番外編20 毎日が特別な日常
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注*糖分高め、終盤シリアスです!
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Bの手が空いたのと同時に、すかさず、彼女…Aが手を繋いで来た。
「何、タイミング見計らってんだよ」
Bは思わず笑う。
つき合い始めて七ヶ月、同棲して五ヶ月経っても、相変わらず可愛くて仕方ない。
「嬉しいクセに♪」
そう言われると、素直に頷きたくなくなるのは、よくないと自覚してる性格のせいか。マイペース過ぎる彼女をちょっと慌てさせたいと思ったこともある。
BはAの手を振り解いていきなり走り出し、階段を駆け上がって先に自宅マンションの部屋へと到着した。走った距離はほんの300mぐらいだ。
玄関扉はオートロックで閉まったままにしておき、玄関の上がり
時々、ここでAが待ち構えてて抱き付いて来るので、どう見えるのかは経験済みだった。
疲れてるしマイペースなので走らないと思ったが、Aも走ったようで程なく鍵を開ける音。
「B君、どうかし…」
Aが玄関に入って来た所で、抱き込んで唇で言葉を奪う。
カチャン、とAの後ろで玄関の扉が閉まり、続いてガチャッとオートロックの鍵がかかる音を聞きながら、深く唇を重ねると、最初はワケが分からなかったのか、ちょっと警戒してたようなAから力が抜けた。
少し息が乱れてて苦しそうなので、程々で離れる。
「お帰り」
「ただいま。…って、もー驚かせないでよ~」
「いつも、してやられてばっかだしな」
「?わたし、何かした?」
「…自覚がねぇんだな」
何でこうも自分が嬉しいことをしてくれたり、望む以上の言葉をくれるのだろう、と常々不思議に思っていたが、どうやら需要と供給の一致らしい。
面白くないこともあるようだが、本当にささやかなことのようで、たまに文句を言われるぐらいだ。
「どれのことか分からないけど、それはともかくとして、ただ単に驚かせたかっただけ?」
「そうだけど?」
「なら、いきなり走り出さないでよ。お腹の調子が急に悪くなったとか、わたしが知らない何かがあってとかって、心配するから」
道理で何かすごく心配そうな顔をしてたワケだ。
「そっちに考えるか?超健康なのも、別に急な用事がねぇのも知ってても?」
普通は何か悪いことをしたのか?と思うもんじゃないかと、Bは思う。
「理屈じゃないの。…あっ、汗臭いとかもあり?」
押し返そうとするAを、Bは笑って更に抱き込んだ。
そんなことは全然なく、逆に制汗スプレーかシャンプーのかすかないい香りと、日向の匂いがするぐらいなのに、その辺は女の子だ。
「気にしなくても全然平気だって」
「いや、でも、丸一日、汗だくで外にいて土いじりもしてたワケだし…」
肥料の臭いも気になるらしい。
そういえば、前に手や顔は洗って着替えても、髪にも臭いが付いてるかもしれないから気になる、とかも言っていた。自分は鼻がバカになってる可能性も考えるようだ。
「気休めでも慰めでもなく、マジで汗臭いとか土臭いとかもねぇよ」
「そっか、よかった。…じゃなくて、心配させないようにね。分かった?」
「はいはい」
「はい、は一回」
「はい、分かりました」
Bは笑って軽くキスしてから、Aを開放してやり、Aの荷物を持って玄関を上がる。
リビングにAの荷物を置いてファスナーを開けると、やるやる、とAが自分で水筒や洗濯物を取り出したので、Bは水筒だけ持ってキッチンへと行って洗い、Aと自分に麦茶を用意してから、さっさと夕食の支度にとりかかった。
「ねーB君、気付いた?気付いた?」
洗濯物と着替えを持って洗面所兼脱衣所に行って、シャワーも浴びて来たAが、戻って来るなり、そんなことを言いつつ、キッチンカウンターへと来る。
「何が?」
「いつの間にか、丸七ヶ月過ぎてるよ~早いね」
大晦日前日からつき合ってるので、確かに丸七ヶ月過ぎている。
「…全然、気付いてなかったのかよ」
「三ヶ月ぐらいまでかなぁ。どのぐらい経ったとか数えてたのは。あ、何?何ヶ月記念とかやりたかった?」
「いや、Aがアニバーサリー女とは逆過ぎでスゲェ助かるなぁ、と思ってる所」
「いるよね~。何でも記念日にしたがる女の子って。でも、最近は彼氏の方がやりたがる人が多いという話もあったり。一週間記念と彼氏に言われて、そこですっきり冷めて別れた子も知ってる」
「一週間記念?何だそりゃ。マジな話?」
「マジな話。クラスの子の話だもん。前々からいいなと思ってた違うクラスの男子に告白したのは彼女の方からなんだけど、オッケイもらってからずっと寝る前のメールもすっごい何度も何度も入って来て、それがまた『もう眠いから明日ね』でも切らしてくれなかったそうで。遠くから見てる方が幸せだったわ、という彼女の言葉は印象的だったよ~。よかったね、と言ってたら、もう別れたとか言うから、何それ?で聞いたんだけど、大いに納得みたいな」
「余程、モテねぇ奴?」
「さぁ?元彼氏の方はよく知らないよ。記念日にこだわってメールもすっごい頻繁な同じようなタイプなら、大丈夫だったのかもね」
「そーゆー奴の方が少ねぇだろ。それとも、おれが知らねぇだけで、そうもいるのか?」
「一ヶ月記念はたまに聞くけど、一週間はそれが初耳だったよ。これまた、それぞれ違ってて一ヶ月記念でも、電話やメールで教えるだけとか、デートの口実にしたりとか、ちょっとカードを渡したりとかぐらいから、プレゼントを渡すというカップルもいたりするし。プレゼントカップルは当然滅多にいないけど、大概すぐ別れてるね」
「他のイベントも含めたらプレゼントばっかで有り難みがねぇ気がするよな」
「そうそう。なんで、記念日なんて気にしなくていいよ」
「…それもどうかと思わねぇでもねぇなぁ」
「誕生日とイブだけで十分だって。B君、イベント嫌いなの知ってるし」
物心付いた頃から、追いかけ回され、プレゼントを押し付けられ過ぎ、トラブルも盛りだくさんだったので、確かにイベントは嫌いだったBだが。
「Aとはイベントやってもいいぞ?」
Aが喜び、その姿が見れるのならイベントも歓迎だ。鬱陶しいことがすべて帳消しになってプラスになるぐらいに。
「わたしにとっては毎日がイベントで特別なんで、その気持ちだけでいいよ」
「……とんでもねぇ殺し文句を言いやがるし」
そう来るか、とBはもう笑うしかない。
普通にさらっと計算も自覚もなく言える辺り、Aは天然が入ってると思う。
四六時中一緒にいると、マンネリや慣れが入って、いずれ、退屈になるかと思っていた。
一生という長い時間を一緒にどうやって過ごすのか、全然想像が付かなかった。
だが、Aとつき合ってからは、何となく形が見えていたモノがようやく分かった気がする。
そうか、毎日が特別だから退屈になるワケがないのか。
「え?あれ?何か恥ずかしいこと言ってる?いや、でも、事実だし…」
遅れて気が付いたようで、Aは頬を少し染めてあたふたし出したが、そんな所もまた可愛いワケで。
「A、皿出して」
「あ、はーい」
カウンター越しにひょいっと手元を覗いてから、Aがお皿を出してくれた。
今日の夕食メニューは、サーモンとキノコの香草ホイル焼き、かいわれと大豆もやしのナムル、茶碗蒸し、豚汁である。
夏バテしないよう、冷たい料理は出来る限り除いて。
バイトの日は昼に何食べた~とメールが来るが、今日はザル蕎麦と天ぷらのセットを食べたそうだ。茶碗蒸しが付いたセットがなかったので、残念、とメールが来てたので、茶碗蒸し追加だったりする。
食卓に並べた所で、頂きますと手を合わせて食べ始めた。
ん♪美味しい♪とAが嬉しそうな顔をするので、余計に作りガイがあった。
美味しい食べ物で、すぐ笑顔。
感情表現がストレートな犬っぽい所も彼女の魅力だ。
犬種で例えるならシェットランドシープドッグ。シェルキー。可愛くて賢くて時には勇敢で…………。
―――――――――――――――――――アカネ。
名前を呼ぶと花がほころぶように笑う愛しい妻。
******
『……ター。マスター、大丈夫ですか?』
「………あ?何?キーコバタ」
魔力を
ちゃんとプライバシーの配慮をしてくれるのに、呼ばれていないのにアルのベッドの側まで来るのは珍しい。
『うなされていましたので、起こした方がいいのかと思いました』
「ああ。ありがとう」
はぁ、とアルがため息をもらすと、キーコバタが果実水出してくれたので有り難く頂く。
『マスター。
キーコバタが心配そうにそう言うが……アルは苦笑してしまった。
「違う。不安なのはこの身体じゃねぇ。…妻に…アカネに二度と会えなくなることだ」
『……!!思い出されたのですか?奥様のお名前を』
「やっとな。名前は存在そのものだ。やっと一歩前進したんだけど……尚更、下手に召喚出来ねぇ。何度も試せることじゃねぇし」
世界を隔てなくても召喚はリスクが高く、成功率も低い。
確実と言える程、成功率を高めてからじゃないと、召喚なんて出来ない。
魂だけ
しかも、本当の身体は元の世界にあるのか、こちらの世界に来た時までは身体と魂は一緒で身体だけ弾かれたのか、それとも、もっと違う世界に身体だけ落としたのか、最初から魂だけが転移したのか……可能性としてはいくらでも考えられるのだ。
チャンスは逃さず、しかし、慎重に。
そうは思っていても、いざ、愛しの妻に会えるチャンスが到来したのなら、突っ走ってしまうだろう。
その場合でも対応出来るよう、色々な状況を想定し、出来る限りの準備をしておかなくては。
アルは起こされたついでに、もう起きることにし、「その時」に備えて準備をし出した。
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