番外編36 影豹、闇を照らす希望

 産まれた時には何匹か兄弟がいたが、いつの間にかどんどん数が減り、気が付けば自分だけになっていた。

 その時には、狩る技術も磨かれていたので、食料にも困らなかった。ただ、いつの間にか、同族が住む地域から出ていたようで一匹になっていた。

 出会った魔物すべてを食べたり、襲ったりするワケではないのに、他の魔物たちには逃げまくられて淋しかった。



 ある日のこと。

 熊の魔物が大きな蜂の魔物の巣を漁り、何か甘い匂いの美味しそうなものを舐めていた。

 蜂の魔物たちが反撃して熊の魔物のあちこちを刺していたが、まったく歯が立たないらしい。


 以前、兄弟が痛い目に遭ったのをちゃんと覚えていたので、遠くから見ているしかなかった。

 熊系魔物程、自分たち種族の毛皮の防御力はないのだろう。しかし、素早さはあるので、大きくなったらチャレンジするつもりだ。




「あーつっかれたぁ。まだまだ奥なのぉ?アルキノコを目撃された辺りって」


「もっともっと奥。高く売れるアルキノコが目撃されるなんて、久々だな」


「気ぃ抜いてんなよ。そろそろCランク魔物も出て来るぞ」


「分かってるって」


 数ヶ月経ったある日。

 珍しく武装した人間たちが森の奥の方まで歩いて来た。

 言葉は分からないが、何か目的があって奥の方まで来るらしい。


 人間は弱い。

 ちょっとしたことで死ぬので、生きている人間を見るのは久々だった。


 暇なので木の上から観察していると、人間たちは倒木の近くで休憩するらしい。

 日当たりがよくなったその場所にはトレントの若木たちが生えているのだが、気が付かないのだろうか。


「ぎゃーっ!」


 トレントの若木の枝が一番小さい人間に巻き付き、締め上げる。

 そこで、始めて魔物だったと気付いた他の人間たちが助けようと槍や剣で切り付けたが、薄っすらとしか傷付かず、一番小さな人間はすぐに干からびていた。

 トレントの若木たちが生気と魔力を吸い尽くしたのだ。

 トレントの若木たちは複数なので、足りなかったらしく続いて他の人間も襲う。

 三人の人間のうち、一人が何とか逃げたが、もう一人はトレントの若木たちの餌食になった。

 やはり、人間は弱い。


 ちなみに、かっさかさに干からびた人間、に限らず、生き物はマズイので、他の魔物も食べない。何でも食べる軟体系液体系魔物も見向きもしない辺り、相当マズイのだろう。

 そもそも、人間自体、余計な物で包まれているので人気がない。剥く手間をかけても、雑味がないので好む魔物もいるそうだが、会ったことはなかった。



 ******



 影に潜って移動する魔法が使えるようになって、しばらく経った頃。

 突然、魔力が多い魔物が次々と倒されて行った!それも、すごい速さで!


 強い魔物が縄張りを拡大しようとしているのだろうか。

 しかし、そんな話は聞いたことがないし、気配を感じたこともない。

 何だろう?

 近くまで見に行くか。

 自分より格上だったとしても、影の中に潜って逃げればいい。


 そう思って近寄ろうとした所で、誰かに首根っこを押さえられた!

 いつの間に!

 慌てて影の中に潜ろうとしたのだが、何故か潜れない!

 どうして!何で!?


 首根っこを押さえているのは、二足歩行の魔物、なのか?魔力量が多過ぎるし、強者の気配がする!

 反撃した所で何の意味がないのが何となく分かった。

 しかし、このままでは、殺されるのでは……。


『おれの従魔になると美味い食べ物、食い放題だぞ』


 たべもの、やるぞ?

 人間の言葉は分からないが、頭に直接響く言葉だったので、意味が何となく伝わって来る。

 え、何で食べ物?

 戸惑ってる間に、腕に抱えられて空き地になっている所へ移動した。


 ……何か鳥頭に猫足、背中に翼がある子供の魔物がいる……。


 そのまま、地面に降ろされると、何だかいい匂いがするものが自分の前に置かれた。肉を何かしたものらしいが、色々混じった匂いがする。

 これは、食べろ、ということ?間違ってる?

 見上げると、それで正解のようなので、そっと一つ食べてみた。


 何これ?すごく美味しい!外側がカリカリ、中はしっとり、肉の中からおいしい汁も出て来る!

 あれ?もう、ない……もう一つ!もう一つ!もう一つ!


「そう急がなくても誰も盗らねぇって」


【ぼくもちょっとたべたくなってきたけど~】


 しゃべった!人間の言葉を子供魔物がしゃべった!

 シャーッと毛皮と尻尾を逆立てて威嚇をすると、


【イジメないってば】


と、子供魔物はまたしゃべる!

 ……あれ?二足歩行の魔物じゃなく、人間、なのか?人間の言葉を話すのなら。こんなに強いのに人間?


 戸惑ったまま、何だか交渉して来る人間の言葉に頷いた。

 この先も美味しい美味しい食べ物をこの先も食べさせてくれる、という話なのは理解したし、この人間?から逃げ切るのは無理のようなので。



 その判断が正解だったと思い知ったのは、お菓子という甘い食べ物をもらった時。

 匂いからして憧れだった蜂の巣から採れる甘いものが、たくさん使ってあったのだ!


【うんうん、おいしいよねぇ。ぼくもはじめてたべたとき、すっごくおどろいたし】


 鳥頭に猫足、翼もある子供の魔物…デュークが人間の言葉で何か言う。

 多分、おいしいよね~と同意を求めているのだろう。

 自分より二回りは小さいデュークだが、将来は自分と変わらない大きさになり、自分ももっともっと大きくなるらしい。


 どうして人間の言葉を話すのだろう?


【ああ、ぼくね。にんげんにそだてられたグリフォンにひろわれて、そのグリフォンとにんげんにそだてられたから、にんげんのことばしかしらないんだよ。だから、『はこいり』なの】


 はこいり?

 デュークの言葉も頭に直接響くので、何となく伝わって来るが、この単語の意味が分からない。


【えーとね。べんりなのになれてるから、かりとかたたかいかたとかヘタってこと】


 そうなのか。

 鍛えられてないのなら、それは仕方ないことだろう。

 デュークは素直だし、年も自分の方が年上なので、弟分として狩りや戦い方を教えよう。


 しかし、少し鍛えただけで、物覚えがいいデュークは狩りのコツを覚え、更に飛べるようになった!


 そのお祝いで、マスターがふわふわで甘いお菓子を出してくれたのだが……。

 なんだこれ!なんだこれ!

 ふわふわで甘く、すっとなくなってしまう!

 容器にくっついてる所はパリッとして、こちらも美味い!

 衝撃を受けた程の美味しさだった!


【そうそう!アカネさんのおかしって、さらにものすごくおいしいんだよねぇ】


 そのお菓子を作ったのはマスターのつがいだと知った。

 従魔にしてくれたマスターに心底、感謝した!


 バロンと名付けられた従魔は、美味しい物甘い物があれば幸せで、マスターよりマスターのつがい…奥方の方を尊敬することになった。


――――――――――――――――――――――――――――――

関連話「237イジメないってば」

https://kakuyomu.jp/works/16817330653670409929/episodes/16817330657857474477


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