第59話.アミーラ奪還作戦②
ルイスは、レラを睨みつけると広間の中へと足を踏み入れた。
慌ててティトはルイスを追う。背後でハウレスが扉を閉める気配がした。
広間は、外から見るよりもずっと広かった。
広間の奥、玉座を模した椅子にはレラが座っていて静かに微笑んでいる。その傍らには頭が禿げ上がったシュテルナー公爵が従者の様に控えている。
だが、その顔には何の感情も浮かんでいない様に見えた。
さらに、広間の左右には、それぞれ20名ほどの兵士が、整然と整列している。
その立ち姿は異常なほどに整然としていた。まるで人形のようで生気が感じられない。どの兵士も目は虚ろだ。それでいて、その立ち姿はしっかりしていた。
そして、広間の奥。レラの左側には後ろ手にロープで縛られたアミーラの姿があった。
「アミーラ!」
アミーラの姿を見つけたルイスは、大声でアミーラを呼ぶ。その声に反応して、アミーラが顔をあげた。そこにルイスとティトの姿を見つけたアミーラの顔は、少しだけ希望の色に染まる。
「ルイス! ティト」
二人の名を呼ぶ。
だが、アミーラの手を縛っているロープの先は一人の兵士に握られていて、こちらに来ることは出来ない。
今は待てと、ルイスが視線で訴えると、アミーラはこくりと首を縦に動かした。
ルイスとティトは、レラから数メートル離れたところまで来て立ち止まる。
レラは、胸元が大きく開かれた
ルイスはそんなレラの行動は意に介さず、ポケットから
そして、レラを正面から見据えると、口を開いた。
「さあ、これが
「あらぁ、遅かったじゃない。子猫ちゃんたち。もう、わたし、待ちくたびれちゃったわぁ」
レラは、以前会った時と変わらない間延びする声だ。
色気のある妙に甘ったるい声がルイスの耳をねっとりと刺激する。その声にルイスは嫌そうに
「ふん、期日はなかったはずだ。こいつが欲しければさっさとアミーラを解放しろ。さもなければ、こいつはここで壊す」
「そんなに焦らなくてもいいんじゃなぁい? そんなんじゃあモテないわよぉ?」
ルイスのイラつき交じりの口調とは真逆に、相変わらず間延びした声でルイスを刺激する。挑発されているような気分になりながらもルイスは、グッと我慢した。
そして
「そんなことはどうでもいい。それよりアミーラを返す気がないなら、交渉決裂ってことでいいのか?」
「もぅ。面白くないわねぇ。ハウレス、好きにしていいわよ」
レラがつまらなそうにルイスたちの後ろにいるハウレスに声をかける。
「ありがとうございます。レラ様」
後ろから聞こえたハウレスの落ち着いた声にティトは振り返った。ハウレスは右手を胸にあて、レラに向けて頭を下げると、ルイスとティトを通り過ぎアミーラのほうへと向かう。
そして、兵士からアミーラを縛るロープを受け取った。
ハウレスは丁寧にアミーラを先導しながらルイスの前までやってくる。
「約束通りアミーラ様はお返しします。
ハウレスは、そう言ってアミーラを縛るロープの端をルイスに渡した。
ルイスは無言でロープの端を受け取る。
アミーラは後ろ手に縛られたままルイスへと身体を預けた。ルイスはそんなアミーラを片手で抱き止める。
だが、視線はハウレスから離せない。
ハウレスは、そのまま手を引かずに、手のひらを上に向けたまま待つ。
ルイスは開いている手でポケットから
ハウレスは、
「ご協力ありがとうございました。それでは、私はこれにて失礼致します」
そう言うと、ハウレスはレラに向かって深々と頭を下げ、
「ハウレスぅ。もう行っちゃうのぉ? あんな女より私に仕えなさいよぉ」
レラの甘ったるい声がハウレスを追うが、ハウレスは『御冗談を』とつぶやくように言って、振り向きさえしなかった。
「もう、どいつもこいつも面白くないわね。ハウレス! アミィに貸し一つ……いや、二つって伝えておきなさい!」
「畏まりました」
先ほどまでの甘ったるい声とは打って変わり、ヒステリックな声で言うレラに対し、ハウレスはそれだけ言うと、広間から出て行った。
少ししてレラの舌打ちが、広間に響いた。
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