番外編21 うちの主人がお世話になりまして―イディオス視点―

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注*「快適生活の追求者~強制単身赴任転移~」を最後まで読んでいないとネタバレになります。ご注意を!まぁ、タイトルでネタバレですが(笑)。

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 シヴァって笑うのだな……。

 いや、今までも笑ってはいた。

 しかし、こんなに嬉しそうに柔らかく笑う所は初めて見たかもしれん。

 ……ああ、そうか。

 借り物じゃなく、魔法で化けているのでもなく、本当の元の身体だから表情も自然、というのはあるのかもしれんな。


【イディオス!スタンピードを治めるのに頑張った成果で、ちょっとだけ元の世界に行けたんで、おれの愛する奥様を連れて来た!】 


 シヴァからいきなり、そんな連絡があった時、「何言ってるんだ?」とわれは思ったが、かつてない嬉しそうな声に何があったのか、非常に気になった。


【元の身体も取り戻したけど、飯食ってないから詳細は後でな。でも、なるべく早く、うちの奥様に加護付けてくれ。今、超弱いからさ】


 そして、そんな言葉が続いたので、色々訊きたかったが、まずは休ませるのが寛容だと思い直し、翌朝にキエンダンジョン、マスターフロアを訪ねた。

 シヴァが設置してくれた転移魔法陣ですぐだ。


 リビングにいないので、作業部屋を覗くと、そこには、かつてなくニコニコ笑いながら何か作ってる上機嫌なシヴァと、小柄で清楚で可愛い女性…シヴァの奥方がいた。


 誰が見ても美形だと評価するだろうシヴァの素顔と、まったく遜色そんしょくのない女人にょにんがいたとは!


 奥方は決して派手な美人ではないのだが、装い方次第でイメージがかなり変わるのではないかと思う。

 ……んん?まったくの素顔でこの可愛さなのか!


「初めまして。アカネと申します。こちらも呼び捨てで構いませんが、撫でさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 驚いていた所に丁寧に頼まれ、我が即座に了承すると、アカネはふわっと笑った!


「ありがとう!」


 なるほどな。

 「笑顔が超可愛い」とシヴァが言っていたことがあるが、ものすごく納得した。

 まったく裏がない素直で明るい笑顔は、誰もが自然と笑顔になるだろう。


 おお!撫で方も気遣いがあふれていて素晴らしい!

 そう、そこだ!首の付け根や顎だ。そう、そこをもっと撫でろ。遠慮なく耳もヒゲも触っていいぞ。

 ふむふむ、絶妙な力加減だ。

 奥方、やるな。

 さすが、シヴァが選んだだけある。


 もう、我慢出来ない!とばかりに、アカネががしっと抱きついて来たので、我が思わずシヴァを見ると、苦笑していた。

 我の毛皮は素晴らしいからしょうがない、ということだろう。


 ん?何か周囲に飛んでるな?

 ……ああ、飛行カメラか。動画を撮っているらしい。

 我は抱きつかれているから見えんが、さぞ、アカネはいい笑顔をしていることだろう。


 続いて屋敷の外に出て、我が本当の大きさになって背中に乗せてやった。

 アカネだけじゃなく、シヴァも。

 夫婦二人乗りだ。


「うっわ~!こんなに大きくなれるんだね!すごい!さすが、神獣様!」


 気に入ってくれて何よりだ。

 掴まる所が我の毛皮しかないからか、誘う前からシヴァも我の背中に乗って来た。アカネの後ろだ。ちゃんと支えてやれ、と言うまでもなく支えている。


 では、このまま浜辺に行って散歩しようか。

 行こうとした時、我の姿のぬいぐるみゴーレム一号がどこからか走って来た。大きさは大型犬ぐらいだ。

 犬の行動パターンが入ってるとかで、行動も可愛いが、仕草も可愛いのだ。どうも、シヴァが名付けたことで自我が出来、魔法生物化しているらしい。

 よしよし、一緒に行こうぞ。




 それにしても、シヴァの笑顔、その辺の女人にょにんが見たらマズイのではないだろうか。

 綺麗な顔立ちをしているだけに、その笑顔の破壊力も半端ないのだ。


 楽しく散歩をし、浜辺でお茶した後、再び作業部屋に戻った。

 シヴァが色々と作ってる間、我がアカネにそう言うと、同意が返って来る。


「そうなんだよねぇ。シヴァ、わたしには惜しみなく笑いかけるから、しょうがなく、わたしの存在価値を認めてやった、とか。え、誰にって?シヴァの非公認ファンたちに。地元の超有名人だったんだよ。憧れてる?えーと、人気者だった?愛好家って言うと、何か変なんだけど、シヴァの一挙手一投足、キャーキャー騒いでる人たち。すっごいすっごいすっごい、いて、イベントごとにシヴァを追い回してたよ。だから、シヴァ、イベント嫌いなんだけどね」


『よく分からんが、反撃したらダメだったのか?』


「ダメだったの。図体でかい男はただでさえ不利で、女の人には特にちょっとしたことでも過剰防衛になっちゃうから。まぁ、もみくちゃにされたのはさすがに正当防衛成立で、反撃してたけどね。

 でも、どれだけ痛い目に遭わせても学習しない、自分はそいつらとは違うから、な自覚のない言葉も通じない人たちばかりで大変だったよ。

 そういったファンたちにわたしがイジメられるのをシヴァが心配してたけど、わたしは見た目がか弱そうでしょ?法律違反しない範囲で容赦なく反撃してたら、関わっちゃダメな人認定を無事されたんだけど、ファンたちは悔し紛れにわたしの存在価値がどうのと言い出してたワケ」


 関わっちゃダメな人?法律違反しない範囲で容赦なく?

 首を傾げる我に、アカネはいたずらっぽく笑った。こういった表情も魅力的だが……。


「ふっふっふっ。わたし、大半の人が超苦手な虫や爬虫類、まったく平気なの。山奥育ちだからね。まぁ、そういった反撃。なっかなか取れない草の汁とかクサイ虫とか死にかけのセミとか、大半の人たちが嫌いなGという害虫も、をしてくれたし!」


 内容がまったく可愛くなかった!


「ああ、シヴァも知ってるよ。こういったたくましい所も好きだって言ってくれるけど、マジでドン引きしてる時もあったり。まぁ、お互い様だけどね」


 本当に仲がいい夫婦らしい。


「そうそう、イディオス、改めてありがとうね。イディオスがいてくれてよかった。図太いシヴァでも、たった一人で転移させられて、さすがに色々と不安だったと思うし。…キーコちゃんたちもありがとうねー」


 我が面食らってるうちに、アカネは天井に向けて声をかけた。キエンダンジョン内なので、声をかければ届くからだろうが……。


『…アカネが礼を言うことなのか?』


「そうだよ。『うちの主人がお世話になりまして~』と奥さんが言うのは普通。まぁ、こっちとは文化も文明も違うだろうから、わたしの自己満足かもしれないけどね。気を張ってなくていい安全な場所、会話に気を使わなくていい気安い友達っていうのは、本当に有り難かったと思うよ。…ね?シヴァ」


「おうよ。おれからもありがとう」


 アカネが話を振ると、シヴァはすぐに返事して礼を言った。

 作業しながらでもちゃんと聞いていて、それをアカネも分かっていたらしい。


『…ああ。どういたしまして、でいいのか?こちらこそ、色々尽力してもらっているのだが。我が遊びに行けるようになったのもシヴァのおかげだし』


「いいんだよ。持ちつ持たれつで」


 それでいいらしい。


『では、我に出来ることがあれば、遠慮なく言ってくれ』


「既にかなり遠慮ねぇけど」


「だよねぇ。今、イディオスがここにいるのだって、シヴァが呼び付けたからでしょ。いきなりだったのに、ありがとうね」


『まったく構わんぞ』


 アカネは謝罪よりお礼を言うタイプらしいな。何度も謝られるのはあまり気分もよくないが、お礼なら違う。

 まだ、会って数時間だが、かなり気に入った。

 性格的にも面白い人物のようだし、これからも仲良くしてもらいたいものだ。


 まさか、我の想像以上にアカネが強くなるとは、この時はまったく思わなかったのだが、改めて思い返すとその片鱗はそこかしこにあったかもしれん……。


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