第62話.アミーラ奪還作戦⑤
ルイスもティトも、その異常な光景に動けないでいた。
苦しそうにうめく兵士から目が離せない。
兵士たちの皮膚は
そして、強烈な腐臭が辺りに広がった。
髪は、束になって抜け落ち床に広がる。
生気の無かった目からは、完全に光が消え、
背中からは、その背骨に沿って棘の様に尖った骨が何本も皮と服を突き破り露出する。
そして、立ち上がると『ゔゔぅゔぅ』という不気味なうめき声を発しながらルイスとティトに向かってゆっくりと歩きだした。
苦しみだした兵士たちの中で、ただ一人、他とは違う変化をした者がいた。
シュテルナー公爵だ。
その皮膚は光沢のある漆黒に変化し、皮膚の下には筋肉が盛り上がっていく。
頭には2本の角が生え、鋭い犬歯が口から伸びる。耳がとがり、既にシュテルナー公爵の面影は残っていない。
背中からは、皮膚を突き破って一対の
「何だ、こいつらは」
ルイスは特にシュテルナー公爵だったものに嫌な予感を覚え、レラに背中を向けると、急いでティトとアミーラの元へと走った。
ティトとアミーラも、恐怖に駆られていた。
ティトにより、足を氷漬けにされた兵士たちも例外なく、外見を異形の姿へと変貌させている。
そして、その異形の者たちは凍った足を意に介さずティトへと迫ろうとした。
氷で縫い付けられている足が折れる。
氷が砕け足がもげるのも気にせずに、一歩一歩前に出る。当然、もげた足ではバランスを崩し、その場に倒れるがそれでも這うようにしてティトとアミーラに迫っていく。
『ゔゔぅゔぅ』
うめきながら、数体の異形が這いずりながらティトの足元へと近づいた。
「ひっ……」
アミーラが息を飲むように小さな悲鳴をあげた。
ティトは、槍の石突を床に突き立てると、魔力を振り絞る。
「はあああっ」
再び、石突を中心に氷が床に広がっていき、異形の者を巻き込むとパキパキという音を立てながら凍らせていく。
全身を凍らせたところで、さすがの異形も動きを止めた。
「ティト、アミーラ。大丈夫か?」
そこへ、ルイスが戻ってくる。
「はい。かなり驚きましたが大丈夫です。しかし、あれは何なんですか?」
「分からねぇ。だが、あのレラってやつの
「どうします? 逃げますか?」
「ああ。アミーラも取り戻したし、もうここには用はない。ティト、先にアミーラを連れて逃げてくれ。俺が奴らをくい止める」
「分かりました」
ティトは、ルイスに頷いて見せるとアミーラの手を引いて広間の出入り口へと向かう。そのティトを後ろから一つの火球が追い抜いていった。
そして、派手な音を立てて出入り口のそばの天井をぶち抜いた。
上からは、大量の瓦礫が落ちてくる。その大量の瓦礫は、出入り口の前にうず高く積みあがり、すっかり出入口を塞いでしまった。
「閉じ込められた!?」
ティトは火球が放たれたほうを振り返る。
そこには、すっかり変わってしまったシュテルナー公爵の姿があった。そこからは、
「兄さん!」
「ああ、分かっている。どうやら、そう簡単には逃がしてくれんらしいな」
ルイスは再び、2本の短剣を構えると、シュテルナー公爵だったものを見据える。ティトのほうを振り向く余裕はなかった。
「他の異形の者たちはたいしたことなさそうだが、あいつだけは別みたいだ」
多くの異形の者は、自我が無くただレラの命令に従ってルイス達を襲っているように見えるが、シュテルナー公爵だった者だけは違う。
はっきりとした意志のようなものを感じた。
「あら、あれだけの数の実験体がいたのに、成功したのは一体だけだったようね。しかも
レラは、周囲を観察しながらゆっくりとしゃべる。その淡々とした声と顔からは、何の感情も読み取れなかった。
「まあ、いいわ。それでも、一体は成功したわけだし、それなりにいい
シュテルナー公爵だったものに視線を向けたレラは妖艶な笑みを浮かべる。
ルイスが理解できたのは、この異形がやはりレラの仕業だと言うことと、シュテルナー公爵以外は失敗だったということくらいだった。
その成功したシュテルナー公爵でさえ
ルイスの目には、その
「その二人なら、いい実験体になりそうね。次の実験に使うから、生きたまま捕えなさい」
レラがそう言うと
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