第46話.イーリスの遺跡⑥

「どうやら、正解を引けたみたいだな」


 当のルイスも、驚いた表情をしながら通路の先を見ていた。


 魔石灯は、矢のトラップ地帯を挟んで、反対側にも同じように10個並んでいる。今は、向こう側の魔石灯も青白い淡い光が灯っていた。


「さすが兄さんです。すごいです」

「あ、ああ。そうだな」


 興奮してルイスを称賛するティトに対して、なんとなく歯切れが悪いルイス。


「どうして分かったんですか?」

「……勘だ」

「えっ?」

「いや、なんとなくな。魔法が得意だって言う話と、あの魔石灯を点灯させるにはどうしたらいいかと考えて……。特に根拠があったわけじゃねぇ。ちょっと試してみるつもりだったんだが、まさか正解だとはな」


 ルイスはばつが悪そうに、ティトから目を逸らして小声で言うと、魔石灯の下の白骨死体へと向かった。


「それでも、すごいです!」

「まだ、トラップが解除されているとは限らないし、喜ぶのは少し早いかもな」


 そう言って、白骨死体から大腿骨と思われる一番長い骨を拾い上げる。


 それを右手に持つと、矢のトラップに向けて思いっきり投げた。


 大腿骨は回転しながらも、無数の穴があるトラップの上を通過し、通路の向こうまで飛んでいった。そして、床に落ちると乾いた音と共に砕ける。


「大丈夫みたいだな」

「はい。行けそうです」


 ティトは嬉しそうに言うと、先に進もうとする。


「ちょっと待て」


 そんなティトをルイスが止めた。そして、おもむろに黒のジャケットを脱ぐと、罠に向かって投げる。

 ジャケットは、バサッと広がった後、しずかに床に落ちた。


「よし、行っていいぞ。あまり油断するなよ」


 ルイスはジャケットを拾い上げながら、穴だらけの床に一歩踏み出した。


 矢が飛んでくる気配は無い。

 前方の魔石灯は、先ほどと同じように青白い光を放っている。


「おそらく、魔石灯が点灯している間は、トラップは作動しないとみていいだろうな」


 そう言いながら、ルイスとティトは足早に、穴だらけの罠地帯を通り過ぎた。


「しかし、イーリスとやらは、かなり性格が悪いらしい。この先もまだまだトラップが仕掛けられている可能性は高いな。気をつけろよ」


 ルイスは、罠地帯をしかめっ面で振り返る。そこには、先ほどと変わらず3体の白骨死体が静かに転がっていた。



 二人は、奥へと続いている長い長い通路を再び歩き出す。

 充分に注意しながら進んでいくが、これといってトラップは設置されていなかった。


 ずっと奥の方、数百メートル先だろうか通路の終わりが、見えている。




 慎重にそこまで歩いて、突き当りの少し手前てまえで立ち止まる。

 目の前には壁があり、そのちょうど右半分ほどが、扉になっているようだ。

 その部分、縦長の長方形は他の壁とは材質が違うのか色が変わっている。

 そして、右端にはドアノブのようなものが付けられていて、その上にはご丁寧に鍵穴まである。


「鍵は僕が開けますよ」


 そう言ってティトは、ピッキング道具を取りだすと、鍵穴に取り付こうとする。


「ちょっと待て、ティト」


 ティトが鍵穴に取り付こうとかがんだ瞬間、ルイスがティトの襟首をつかんで引き戻した。


「おわっ。何するんですか? 兄さん」


 ティトは驚いて抗議するが、ルイスはそれには答えず扉を観察している。その後、しばらく観察してからティトのほうへと視線を向けた。


「なあ、ティト。何でこれには鍵がついているんだ?」

「何でって、それは、鍵が無いと誰でも出入り出来てしまうからではないんですか?」

「それだったら、入り口にも鍵、付けるだろう?」


 それを聞いてティトはハッとする。


「そうか! そうですよね。入り口は巧妙に隠されていたし、変な仕掛けもありましたが、鍵はついていませんでした。ここに鍵をつけるなら、入り口にも付けるべきですよね」

「な、おかしいと思うだろう?」

「はい。しかし、よく気付きましたね。さすが兄さんです」


 ティトは、尊敬の眼差しを兄のルイスに向ける。だが、当のルイスは険しい顔をして、頭痛がするように右手で頭を押さえた。


「さっき気をつけろって言ったばかりだろう? 少しは考えろ」

「すみません」


 ついさっきまで、キラキラした目でルイスを見つめていたティトは、しゅんとして尻尾を下げてしまった。


「まあ、いいさ。それより、ここの謎を解かなきゃな。ティト、おまえも調べるんだ。ただし、何か分かるまでは、絶対触るなよ。特にドアノブと鍵には近づくな」

「はい……わかりました」


 まだ、元気が無さそうなティトだが、ルイスに言われた通り、突き当りの壁と扉をもう一度、注意深く観察した。

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