第14話.シュテルナー公爵③
二人は、明かりの漏れている扉に近づく。
そして、ルイスはティトに目配せすると軽く扉を叩いた。
コンコンと、音を立てる。
中の気配が動くのが分かった。
ルイスとティトは扉の左右に分かれて壁に背中をくっつけるようにして息をひそめる。
扉が開かれ、中から顔を出したのは若い女だった。
休む直前だったのか、女は薄い夜着姿だ。
ルイスは、気付かれる前に女の口を塞ぐと、そのまま部屋の中へと押し込んだ。
そして扉のすぐそばの壁に押さえつける。
すぐにティトも部屋に入って、扉を閉めた。
「騒ぐな!」
ルイスは押し殺した声を出す。
そして、腰の短剣を抜くと、女の目の前にちらつかせた。
「騒いだら殺す! いいな?」
女はこくこくと首を縦に小さく振った。ルイスは少しだけ女の口に当てた手を緩めた。
その部屋はとても狭かった。
幅2メートル、奥行きも3メートルほどしかない。
奥に小さな細長いベッドが置いてあるだけで窓も無かった。ベッドの他には小さなハンガーラックが一つあるだけだ。
そこにはメイド用のものらしき服が3着ほどかけられている。
明かりは、壁に掛けられた小さなランプが、弱い光を放っているだけだった。
「今から聞くことに答えれば、危害は加えない。いいな? でかい声は出すなよ」
ルイスの言葉に女は、再びこくこくと首を縦に振った。
女は怯えた目をしていたが、それほど取り乱していない。こいつは当たりかもしれない。ルイスはそう思った。
場合によっては、暴れたり取り乱したりして話を聞けないこともあるのだ。
「ここ四日以内に、若い娘がこの屋敷に連れて来られたはずだ。知っているか?」
ルイスは女の目を覗き込むように訊ねる。だが、女は小さく首を横に振った。
「そうか、じゃ、もう一つ聞くがこの屋敷に牢はあるか? もしくは人を監禁できそうな部屋でもいい」
女は、大きく頷いた。
「どこだ?」
ルイスは女の口から手を放す。
「こ、この建物にはありません。東の高い塔の下。そこが地下牢への入り口です」
女は震える声で、しかしはっきりと答えた。
「他に牢はあるか?」
これには小さく首を振った。
「そうか。怖い思いをさせて悪かったな。すまないが少し眠ってくれ」
ルイスがそう言うと、すかさずティトが霧吹きのようなものをプシュッと女の鼻先に噴きかけた。
驚いた女が一瞬目を見開くが、ほんの数秒後には目を閉じて規則正しい寝息を立てる。
「おっと」
力が抜けた女の体を抱き上げると、ルイスは丁寧にベッドの上に寝かせる。
女に噴きかけたのは、ファンガスの眠り粉を材料にティトが開発した眠り薬で、このように即効性がある。しかも、ちょっとやそっとでは起きない。
「東の塔だ」
ルイスが言うと、ティトは小さく頷いて、ランプの
闇が訪れると、二人は扉をしめてそっとその場を後にした。
先ほどの通用口から外に出て東を見上げれば、女の言ったように高い塔が見える。
「あれか」
その塔までは30メートルほどの距離だった。
ここから、東の塔までは
しかも、牢があるのなら警備兵くらいは、いるだろう。
二人は北から回り込むことにした。
そちらからなら、建物の影を伝って近づける。
東の塔のすぐそばまで来る。
塔の入り口までの距離はおよそ5メートル。別の建物の影に身を隠しながら様子を伺う。
塔の入り口には見張りが二人。
どちらの兵士もやる気無さそうに立っている。
ルイスは、身振りで『俺が奥のほうをやるから、お前は手前の兵士をやれ』とティトに伝えた。
ティトが頷くと、ルイスは左手の指でカウントダウンを開始した。
3、2、1
ルイスは、建物の影から躍り出ると、身を低くして全力で疾走する。
もちろん、すぐ後ろにティトも続いている。
ルイスは一瞬で奥にいる兵士との距離を詰めた。驚きで、声を失っている兵士の腹へと膝の一撃を入れる。
痛みでくの字に
ほんの数秒で、その兵士は意識を失って崩れ落ちた。
一方のティトは、走りながら手前にいる兵士に向かって、針のようなものを投げつける。
三本投げたうちの二本が兵士の太腿に刺さった。
その直後、兵士はバランスを崩してその場に倒れる。
ティトの針にはラミアの毒腺から抽出した痺れ毒が塗ってある。そのせいで兵士の身体は麻痺したのだ。
そこへ駆け寄ったティトは、急いで兵士の口を押え、先ほども使ったファンガスの眠り粉を兵士に噴きかけた。
数秒でその兵士は大人しくなる。
念のため、ルイスの方の兵士にもファンガスの眠り粉を吹きかけておく。
少し物音は立ててしまったが、兵士が駆けつけてくる気配は無い。
ティトは再びピッキング道具を取り出して、扉に取り付いた。
ルイスは、その間に倒れた兵士を引きずって目立たないところへと運ぶ。
ルイスが兵士を片付けた頃には、扉の鍵は開いていてティトが中の様子を伺っていた。
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