ツインズソウル2 ~怪盗ナバーロと封魂結晶~
ふむふむ
怪盗ナバーロ参上
第1話.怪盗ナバーロ参上①
ラヴィアルという町にある領主の屋敷。
スタンレー伯爵家には、今、300人を超える異例の警備体制が敷かれていた。
300人というのは、この町の兵士全員とほぼ同じ数。つまり、今の警備体制は
これだけ物々しい警備体制が敷かれているのには訳があった。
それは三日前に届けられた一通の予告状に
その予告状には、こう書かれていた。
『月光の絶える夜、火竜の瞳を頂きに参上する 怪盗ナバーロ』
予告状にある火竜の瞳というのは、スタンレー伯爵が、領民達に重い税をかけて、やっとのことで手に入れた希少な宝石で、拳大ほどの大きさのスタールビーのことだ。
透明度が高く、石の中に現れた星のような模様のうち、縦のラインが
その模様のせいでドラゴンの目のように見えるところから火竜の瞳と名付けられた。
そして、この予告状が指している月光の絶える夜というのは、月が見えなくなる新月の夜。
つまり今夜のことだ。
「これだけの警備だ。いかに怪盗ナバーロが凄腕の泥棒だとしても、侵入は不可能であろう」
警備の中心。
屋敷の5階にある宝物庫、いやコレクションルームと言うべきか。
その中央に場違いの安楽椅子を持ち込んで、でっぷりと肥満した体をその椅子に沈める中年の男。その男が、周囲の警備兵たちを見まわして満足そうに頷く。
彼こそが、屋敷の主。スタンレー伯爵であった。
「はっ。もちろんでございます」
右側に立つ長身の男が、伯爵の方へと向き直り、右手の拳を自分の左胸にあてる。この国で言うところの敬礼の姿勢を取って答えた。
「これだけの人数です。ネズミ一匹、入り込む隙はございません」
「うむ、そうであろうな」
伯爵は、たるんだ
「しかし、イアンよ。怪盗ナバーロとやらは、変装も得意だと聞く。よもや、この兵士達に紛れ込んでいるということはあるまいな?」
今度は少し声を低くして、疑いの視線を兵士達に向ける。
彼はコレクションルーム全体を見まわしたかったようだが、顎と腹の肉が邪魔をして、半分も見まわせなかった。
そんな
「そこは問題ありません。ここに居る者たち全員は、このイアンめが一人一人確認しております」
「そうか、それならば問題無いな」
「外に居る兵士達におきましても、信頼のおける者が、身体検査までして確認しておりますゆえ、いかに変装の名人と言えど紛れ込むなど不可能でございます」
「そうか、そうか」
自分の言葉に満足そうに頷く伯爵を見て、イアンは調子に乗ってさらに声高に述べる。
「それに、肝心な火竜の瞳をスタンレー様
「そうであった。確かに。儂がこれを握っている限り、盗むことなど出来ぬであろう」
スタンレー伯爵は自分の手の中にある火竜の瞳に視線を落とすと、自信ありげにニヤリと口の端をあげた。
「ナバーロめが。調子に乗って予告状など出しおるから墓穴を掘るのだ。いつ来るか分かっておれば、防ぐことなど容易いわ」
伯爵は、安楽椅子に深く座ったまま、腹を揺すって笑った。
既に盗みを阻止したような気分にでもなっているようだ。
「なあ、伯爵様。ちょいとおいらにも火竜の瞳ってのを見せてくんねぇかな」
イアンの反対側。伯爵の左を守っている小柄な男が、伯爵の手元を
「こら、ジャクソン。無礼だぞ」
「まあ、よいではないか。イアンよ」
イアンは、小柄な男ジャクソンを
「どうだ? これが火竜の瞳だ!」
伯爵の手の上には、拳大の紅い宝石が乗っている。
それは、透明感のある輝きを放ち、縦に一本、濃い真紅のラインが入っていた。
「おぉ。これが!? すげぇっすね」
もっとよく見ようとしたのか、ジャクソンは、その宝石に右手を伸ばす。だが、それに届く寸前、イアンにぴしゃりと手を
「ジャクソン、調子に乗るな」
「ちっ。すいやせん」
ジャクソンは右手を引っ込めると、ちょこんと小さく頭を下げる。そして、引っ込めた手を耳の辺りに持ってくると軽く耳たぶにさわった。
「まったく貴様は、いつもそうやってふざけて」
「まあ、そう言うでない。ちょっとした
「しかし、伯爵様。そんな甘いことを言われては、こやつがまた調子に乗ってしまいます」
機嫌が良さそうに腹を揺するスタンレー伯爵に、イアンは苦い顔をする。それを見たジャクソンが勝ち誇ったような顔をした。
イアンが気付いて、文句を言おうと口を開いた瞬間、ガラスが割れる音が部屋に響いた。
驚いたスタンレー伯爵が慌てて、火竜の瞳を両手で握りこみ、まるで腹の肉に隠すように腕を引く。
イアンは、すすっと伯爵を背後に
ジャクソンも右手を剣の柄にかけ、周囲を睨みつけた。
部屋に二つあった
「ナバーロのやつかもしれん」
誰かが叫び、にわかに室内の緊張が高まる。
そこへ再びガラスが割れる音。
直後に、部屋は闇に包まれた。
二つ目の魔石灯が壊されたのだ。今夜は新月。月明かりも届かない部屋の中は、ほとんど何も見えなかった。
さざ波のように、兵士たちのどよめきが広がる。
「誰か、灯りを! 誰か居ないのか?」
そう叫ぶ声が部屋の中に響く。
「
誰かが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます