第41話.イーリスの遺跡①
リカードの屋敷を後にした二人は、いったん隠れ家に戻って武器や魔法道具を持てるだけ持つと、その足でペスカーレ湖を目指した。
馬を駆ってフォートミズから急行すること3日。
ルイスとティトは、イーリスの古い研究施設があると言うペスカーレ湖のほとりまで来ていた。
「たしか、ロレーヌ川の源流から東だったな」
「はい」
ルイスが言うと、ティトは小さな滝となってロレーヌ川に注いでいる水のせせらぎに目を向ける。
雨が降れば、もっと大量の水が川に流れ込むだろうが、今はそれほど雨の多い季節ではない。そのため川へと流れ込む水量はさほど多くはなかった。
川の向こう、ペスカーレ湖の西側には広大な森が広がっている。その森は、ザーレフェルトの森と呼ばれていて、ここからフォートミズのすぐそばまで届くほどに広い。
反対側、ペスカーレ湖の東側は山岳地帯となっていて、ずっと東に行くと
ルイスとティトは、東へ。山の方へと向かって行った。
「おいおい、崖なんて見当たらないじゃないか?」
しばらく東に進んだところでルイスが不機嫌そうに口を開く。
「おかしいですね。アルがでたらめを言っているとは思えませんし、どうなっているんでしょうか?」
そう言いながらも、ティトは足を止めずに東へと進んでいく。そんなティトを見て、ルイスは小さなため息を一つつくと、諦めたように後を追った。
それから10分ほど東に歩いたところで、ティトはようやく足を止めた。
「もしかして、この川ってことはないですよね?」
ティトが見つめる先には、細い小川が流れていた。先ほどのロレーヌ川の源流と比較してもあまりにも小さい。
それでも、しっかりとした流れがあり上流はペスカーレ湖の方へと続いていた。
「いや、そのもしかしてかもしれん。見ろ、その小川を中心に地面が少し低くなっていると思わないか? それに、木や草の生え方も、この辺りだけ違う」
「そう言われると、確かにそうですね」
ルイスに言われたティトも、辺りを見回して頷いた。しかし、ルイスの言っている意味が、分かっていないのか、少し不思議そうな顔をしている。
「ここからは俺の推測だが、昔のロレーヌ川はこっちだったんじゃねぇか? それが地殻変動とか地形の変化で今の流れに変わったとは考えられねぇか?」
ルイスの言葉にティトは目を見開くと、興奮したようにルイスを振り返った。
「そうです! さすが兄さん。イーリスが生きていたのは何百年も前のことです。その頃なら、川の流れが今とは違っていても不思議じゃありません」
「てことは、この小川を
「そこにイーリスの研究施設があると言うことですね」
最後はルイスの言葉を引き継いで、ティトが破顔する。ルイスも、口の端をあげながら嬉しそうに頷いた。
そこからは、ルイスの予想に従って進路を取った。
しばらく歩くと、ルイスとティトは、崖の中腹に大きく口を開いた横穴の入り口を見つける。
「あれか?」
ルイスは崖の中腹、下から5メートルほどの高さにある横穴を見上げた。
切り立った崖とはいえ、横穴までは、飛び出した岩や、岩の隙間などがある。それらを足掛かりにすれば容易に登れそうだった。
「先に行くぞ」
そう言うと、ルイスは軽い身のこなしで、ひょいひょいと崖を登って行く。
「ティトちょっと待て」
すぐに横穴に辿り着いたルイスは、その場にしゃがみ込んで入り口を念入りに調べながら、登ってこようとするティトを制止した。
「もういいぞ、ティト」
しばらく調べた後、ルイスは横穴から顔を出して、崖の下のティトに向かって呼びかけた。
ティトも、ルイスと同じように軽い身のこなしで崖を登る。
「何かありました?」
ルイスの隣に立ったティトが聞くと、ルイスは足元を顎で指した。
「そこを見ろ。俺たち以外の足跡がある。まだ新しい。おそらく、ここ数日以内のものだ」
「本当ですね。アルたちでしょうか」
「だったらいいんだけどな。そうじゃない気がする。いずれにしても警戒しておいた方が良さそうだ」
そう言うと、ルイスは、もう足跡への興味を失ったのか洞窟の奥へと足を踏み入れた。
洞窟は幅2メートル、高さ2メートルに満たないほどで、背の低いルイスは問題無いが、背の高いティトは少し屈んで進まなければならなかった。
「
「どういうことですか?」
ルイスとティトは、注意深く洞窟を観察しながら奥へと進む。
「この洞窟、入り口からずっと緩やかな登りになっているだろう。雨水などが奥へと入り込まないようになっている。しかも、洞窟の高さも幅も一定だ。自然に出来た洞窟とは考えにくい」
「確かにそうですね。では、やはりここはイーリスの?」
「ああ、その可能性は高そうだな」
そう言ったルイスだが、その顔が曇った。
入り口からおよそ20メートルほど。ルイスの目には洞窟の行き止まりが映っていた。
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