どこにも当たらないことが分かると、諦めて短剣をひっこめる。
「これじゃあ、この下が、どうなっているか分からないな」
「そうですね。どうしましょう?」
「壁をつたって行くしかないか」
ルイスはそう言うと、鞄の中から手袋を取りだした。
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