第50話.イーリスの遺跡⑩

「もしかして、これって……イーリスの収納庫ランジュールかもしれません」


 ティトは驚きを隠せないといったように目を見開いて、かすれるような小さな声で呟いた。腕輪ブレスレットに伸ばそうとした手が震えている。


「ランジュール?」


 はじめて聞く言葉に、ルイスは首を傾げた。


「はい。魔女イーリスの最高傑作とも言われ、世界に数えるほどしか存在しないとされている魔法道具です。空間魔法のすいを極めたもので、どんなものでも別の空間に保管できるらしいです」

魔法の袋マナバックとは違うのか?」

「あれは、空間魔法により袋の中の空間を拡張して、通常よりも多くの物が入るようにしたものです。イーリスの収納庫ランジュールは、この小さな腕輪ブレスレット一つで魔法の袋マナパックの何倍もの物を入れることが出来るうえに、まったく重さを感じないらしいんです」


 ティトは、興奮したように尻尾を高くあげて熱っぽく語る。それを聞いてルイスも、その価値が分かったのか興味を示した。


「そいつは、すげぇな。それで、使えるのか?」

「どうでしょう。まだ、収納庫ランジュールと決まったわけではないのですが。でも、ちょっと調べていいですか?」


 ルイスが黙って頷くと、ティトはかすかに震える手で、銀の腕輪ブレスレットを手に取った。慎重に、それを観察していく。

 幅が1センチに満たないほどの細い腕輪ブレスレット

 外側だけでなく、内側にもびっしりと魔術式が刻まれている。ティトが拡大鏡ルーペを使って、なんとか見えるほどの小さな文字だ。

 その中で、いくつか理解できる魔術式や言葉を見つけた。


「どうやら、ほんとうに本物かもしれません。試してみていいですか?」

「危険がないなら」

「大丈夫だと思います」


 そう言うと、ティトは少しルイスから離れて、銀の腕輪ブレスレットを右腕につける。そして、深呼吸をするように大きく息を吸った。


『ウヴェール』

 

 ティトは腕輪ブレスレットに刻まれていたキーワードと共に、右手にはめたそれに魔力を注ぐ。

 すると、ヴォンという空気を震わすような音がして、目の前の空間がゆがんだ。そして、立体映像のように半透明の黒い箱のようなものが目の前に現れる。


「おわっ、なんだこれ?」


 突然現れた黒い箱にルイスは飛び退いた。


「これが、収納庫ランジュールですよ。聞いていた話よりだいぶ小さい気がしますが、確かにこれはイーリスの収納庫ランジュールです。しかも、何か道具が入ってます。これは、きっと魔女イーリスの持ち物ですよ」


 ティトは熱い視線で目の前の黒い箱を覗き込みながら、興奮を隠せないでいた。まくし立てるように言葉を重ねるティトに、ルイスは若干引き気味に苦笑を浮かべる。


「すごいです。何百年も前のものなのに、まったく劣化れっかが見られません。それにこの数。何に使うか分からないものがほとんどですが、それを調べるのも楽しみです。もしかしたら、すごい魔法道具も入っているかもしれません」

「ティト、嬉しい気持ちは分かるが今はアミーラを助け出すのが先だ。その収納庫ランジュールってやつは、持って帰ってもいいが調べるのは後にしろよ」

「はい。もちろんです。そうだ! 兄さん、ここにある魔法道具もこの中に入れて持って帰っていいですか?」

「ああ、いいけど。急げよ」


 ルイスは、ちょっとだけ呆れた顔をしたが、それでもティトを手伝って、いくつかの魔法道具を黒い箱の中に収める。

 ティトが先ほど見つけた、ダークブラウンのフード付きローブも一緒に詰め込んだところで、あらかためぼしい物は箱に入れたはずだ。

 と言っても、封魂結晶アニマ・クリュスのあった棚以外には、そのほとんどが傷んだり風化して使い物にならなそうなものだ。

 そのため、収納庫ランジュールに入れた魔法道具は、10個にも満たなかったのだが、それでもティトは嬉しそうだった。


『フェルメ』


 再びティトがキーワードを唱えると、その黒い箱は、出現した時と同じ様にヴォンという空気を震わせるような音を残して、虚空に消える。


「消えちまった」

「大丈夫です。どういう仕組みになっているのかは分かりませんが、この魔法道具があればいつでも呼び出すことが出来ます」


 ぼそっとつぶやいたルイスの言葉を拾って、ティトが説明する。


「それに、どうやればいいのかまだ分かりませんが、先ほどの黒い箱みたいなのを出現させなくても、道具だけ出し入れ出来るという話を聞いたことがあります」

「それはいいな。それが出来るようになれば、その長くて嵩張る長距離射撃用魔銃アキュラスを持ち歩かなくてもいいってわけか」

「はい。そうです!」


 そう返事をしたティトの声は弾んでいた。


「よし、もう何も残っちゃいないし帰るか」


 ティトが満足したのを見届けると、ルイスはそう言って返事も待たずに出口へと向かう。慌ててティトもルイスを追った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 当物語の主人公、ルイスとティトが活躍する

 別の物語がスタートしました。

 カクヨムコン9応募作です。

 もしよかったら応援してください。


 怪盗ナバーロと『パナケアの3つの秘宝』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330667342272733


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ここまで読んで頂きありがとうございます。


 ついにルイス達は封魂結晶アニマ・クリュスを手に入れました。

 これでアミーラを救い出すことができるでしょうか?


 収納庫ランジュールって、アイテムボックスだよね?

 ルイスの洞察力、かっこよかった。

 アルフレッドは共闘しないの?


 と思ってた人

 ★評価やフォローを頂けると嬉しいです。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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