第58話.アミーラ奪還作戦①
火竜の鱗亭から出たルイスとティトは、まっすぐにシュテルナー公爵の
リカード達、
どこに隠れているのかは、まったく分からないが彼らは必ずどこかで見ていてくれるはずだった。貴族を信じるというのもルイスとしては不思議な感覚だったが、今は悪い気はしない。
二人は、シュテルナー公爵の館に到着すると、その正門に堂々と現れた。
その姿を見て、慌てて門番たちが駆けつける。
「獣人ごときが、ここに何の用だ?」
門番はいきなり剣を抜くと、前にいるルイスにそれを突きつける。
「おいおい。俺たちはお前たちの主の命令でこいつを持ってきたんだが、いいのか? そんなこと言っちまって?」
ルイスはポケットから
「くっ、そこで待ってろ」
そう言うと、門番のうちの一人、若いほうの兵士が門の中へと駆けて行った。しばらくして戻って来ると、ルイスの前に立ちはだかっている門番へと耳打ちする。
「ふんっ、通っていいぞ。だが、武器は置いて行けよ」
「武器なんて持ってねぇよ」
不機嫌そうに言う門番に、ルイスはひらひらと手を振ってみせる。先ほどの若いほうの門番が、服のうえからルイスとティトの体をざっと触ってボディチェックをする。
そして、二人が武器を所持していないことが分かると門の中へと通した。
先ほどの若い兵士が先導する。
二人は兵士に気付かれないように敷地内を見まわしたが、特にこれといって不審な点は見つけられなかった。
ティトは左手にはめた銀のバングル――リカードから借りた通信用の魔法道具――に魔力を流す。
『どうしたティト?』
すぐにアルフレッドとの魔力的なパスが繋がり、念話での応答があった。
『敷地内に入りました。特に不審な点はありません。このまま屋敷の中に進みます』
『了解。ティト、油断するなよ』
ティトはアルフレッドとのパスを繋いだままルイスの後についていく。交渉や会話は全てルイスに任せティトはこのままアルフレッドに内部の様子を伝え続けることになっている。
ほどなくして二人はいくつかある建物のうち、一番大きな建物の正面玄関へとやってきた。先導する兵士が扉を開ける。
館の中に入ると、妙に甘ったるい匂いが鼻について二人は顔をしかめた。
前回来た時にも気になった匂いだが、けっきょく何の匂いか分からなかった。
屋敷の中では、執事風の男が待っていた。
白髪交じりの髪を後ろに撫でつけて、白いシャツにびしっとした黒の上下を身につけている。黒のネクタイに黒い靴。そして白の手袋。文句なしに執事服を着こなしたこの男は、確かハウレスと名乗っていたか。
見覚えのある、その立ち姿にルイスは一瞬、
「お二人とも、お待ちしておりました。レラ様のところまでご案内させて頂きます」
そう言ってハウレスは、丁寧にお辞儀をすると、ゆっくりと館の奥へと先導していく。代わりに、ここまで案内してくれた兵士は門のほうへと戻っていった。
ハウレスに続いて、屋敷の奥にある階段を2階へと登った。
どうやら屋敷の東側にある部屋へと向かっているようだ。
ティトがアルフレッドにハウレスのことを報告すると、通話用魔法道具の向こうでアルフレッドが緊張するのが分かった。
『ティト、そのハウレスってやつは魔族かもしれない』
突然のアルフレッドの言葉にティトが緊張する。そして目の前のハウレスに視線を向けた。すると前を歩くハウレスがいきなり振り向く。
「どうかなさいましたか?」
「い、いや。なんでもありません」
ティトが慌てて首を振ると、ハウレスは無表情のまま何事も無かったかのように前を向いて、先導を再開した。
「レラ様はこちらにございます。失礼の無いようお進みください」
大広間だろうか?
ハウレスは大きな扉の前に立つと右手を胸にあてて恭しく頭を下げた。そして、扉に手をかけると、ゆっくりとそれを開く。
そこは思った通りの広間だった。王城にあるような謁見の間にも似ている。
入り口から見て、まっすぐに敷かれた紅いカーペット。
広間の一番奥は、一段高くなっていてその中央にはひと際大きな椅子が置かれていた。その椅子には、漆黒のドレスを
そして、そこに座るはずのこの館の主。シュテルナー公爵は、まるで従者のように
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