第67話.決着

「逃がすな!」


 床に這いつくばったままのリカードが叫ぶ。だが、誰一人として空に逃げたレラを追える者はいない。


 全員が諦めかけたその時、背後ですさまじい魔力の高まりを感じた。

 アルフレッドが振り返る。


「リリィ!?」


 アルフレッドの目に映ったのは、全身に貯めた魔力がオーラの様に溢れだすリリアーナの姿だった。

 その目は、まっすぐに飛び去っていくレラの姿を見据えている。



其は神々の戦槍にしてve-・rua・paa・syu全てを貫くものなりdev・nie・lue・buu



 リリアーナは朗々とうたいあげる。

 アルフレッドが聞いたことない言葉。言語で。


「何……? これは!? 古代神聖語? 失われた魔法?」


 ココが驚き目を見開く。信じられないものを見るような目でリリアーナを見つめる。


 

其は地獄の業火にしてve-・Igue・nie・syu全てを焼き尽くすものなりdev・sepu・tie・muu


 朗々とうたいあげながら、リリアーナの体は逆巻く紅い炎に包まれる。


「ココ、リリィの援護を」


 リリアーナを見たリカードが何かを感じて叫ぶ。ココは、ハッとして、リリアーナの背後に回り、その後ろから彼女を支えるように自分の魔力を注いだ。


「ティト、お前の長距離射撃用魔銃アキュラスなら、あれに届くだろう?」


 ルイスは、飛び去っていくレラを睨みながらティトへと指示を飛ばす。

 ティトは、兄に頷くと前に出て長距離射撃用魔銃アキュラスを構えた。既に、アルフレッドから貰った弾丸は装填済みだ。


「あの黒い翼を狙え」


 ルイスの言葉とほぼ同時に、ティトはレラの黒い翼を狙って引き金を引いた。飛び去るレラの姿が一瞬だけ揺れる。だが、すぐに持ち直した。

 ほとんど足止めにならない。

 それでも、ティトは諦めずにレラへと長距離射撃用魔銃アキュラスの銃口を向けて、撃ち続けた。

 それが、少しでもレラの逃亡を遅らせると信じて。



我は乞うwoe・bee・gue我が力となりてwoo・pwre・shue敵を穿てzam・tim・por


 リリアーナは、詠唱を続ける。

 彼女のまとう紅き炎が、徐々に右手へと集まっていく。そして、遠く離れていくレラに向けて、その右手をかざした。


其は神の槍ve-・lue・bell来れvam・pie


 右手に集まった炎が光となって一度拡散する。 


神槍焔穿ルーベル・レイ


 その力ある言葉と同時に、拡散した光が、1本の槍の様に収束。

 そして、それは放たれた。


 空を貫く1本の真紅の光。

 細く、長く伸び。

 それはレラの体を貫いた。その光は、一瞬にしてレラの下半身を消滅させる。黒い翼を燃やし尽くし、なおまだ紅蓮の炎がレラの上半身を侵食する。

 そして、体を焼かれながらレラは落ちていった。




「やったのか……?」

「はい。おそらくは……」


 しばらくして、リカードが静寂をやぶり、ぼそりとつぶやく。その言葉に、ランドルフがなんとか返事を返した。



「終わったの?」


 誰かが言った時、リリアーナの体はぐらりと揺れ、その場に倒れた。


「リリィ!」


 慌ててアルフレッドが駆け寄る。リリアーナは憔悴しきった顔で荒い呼吸を繰り返していた。命には別状無さそうだが、かなり消耗していた。

 アルフレッドは、リリアーナの背中に手を回し、優しく支えている。


 全員がリリアーナの無事を確認すると、その場にへたり込んだ。

 それだけ、ぎりぎりの戦いだった。

 なんとか勝てたのは、レラが本気では無かったことと、あのリリアーナの魔法のおかげだろう。


 しばらく、全員がその場で放心したように、壁に開いた大穴から外を見ていた。





「なあ、リリィ。さっきの魔法は何だったんだ? ココさんが、『古代神聖語』とか『失われた魔法』とか言っていたけど」


 どのくらい経っただろうか。

 ようやくリリアーナの顔色が落ち着いたところで、アルフレッドが訪ねる。それは、その場の全員が気になっていたことだった。


「あれは、イーリスの記憶に残っていた、旧魔法文明時代の頃の大魔法なの」

「やっぱり!?」


 この中で最も魔法に詳しいココが真っ先に反応した。


「でも、よく制御できたわね。旧魔法文明時代の文献から、当時の大魔法を研究している人はいるけど、成功させたっていう話は聞いたことないわよ」

「それは、たぶん私が一人じゃないからかな」


 ココの言葉に、リリアーナは曖昧な表情で苦笑した。


「私とカティ。二人で魔法の構築と制御をそれぞれ分担したの。私は魔法の構築で、カティは魔法が暴走しないように制御するみたいな。難し過ぎて一人じゃとても無理なの。あとは、やっぱりイーリスの記憶のおかげってのが大きいかな」

「イーリスの記憶?」


 聞き返したのは、アルフレッドだった。リリアーナは、その胸に輝く真紅の宝石。封魂結晶アニマ・クリュスをそっと握る。


「そう。この封魂結晶アニマ・クリュスに残っているイーリスの記憶。彼女、ずいぶんとあの魔法の習得に苦労したみたいで……、そのやり方や制御方法、呪文詠唱なんかも鮮明に覚えていて……」

「そうだったんだな。それで、あんな大技を」


 アルフレッドは噛み締めるように頷いた。


「そうか……。イーリスに救われたのかもしれないな」


 アルフレッドは複雑な顔で、小さくつぶやいた。


「それでも、そう簡単に出来ることじゃないんだけどね」

「うん。だから、こっそり練習したの。それでも、イーリスの威力の半分も出なかったんだけどね」


 ココが小声で言うと、リリアーナは自嘲気味にそう言った。


「あの威力で半分かよ」

「まじか」


 ルイスとダニエルが信じられないといった表情かおで呟く。


「まあ、なんにしても、おかげで助かったよ。ありがとう、リリアーナ君」


 立ち上がったリカードがゆっくりとリリアーナのもとへ歩み寄ると、笑顔で右手を差し出した。リリアーナは、控えめにその手を握り返した。




「リカード様、ありがとうございました。おかげで、無事にアミーラを救い出すことができました。感謝します」


 ルイスも立ち上がり、リカードのところまで行くとそう言って頭をさげた。


「いや、礼には及ばないさ。こちらとしても、シュテルナー公爵の問題は調べる必要があったしね。それに、魔族の討伐が出来たわけだ。こっちが礼を言いたいくらいだよ。協力感謝する」


 そう言ってリカードが差し出した右手を、ルイスはがっしりと握り返した。


「なあ、ルイス君。もしよかったら、僕のもとで働いてみないか? 一緒にこの国を守ろうじゃないか?」


 右手を握ったまま笑顔を見せるリカードに、ルイスはゆっくりと首を振った。


「申し訳ありません。それは遠慮しておきます。ガラじゃないんでね。でも、そうですね。俺達の力が必要な時はいつでも言ってください。必ず協力します」

「そうか。ありがとう」


 リカードは、もう一度ルイスの右手をしっかりと握り返した。その様子に、アルフレッドとティトは視線を交わし、嬉しそうに目を細めた。



 Fin.



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ここまで読んで頂きありがとうございます。

 

 ツインズソウル 第二部 ~怪盗ナバーロと封魂結晶~ 完結です。

 長いことお付き合い頂き本当にありがとうございました。


 第三部はイーリスを中心としたお話を予定しています。

 いよいよ、封魂結晶に込めたイーリスの目的が明らかに……なる予定です。


 もちろんアルフレッドたちも登場します。


 でも、しばらく怪盗ナバーロのほうのお話に専念したいので、ツインズソウルはお休みさせてください。(プロットが全然まとまらないのです)

 じっくりプロットを練ってから、また再開したいと思います。


 それまでお待ちください。

 再開するときは、こちらでご連絡しますので、フォローは外さないで頂けると嬉しいです。


 なお、ツインズソウル2の主人公、ルイスとティトが活躍する別のお話もあります。

 よかったら、こちらもよろしくお願いします。


 怪盗ナバーロと『パナケアの3つの秘宝』

 https://kakuyomu.jp/works/16817330667342272733


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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ツインズソウル2 ~怪盗ナバーロと封魂結晶~ ふむふむ @fumufumu0721

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