237 イジメないってば

 三つ角トカゲ、粘土のようなどろどろしたクレイワーム、肉食蔓植物、鉱物モグラ、マーダーベア…等々と中々素材として美味しい魔物を狩りつつ、シヴァたちは森の奥へ行き、討伐採取依頼のトレントを発見した。


 締め殺し植物のように枝を蔓のように使って攻撃して来るが、一度定住したら動けない魔物なので低ランクでも時間をかければ倒せるので、Dランクになっていた。


 群生する性質もあるが、頭がそんなによくないので、刈りまくって終了。

 トレントの素材は魔力を含み、加工がし易く、丈夫で軽いため、需要が高い。


 トレントを刈り取ってポッカリ空いて広場が出来たのはちょうどいい、と切り株も土魔法で掘り返してちゃんと回収してから、罠を仕掛けた。


 シャドーパンサーの罠だ。

 ネコ科には堪らないマタタビを燻煙にして広め、寄って来たら捕獲。単純な程、成功率が高い。


「って、デュークもダメじゃね?」


 ふとシヴァは気付いてしまった。


【え?】


「下半身、獅子だろ。ネコ科」


【どうなるの?】


「ゴロゴロ言う」


【…それだけ?】


「酔っ払ったようになって、ゴロゴロと地面を転がるようになるんだって」


 マタタビの枝だけデュークの鼻にかがせたが、別に大丈夫だった。頭は鷹だからか。


「あ、大丈夫だな」


 では、とマタタビの枝をチップ状にし、燻製をやる時のように脚付き網を作って、遠火で香りが立つように…と作ってる間にシャドーパンサーが探知魔法にもうひっかかった。


 マタタビが、と言うより、シヴァたちが色々と魔物を狩り、トレントの群生もサクッと刈り取ったから気になって見に来たらしい。好奇心が強い所はネコ科らしいが……。


「せっかくだから、罠仕掛けさせろよ~」


 文句を言いつつ、シヴァはシャドーパンサーの首根っこを素手で掴んでサクッと捕獲。慌てて影に潜ろうとしたシャドーパンサーだが、影魔法を使えるシヴァには阻止するのも簡単だった。


 この個体、尻尾まで入れて体長2mぐらいで普通の豹並み。

 シャドー種でも見かけは普通の豹で深緑色に斑点のヒョウ柄に鮮やかな金の目。こちら基準の『普通』で森に溶け込むような配色だ。

 シャドーマントヒヒもそうだったが、似たような魔物がいるので、シャドー種だと隠して油断させるためだろう。


 まだ子供で一歳ちょいだが、影球シャドーボール、影収納、影転移、と魔法はそこそこ使える。寿命はだいたい200年。魔力量を増やせば寿命が伸びる。よしよし。


『おれの従魔になると美味い食べ物、食い放題だぞ』


 シヴァは念話で勧誘してみた。

 鞭の後は飴。硬直してるシャドーパンサーを抱っこしたシヴァは空き地まで連れて来ると、地面に降ろし、唐揚げを深皿に盛ってシャドーパンサーの目の前に置いた。猫舌かも、と少し冷まして。

 魔物なので基本的に雑食だが、肉がよかろう。


 え?え?と戸惑っていたシャドーパンサーだが、唐揚げの暴力的な香りに勝てなかったらしく、「いいの?」とばかりにシヴァを見上げてからそっと一つ食べた。

 美味しかったようで、後はバクバクと。


「そう急がなくても誰も盗らねぇって」


【ぼくもちょっとたべたくなってきたけど~】


 デュークがそう言うと、シャドーパンサーは警戒したらしく、毛皮と尻尾を逆立て「シャーッ!」と威嚇した。尻尾は五倍ぐらい太くなってる。


【イジメないってば】


「魔物としての格の違いってのもあるんじゃねぇの?念話使っても、意思疎通は何となく出来る程度だし。従魔にすると、マスターとの繋がりが出来るから、それで少しは知能が上がるかもしれねぇけど」


【え、そうなの?】


「元々賢いグリフォンは参考にならねぇけど、可能性としては」


 シャドーパンサーは勢いよく食べ過ぎて喉に詰まりそうなので、シヴァは水の深皿も置いた。

 デュークにも唐揚げをやり、シヴァも摘む。


『衣食住と安全を保証。主な仕事は子供たちの護衛と影収納に荷物を収納すること。たまに人間も収納してもらうかもしれねぇけどな。おれも影魔法は使えるから、お前ももう少し使えるよう鍛える予定。従魔になる?』


 シャドーパンサーが食べ終わると、シヴァはもう一度持ちかけた。

 逡巡しゅんじゅんしたようだが、逃げても無駄だと観念したかのようにシャドーパンサーは頷いた。

 従魔というのがよく分かってなさそうだが、まぁ、おいおい分かるからいいか。酷い扱いをするつもりはない。


「じゃ、まずは名前だな。…バロンはどう?役割的にナイト?」


 デュークが英語で公爵なので男爵(バロン)という発想だったが、そういえば、ジブ○でもそんなアニメがあったか。


【どういったいみ?】


 英語から名付けたワケじゃないので、デュークは意味が分からなかった。

 元の世界で…とシヴァが説明し、結局、バロンになった。

 シャドーパンサー自身が語感がこっちの方が、と頷いたこともあり。

 …そう、またしてもオスだった。メスの方が慎重なのもあるだろうが、子育て中だったり、大事にされてたりするのだろう。


 いや、ライオンだとメスが狩りをするが、魔物の生態は不明な所ばかりなので事実は分からない。


 シヴァはバロンの眉間に人差し指と中指を揃えて触れ、従魔契約した。

 デュークと同じで一般的な従魔契約ではなく、意志はほとんど縛らず、主従の物理的な距離によって自然解約されることもない。


 そして、元々賢いデュークには不要だったが、知力を少し上げ意思疎通を円滑に出来る魔法陣を盛り込んでおいた。

 シヴァは認識阻害仮面を取って、自己紹介する。


「おれはシヴァ。さっきまでの認識阻害仮面を装着してる時か、この姿の時はアル。マスター呼びでいい」


 【変幻自在の指輪】でシヴァは一瞬アルになって、姿を見せておいた。

 念話と同時通訳すると、バロンは頷いた。言うことは分かっても言葉も念話も返せないが、理解はしたのだろう。


『ぼくはデューク。よろしくね』


 デュークも念話で挨拶。

 先程は威嚇したバロンだが、今度はペコリと頭を下げた。よしよし、そこそこ賢くなっている。



 では、とシヴァは作業机を出し、まずはバロンの首輪を作った。

 バロンは話せるワケではないので、デュークのような通信機能は付けないが、万が一の時に緊急通報エマージェンシーコールが来るよう、ステータスイヤーカフ(ステカ)のように一定以上ステータスが減少した際にシヴァに通知が来るように。

 もちろん、転移ポイントも入れておいた。従魔契約で繋がってはいるのだが、距離があると厳しいのでこれで確実になる。


 デュークの首輪と似たようなデザインで、人工宝石の入った唐草プレートにチェーンを付けたネックレスでオシャレである。

 バロンは体色が暗めの緑なので、人工宝石はオレンジから黄色のグラデーションで。


 デュークの人工宝石はダイヤでスカイブルーからパープルになるグラデーションで3cmの大きさだが、バロンの人工宝石はもう一回り小さい。


 この人工宝石だけでも、同じマスターの従魔だと分かってもらえるだろう。58面体のブリリアントカットというだけで、この世界の技術ではまだ無理だ。


 バロンには【クリーン】をかけたが、手入れしなさ過ぎの毛皮は手触りが悪いので、ディメンションハウスに連れて行き、風呂で洗った。

 ネコ科の動物は風呂を嫌がるそうだが、魔物だとそうでもなかった。しっかりとブラッシングしてゴロゴロいわせてから洗ったので、状況変化について行けなかっただけかもしれないが。


 ディメンションハウスの湯船は、バロンが入れる程には大きくないので入れられなかった。自宅へ帰ってからのお楽しみだ。

 ちゃんとコンディショナーも使ったので、バロンの毛皮は艶が出て柔らかくなった。

 まだ多少ごわごわするが、今後の手入れと栄養状態でかなり改善するだろう。


 再びトレントを討伐した場所まで戻り、そこから、魔物を狩りつつ、ダグホードの街に戻った。慣れないことでお疲れなバロンは影収納で休ませつつ。


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関連話「番外編36 影豹、闇を照らす希望」

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