怪盗ナバーロと封魂結晶
第18話.潜入準備①
フォートミズに戻ったルイスとティトは、その足で貴族街の入り口を目指した。
フォートミズの貴族街は、二重の外壁に囲まれている。一つはフォートミズの街そのものを囲む外壁で、もう一つは貴族街だけを囲む外壁だ。
だから、貴族街に入るには、貴族街を囲む外壁の中へと入る必要がある。
その唯一の出入り口が貴族街の西にある門だった。
現在は通行証を持つ者しか、門を通ることは出来ないこととなっているらしい。
そして、当然と言えば当然なのだが、ルイスとティトは通行証を持っていなかった。
「さて、どうやって入りますか?」
「そうだなぁ。どうすっかなぁ」
二人は貴族街へと続く門にほど近い、宿屋兼食堂の二階にある、ちょっとおしゃれなテラス席で食事を取っていた。
ここからなら貴族街の門がよく見える。
ティトは、ちらちらと門の方を見ながら、皿の上にある腕ぐらいの太さのソーセージを、上品にナイフで切り分けていた。
一方のルイスは、門の方には見向きもしないで、分厚い骨付き肉と格闘している。
それを見たティトがちょっと不満そうに頬を膨らませた。
「もう、兄さん。少しは真面目に考えてください」
「飯を食ったらな。焦ってもいい考えは浮かばねぇよ」
「まあ、そうなんですけど。でも、何か考えがあって、この店に入ったんじゃあないんですか?」
なおも食い下がるティトの言葉には答えず、ルイスは豪快に骨付き肉にかじりついた。
「もう……」
それを見て、ティトは諦めたのか再びソーセージの切り分け作業に取り掛かる。
このソーセージは、この店の名物料理らしい。らしいと言うのは、メニューにそう書いてあったからだ。
ルイスとティトがこの店に入ったのは、今日が初めてだ。
ルイスは門のそばまでくると、周囲を見回した後に迷わずこの店に入ったのだ。
その後は、ルイスが店主に金を握らせて交渉し、このテラス席を確保した。そして、テラス席に座ると、『まずは腹ごしらえだな』と言って、料理を注文したのだった。
ティトは、ここから門を観察するものと思っていたが、ルイスはそれほど門を見る様子も無く、料理が来るとガツガツと食べ始めたのだ。
そして、今に至る。
それでも、ティトは兄に何か考えがあって、ここで食事を取っているということは疑っていなかった。
「はあ。食った食った。魚の方が良かったが、たまには肉も悪くないな」
しばらくすると、ルイスはそう言って満足そうに腹を撫でながら椅子にふんぞり返った。
そして、給仕を呼ぶと二人分の紅茶を追加で注文する。
ティトの方はといえば、まだソーセージが半分ほど残っていた。門の方をちらちら気にしながら食べていたからだろう。
慌てて、自分も食べようとするティトにルイスは笑顔を向ける。
「ゆっくり食べていいぞ。まだ動くつもりはないからな」
「はっ、はい。すみません……」
「いや、ほんと、急がなくていいからな」
そう言うと、ルイスは門の方へと視線を向ける。
それほど多くの人々が門を出入りしているわけではないが、それでもちらほらと門を通っていく者はいる。
門を守る兵士が、いちおうは通行証を確認しているように見えるが、あまり厳密に確認しているわけではなさそうだ。
通行証をチラッと見せるだけで通っているケースがほとんどだった。
「出入りしているのは商人と、メイドや執事、それからあれは使用人か」
「そう言えば、兵士を見かけませんね」
「ああ、この時間はあまりいないな。もう少しすれば交代のために出入りが増えるんじゃねぇか」
ルイスは懐から懐中時計を取りだして、時間を確認する。
時計は、午後5時前を指していた。
「あと1時間ってところだな」
懐中時計をしまうと、先ほどテーブルの上に置かれたティーカップを手に取って、口をつけた。
ほんのりと爽やかな香りが鼻孔をくすぐるのを楽しみながら、再び門の方へと視線を送る。
「ティトはどれが良いと思う?」
「ほぇ?」
突然、水を向けられたティトは、驚いて間抜けな声をあげた。
ルイスは笑顔を見せると、言葉を変えた。
「なあ、ティト。おまえは、リード子爵家とオーティス男爵家がどこにあるか知ってるか?」
「知りません」
ティトは、首を振って答えた。
「だよな? 闇雲に貴族街に侵入したところで、場所が分からなきゃ無駄に時間がかかっちまう。だから、先に情報を集めようと思ってな。そのためには、あいつらに紛れて貴族街に入るのが手っ取り早いかと思ってな」
そう言って、ルイスは再び門を出入りする人々に視線を送った。
「なるほど。それで、何に変装して潜入するかって話ですね?」
「ああ、そうだ。商人に使用人、メイドはさすがに無理だから執事か。それに、兵士や騎士。どれにすっかなぁ?」
「それだったら、執事がいいんじゃないんですか?」
ティトは、しばらく尻尾を上下にゆっくりと振って考えるそぶりを見せていたが、ちょっと自信がありそうにそう言った。
「ほぅ。どうしてそう思う?」
「だって執事なら、屋敷の中を探し放題じゃないですか?」
「それは、リード子爵家かオーティス男爵家の執事が見つかればだな。今は、屋敷の場所すら分からないんだから難しいだろう」
「そうでした」
ルイスの説明にティトの尻尾はしゅんと下にさがってしまった。
「では、兄さんならどれを選びます?」
「そうだなぁ……。やっぱ兵士かな」
「どうしてですか?」
今度はティトの方が聞く番だった。
「理由はいくつかあるが、兵士の
「なるほど。さすが兄さんです」
「それに、兵士は人数が多いからな。入れ替わるのには都合がいい」
ルイスは再び、懐中時計を取りだして目を向ける。午後6時少し前だった。
「もうすぐ交代の時間だろう。そしたら交代の兵士がたくさん出てくるだろうから、
ルイスはそう言って、懐中時計を握りしめた。
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