第40話.脱走②
ティトは扉の前にしゃがむと、ドアノブの辺りを調べる。
鍵穴は無い。
ドアノブは回るが、当然のように扉は開かない。ドアと壁の隙間に、ピッキング道具の細い金属を突っ込んで慎重に調べる。
鍵の構造は分かった。
しかし、ティトは首を振りながらピッキング道具を引き抜いた。
「兄さん、こちら側からピッキングで鍵を開けるのは出来そうにありませんね」
「ほぉ、さすがは領主様の館ってところか。じゃあ、扉を破るのは無理か?」
そう言ったルイスは、ほんの少しだけ楽しそうに口の端をあげた。
「無理ってわけではありません。ただし、扉を破壊することになります。その際、大きな音を立ててしまうと思います」
「音か。まあ、それくらいは仕方ないんじゃないか?」
「でも、そうなると、すぐに見つかってしまいますよ? それより、誰かが食事を持ってきた時に、ファンガスの眠り粉で眠らせて逃げた方が確実でしょう?」
「それだと時間もかかっちまうし、なんだか負けたみたいで気に入らねぇんだよな。大きい音を出してもいいから、ドアを破壊してくれ」
「もう、兄さんは、どうやって扉を破壊するか興味あるだけなんじゃないですか?」
そう言うティトに、ルイスは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「分かりました。ちょうど先日迷宮で仕入れたヘルハウンドの牙もあることですし、これを試してみようと思います」
「ん? そんなもの持ってきていたか?」
ルイスが聞くと、ティトは先ほどテーブルに置いた赤い粉末の入った小瓶をポケットから取りだして、ルイスの目の前に持ち上げた。
「それが、ヘルハウンドの牙か?」
「はい。ディックさんの家で待っている時に、粉末状に加工しておいたんです」
ルイスは、小瓶を受け取ると、まじまじと見つめた。
「それで、これをどう使うんだ?」
「ヘルハウンドの牙の粉末は、魔力を加えて強い衝撃を与えると爆発するという特性があります。それは、少量でもかなりの威力になるはずです」
ティトは、先ほどファンガスの眠り粉を用意するために、銃弾の
そして、ピッキング道具の一つ、小さな金属棒で慎重に混ぜ合わせた。
「
先ほどクッションを割いてとっておいた
その
「これくらいで大丈夫そうですね」
ティトは、粉末を絡ませた
しばらく、金属棒でドアの隙間を
「兄さん、そのドアを思いっきり蹴って頂けますか? 衝撃でヘルハウンドの牙が爆発して鍵の部分が吹き飛ぶはずです。ただし、あまりドアノブの近くを蹴ると兄さんの足が吹き飛んでしまうかもしれませんので、注意してください」
「注意してくださいって、おまえなぁ。危ねぇだろ」
「ドアの真ん中あたりなら大丈夫ですよ」
ティトは、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ちっ。そろそろいくぞ」
ルイスは、ティトが頷くのを待って、言われた通りドアの真ん中を思いっきり蹴り飛ばした。その瞬間、大きな爆発音とともにドアノブの下あたりが吹き飛んで、ドアは大きく外側に開いた。
ルイスは急いでドアの外へと出ると、驚いて目を見開いている見張りの鼻先でファンガスの眠り粉を含ませた綿をぽふっとする。
「貴様ら、どうやって……」
見張りの男は最後まで言えないまま、その場に倒れた。ファンガスの眠り粉がしっかり効いたらしい。
「ティト、行くぞ」
ルイスはそう言うと、振り向きもせずに廊下を走る。
連れて来られた時に、この階の構造は把握している。窓は多くないがこの先に一つ大きめの窓があるはずだ。
三部屋分ほど廊下を進むと、目を付けていた大きな窓の前に来る。
ルイスは、窓を開くと、アラクネの糸の端を窓枠に張り付けて、地上3階の高さから
アラクネの糸はその伸縮性を充分に発揮して、ルイスの落下速度を緩める。
地上に近づいたところでアラクネの糸から手を放して、無難に着地する。すぐにティトも続いてルイスの隣に着地した。
「追って来ませんね」
「ああ、そうだな。でも、好都合だ。このまま逃げるぞ」
ルイスとティトは、顔を見合わせると、貴族街の外壁を目指して走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます