第42話.イーリスの遺跡②
「なあティト。途中に何かあったか?」
「いいえ」
洞窟の入り口からは遠く、光はほとんど届かないものの、夜目の効く二人にとっては、ギリギリ見える明るさだ。
ここまで来る途中に、研究施設へとつながる入り口などがあれば、二人が気付かないはずがない。
「ティト、
「はい」
ティトは鞄の中から、ランプ型の小さな魔石灯を取りだして
弱い光が洞窟の中を照らし出した。
二人は手分けして、魔石灯によって照らし出された洞窟の壁や天井、地面を調べていく。
「くそっ、足跡しか見つからねぇ。ティト、何か見つかったか?」
「こっちも、それらしい手掛かりはありません。足跡はたくさん残っていますが、どうやら何かを探しているように見えます」
「そうだな。そして、この足跡の主たちは、何も見つけられなかったと見える」
二人は、洞窟の奥から念入りに調べ始め、結局入り口の近くまで戻って来ていた。
「何かを見落としているのでしょうか?」
「分からねぇ。だが、この足跡の数からして、ここに何かあるのは間違いなさそうだな」
そう言うとルイスは、もう一度、洞窟を調べ始めた。
すぐにティトもそれに
半分ほどのところまで来た時、ルイスは動きを止めた。
その尻尾がピンと上に向いている。
「何か見つけました?」
そんなルイスに気付いてティトが問いかけた。それでも、しばらくじっとしていたルイスだが、やがてティトの方に振り返った。
「かすかに、空気が流れている」
呟きに近い小さな声でルイスはそう言った。
「なあ、ティト。煙玉持ってるか?」
「あ、はい。もちろんです」
「一つくれ」
ティトは頷いて、ポケットの中から小石ほどの白い球を取りだすと、ルイスに手渡した。
「でも兄さん、煙玉では、煙の量が多過ぎませんか?」
「まあ、そうだが?」
「空気の流れを調べたいなら、もっといい方法があります」
「そうか。そういうことなら、お前に任せる」
ルイスはそう言うと煙玉をポケットに突っ込んだ。
ティトは嬉しそうに笑うと、鞄から3つの小瓶を取り出した。一つの小瓶には透明な液体が、そして二つ目の小瓶には白い粉が入っている。
最後の小瓶は
ティトは空の小瓶の蓋を開けると地面に固定する。
その小瓶に、別の小瓶に入っていた白い粉を少し入れた。最後に、透明な液体の入った小瓶の蓋を開けると、先ほどの小瓶の中にその液体を
液体と粉が混ざると、シュワシュワというかすかな音と共に、小瓶の中から勢いよく白い煙があがった。
その煙は洞窟の壁の方へと流れて行って、岩壁の一点に吸い込まれていく。
「そこか!」
「はい」
二人は、煙が吸い込まれた部分を調べる。
「ここに、わずかですが切れ込みがありますね」
ちょうど煙が吸い込まれた辺りに、ほんのわずかだが切れ込みが入っている。それは完全な直線で、自然に出来たものでは無いことが
二人は、小型のナイフを取り出すと、その切れ目に刃先を差し込んだ。
「扉……だろうな?」
「扉ですね」
一通り作業を終えた二人は、壁に刻まれた切れ目の
「これ、どうやったら開くのでしょうか?」
当然、押してみたのだがびくともしない。どこを押しても開く気配は無かった。引いてみようと思ったが、取っ掛かりが無いため引くことは出来ない。
ただ、煙が吸い込まれて行ったからには、この向こうに何らかの空間が広がっていることは疑いようも無かった。
「近くに、ここを開く仕掛けがあるはずだよな?」
ルイスは、長方形の切れ目を中心に、周囲の岩壁を調べる。
丁寧に、念入りに調べていく。さらに、視覚だけに頼らず、岩壁に手を這わせていった。
「あった!」
ルイスが珍しく弾んだ声をあげた。
「ここだけ幻覚の魔法がかけられているな」
そう言うルイスの指は壁の中に埋まっているように見えた。
実際に触っているルイスには、岩壁のその部分だけが
「そこに何があるんですか?」
「指1本分の穴だな。罠は分からんが、これだけ巧妙に隠されているんだ。大丈夫だろう。だが、何が起こるか分からん。ちょっと扉から離れていろ」
ティトは神妙な顔で頷くと、扉を思われる長方形の切れ目から大きく距離を取った。
「よし、やるぞ」
ティトが頷くのを確認すると、ルイスは思い切って穴に指を突っ込んだ。
穴の奥に指があたるが、さらに奥へと押し込めそうだ。
ルイスは意を決して、さらに指を押し込んだ。
カチッという小さな音がする。
そして、すぐその後に鈍い音を立てながら、長方形の切れ込みが岩壁の奥へと沈んでいく。
ある程度、壁の中へと沈んだところで今度は横にスライドしていった。数秒後には、長方形の切れ込み部分に、ちょうど人ひとり通れそうな大きな穴が
「よし、罠は無さそうだな。入ってみるか」
ルイスは中へと足を踏み入れた。
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