238 もう野生に帰れない従魔

 ダグホードの冒険者ギルドに戻ると、トレントと薬草の納品、解体といらない素材の買取りを頼み、依頼達成手続きと報酬をもらってから、シヴァはバロンを影収納から呼び出した。


「従魔登録もよろしく」


「…豹、ですか?」


「シャドーパンサー」


「あ、はい。少しお待ち下さい」


 従魔連れは多くても他から来るのか、中々従魔登録をしに来る冒険者がいないらしく、受付職員は書類を探していた。

 デュークを従魔登録した時は王都だったので、スムーズだったのかもしれない。


 従魔がちゃんとテイムされてるかどうか、ステータスの魔道具を使って確かめる必要がある。

 冒険者の方のステータスではなく、従魔の方を。

 冒険者にテイムスキルがあるかどうかは分かっても、どの個体が、というのは今の技術だと見れないので、従魔の方のステータスを見るのである。


 まぁ、ステータスを偽装出来るシヴァのような規格外は滅多にいないので、ステータスが信用されてるワケだが。

 シャドー種は珍しいのか、ギルドマスターまで出て来て、応接室へと案内された。


「ダグホードの冒険者ギルドのギルドマスター、ダムレイだ。シャドー種を従魔にする冒険者なんて初耳だぞ。どうやって捕まえた?」


「首根っこを掴んで」


「…掴んで?」


「掴んだだけで降伏したんで、続いて肉を食べさせて胃袋を掴み、交渉したら頷いたんで従魔に」


「影に潜らなかったのか?」


「阻止した。おれも影魔法が使えるから」


 シヴァはソファーに座ったダムレイを50cm程、沈めてやった。

 ソファーにめり込んでるように見えるが、影に、である。


「無詠唱か…うおっ!」


 するっとダムレイを影の中に一旦沈めて、近くの影から出してやった。元冒険者らしく、ちゃんと着地する。


「潜った所で干渉出来るけどな。影魔法レベルが高いと。逃がすこともねぇから安心しろ。ウチの待遇、超いいし。なぁ、デューク?」


【ホントだよ。ごはんもおやつもたべほうだいだし!おなかをこわさないていどでちゅういはされるけど】


「ほら」


「…いや、何で話してるんだ?」


【かしこいグリフォンだから。ねんわをみんなにもきこえるようなマジックアイテムをつかってるの】


「そ、そうか」


 ダムレイは色々訊く気が削がれたのか、デュークの言葉があったからか、バロンもおとなしいからか、それからはスムーズに従魔登録が出来た。


「ところで、何でまだCランクなんだ?エイブル国の冒険者ギルドと折り合いが悪いとか?」


「そんなことねぇけど、昇格するメリットがねぇから」


「そうか?ランクが上がるごとに、報酬の高い依頼が受けられるし、宿も武器も防具もアイテムも優遇されるんだぞ?」


「それが意味ねぇって話。だいたい、Bランク昇格試験ってどこも貴族関係ばっかだし、指名依頼なんかやりたくねぇし」


「そういったしがらみが面倒臭いのか」


「そ。珍しい従魔がいると、尚更面倒なことになるに決まってるし」


「Bランクになれば、高ランクパーティにも誘われ易くもなるんだがなぁ」


 認識阻害仮面のせいか、シヴァの力量もよく分からなくなってるらしい。


「パーティ組む予定はまったくねぇよ。足手まといだし」


【だよねぇ】


 その辺で解体が出来ただろう、とダムレイと別れて、買取りカウンターへ向かった。バロンは再び影収納内で休んでいる。影魔法が使えるので外の様子も分かるのだ。

 肉と使える素材は戻してもらい、その他は売った所、手に入り難い素材もあったらしく、予想より高く売れた。


『ソードボアはこのまえたべた『なまハム』にしない?』


『おう、いいな、それ。ローストポークや煮豚や角煮も作ろう』


 魔物は大きいし、三匹も狩ったので作り放題だ。

 生ハムは乾燥と熟成だけじゃなく、燻製も必要なので魔法や熟成マジックバッグだけでは済まず、手作業でひと手間かかるのだが、それもまたワクワク感を盛り上げ、美味しくなる秘訣なのである。

 燻製もにゃーこたちがやってくれるものの、たまには自分たちで。


 さて、そろそろお昼なので食堂に行こう。

 朝の仕入れの時、会ったヒルシュの友人がやってる食堂だ。

 魔物肉が手に入ったら色付けて買う、と言っていたし、デュークが入れるのも確認済だ。煮込み料理が得意だと聞いたので、ベア肉でも売ってあげよう。

 そう思ったのだが、評判のいい食堂だったらしく、早い時間から満席だった。


 ごめん、と朝に知り合ったばかりのヒルシュの友人が片手を挙げて謝る。団体が入ったそうだ。

 じゃ、また今度、と他の食堂に行ってみたが、従魔連れはちょっと、と断られてしまった。


 ギルド内の食堂に行くのも何なので、影の中へ入り、ドームハウスを出した。

 バロンに見せておくのと、セキュリティが反応しないよう登録する必要もあり。


【じたくにかえるのはダメなの?もしくはホテルとか】


 バロンの登録してから中へ入ると、デュークがそう言い出した。


「せっかく旅に出てるんだから、そうすぐ帰るのも興ざめだろ」


 よく分からない、とばかりにデュークが首を傾げ、マネしたのか偶然か、バロンも首を傾げた。


【そとにださないのはめだつからってのはわかるけど、かげのなかならたびのいみある?】


「そんなツッコミを入れてはいけない。…さぁ、何を食べる?バロンは食べたことがないのがいい?」


【バロンはおにく?なら、ハンバーグとか?】


「そりゃ食べたことねぇだろうな。よし、ハンバーグシチューにしよう」


 ハンバーグシチューはカレーのようにご飯と一緒によそう。

 バロンにはお膳のように高足を付けた小さい台に載せて。地面に皿や深皿、というのはやはり気になるのだ。


「おかわりもたくさんあるから、存分に食べろよ。お腹を壊さない程度に」


【はーい】


「デュークはちゃんと加減しろよ。…はい、いただきます」


【いただきまーす】


 何か言ってる、みたいな感じだったが、すぐに食べずにシヴァとデュークが食べ出してから、バロンも食べ出した。

 上位者への礼儀、みたいなものらしい。

 ペロッとバロンはブラウンシチューを舐めて、美味しかったらしくせっせと食べ出した。

 ご飯も何これ?な感じだったが、一緒に食べると美味しいのは分かったらしい。

 少しはガッつかなくても盗られないことは学習したようだ。


【おいしいよねぇ】


 うんうん、と自分が提案したからか、大威張りでデュークが言う。

 海のものも食べたことがなかろうと、海魚、貝、エビ、カニ、イカ、タコと浜焼き各種も追加した。バロンがどのぐらい食べるか分からないので、最初は少量ずつで。


【ヒルシュにうみのものをりょうりしてもらうのも、おもしろそうだね】


「時間停止のマジックバッグはバラしたんだから、渡してもいいような気がするけどな。ま、おいおいで。うなぎとかスゲェ食べさせたいけど」


 腕の確かなヒルシュなら、新しい料理を開発してくれそうだ。


【わかるわかる】


 イカには辛子マヨ!と通な食べ方をしつつ、デュークが相槌を打つ。

 もう野生に帰れない従魔である。

 …いや、最初から人間と人間に育てられたグリフォンに育てられているので、デュークは元々野生には帰れないか。


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