第37話.もう一つの封魂結晶①

「なあ、一つ、いや二つ聞いていいか?」


 リリアーナが落ち着いたのを見てとったのか、今までほとんど黙っていたルイスが口を開いた。

 アルフレッドが頷くのを待って、ルイスはアルフレッドに問いかける。


「まず一つ目なんだが、どうして俺達が地下にいるって分かった? そう簡単に見つかるはずが無いんだが、まるで最初から知っていたように床を調べ始めたからな。どうやって見つけた?」


 地下室の存在はルイスとティトしか知らない。

 今まで盗んだお宝を貯めこんだ宝物庫でもあって、そう簡単に見つけられないようにしていたつもりだった。

 それが、ほんの数分で見つかってしまえば、気になるのは当然のことだった。



「それは、封魂結晶アニマ・クリュスの影響なんだと思います。カティとリリィは、ある程度近づけばお互いの存在を感じ取れるようです。そして、カティがリリィの気配を下から感じたので、すぐに地下室だと気づきました」


「なるほど。そりゃ、見つかっちまうわけだ」


 ルイスはアルフレッドの言葉を咀嚼そしゃくするようにゆっくり頷いたあと、苦笑した。


「なあ、アルフレッドさん。この地下室のことは誰にも言わないで欲しいんだが、頼めるかい?」

「もちもんです。誰にも言いません」


 いずれお宝は別の場所に移すとしても、アミーラの件もありすぐにと言うわけにはいかない。

 その間だけでも口止めしておきたかった。

 もっとも地下室の見えるところにあるお宝は、言わば餌であり本当に価値の高い物はさらに奥に隠してある。その奥というのは絶対に見つからないと自負しているが、それでも少しだけ不安になった。


「ありがとう。恩に着るよ」


 そう言ってルイスは軽く頭を下げた。


「二つ目だが、これから俺たちはどうなるんだ? アミーラの件もあるから、出来れば見逃してくれると助かるんだが、そうはいかねぇよな。逃げちまおうかとも思ったが、外にいるバケモンからは、さすがに逃げられる気がしねぇ」


 この質問には即答できなかった。

 アルフレッドだけで決められることではない。リカードの判断が必要だった。これだけ騒ぎが大きくなってしまったのだ。封魂結晶アニマ・クリュスが返されたからといっても、無かったことには出来ない。

 それを考えると、いくらリカードとはいえそう簡単に解放してくれるとも思えなかった。

 それに、先ほど聞いたシュテルナー公爵に攫われたアミーラという少女のことも気になる。アルフレッドはしばらく悩んだ後に、口を開いた。


「すみません。封魂結晶アニマ・クリュスも返して貰ったし、そちらの事情もお察しします。だから、見逃したい気持ちはありますが、そういう訳には行きません。少なくてもリカード様には会って頂く必要があります」

「そうだよなぁ。あれだけの兵士を動員したんだ。盗まれたものを取り戻したので犯人逃がしました、なんて言えねぇよな」


「ごめんなさい。出来るだけ早く解放されるようにリカード様にお願いしておきます」

「ははははは。あんた、いい奴だな。盗んだこっちが悪いんだから、あんたが謝る必要は無いんじゃないか?」


 思わず謝ってしまったアルフレッドを見て、ルイスは白い歯を見せて豪快に笑った。

 いくら封魂結晶アニマ・クリュスを素直に返してくれたとは言え、悪いのはルイスたちであり、彼の言うとおり謝る必要などないはずだった。


「だが、早く解放してもらえるよう頼んでくれるのはありがたい」


 そう言って、ルイスは笑いながらアルフレッドに軽く頭を下げた。


「それに、リカード様にお願いすれば、アミーラって子の件もなんとかしてくれるかもしれません。僕からもリカード様にお願いしてみます」


 アルフレッドがそう言った瞬間、ルイスの顔から笑みが消えた。


「余計なお世話だ」

「え?」

「余計なお世話って言ったんだ。俺たちは貴族の手なんて借りねぇよ」


 あっけにとられ間抜けな声を出すアルフレッドに対し、ルイスは苛立ちを押さえずに低い声ではっきりと言った。 


「兄さん!?」

「いくらお前の友達の勧めでも貴族の手は借りねぇ。それが領主とかそういうのなら尚更なおさらだ。ドリズブール領主に仕えて殺された親父のことを忘れたわけじゃねぇだろう。アミーラをさらったのだってジリンガムの領主だ」

「そうでした……」


 ティトが何か言おうとしたが、それをルイスの言葉がさえぎる。それを聞いて、ティトは悲しそうに下を向いた。


「アル、ごめんなさい。アルの言ってくれたことは嬉しいけど、兄さんの言う通りです。僕たちの両親は貴族のせいで理不尽に殺されました。それだけでなく、その後も何度もひどい目にあわされてきました。だから、貴族を信じたり頼ったりすることは出来ません。それが、僕たちです」


 ティトはすまなそうに小さな声で語った。


「何と言うか。すまない、ティト」

「アルのせいじゃありません。気にしないでください」


 なんとなくいたたまれない気分になってしまったアルフレッドに、ティトは激しく首を横に振った。


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