239 危険な従魔じゃないアピール

 食後はバロンの寝床作り。

 デュークのようにカゴがいいかと作ったが、広々と寝れる普通のベッドの方がウケがよかった。デュークの方が子供だから、というのはあるかもしれない。


 食後、シヴァはバロンの専用ベッドを作ってやったが、シヴァが収納しておく。バロンも影収納が使えても、たまに獲物を入れておく程度だったので、そこまで広さがないそうだ。レベル25でさほど高くないので、それも関係があるだろう。


 このドームハウスで寝るのなら、バロンはロフトかリビングで寝ることになるが、今の宿屋なら普通にもう一台ベッドが置けるので問題なかった。宿の従業員には従魔が増えたことを一応言っておく必要はあるが。


 ドームハウスをしまい、影から出ると、シヴァたちは街の外へ行ってバイクに乗った。

 バロンはリアシートに乗るか、影に潜っていてもよかったのだが、走ってついて来るらしい。すれ違う人たちがバロンに驚きそうなので隠蔽をかけておく。


 向かう先はもちろんドリフォロスダンジョン。

 転移ポイントを置けば、いつでも行けるようになるので、予定通りに進むことにしたのだ。宿には転移でいつでも戻れることもあって。


 ドリフォロスはリビエラ王国の王都なので、街道を行き交う人は結構多い。

 道なりに進むのも少々遠回りになるので、途中からバロンを影に入れて飛行モードにして空を飛んだ。バイクを使わず、普通に飛んだ方が速い気がするが、魔力節約にはなる。


 途中で休憩を入れたが、おやつ時間には王都に到着していた。

 馬車ならダグホードの街から王都まで一週間の距離だそうだ。

 王都へ入る行列の最後尾の近くでバイクを降りると、バイクを収納にしまって列に並び、バロンも影収納から出す。


 シヴァはまずデュークの鳥頭を撫でて、バロンの頭も撫でた。怖いことじゃないよ、というのを行動で示したワケだ。

 そして、シヴァはゴムボールを出す。軟式テニスボール風に作った物で見易く黄色だ。


「はい、デューク。見本。取って来い」


 シヴァは山なりに軽くボールを投げた。


『とおくすぎだよ~』


 デュークは文句言いつつ、ボールを取りに行き、クチバシに咥えて持って来た。


「バロン。要領は分かっただろ?…じゃ、バロン、取って来い」


 エライエライ、と頭を撫でてデュークからボールをもらうと、シヴァは今度はもっと近い距離に投げてバロンに取って来させた。

 細かいことは伝わらないが、このぐらいは余裕で分かるので、デュークと同じように取って来た。


 エライエライ、とシヴァはバロンの頭を撫で、ボールをもらう。

 順番が来るまで暇なので遊んでいよう、というのと、危険な従魔じゃないアピールでもある。


 何度か普通に投げてから、次は変則。

 風魔法を使っての逃げるボールだ。持って来た方にご褒美で一口ドーナツ。食後に出してみたらバロンは甘いものも好きだった。


 ボールを飛ばして高い位置でふわふわさせてみると、優れた跳躍力を発揮したバロンが見事にキャッチ。

 おーっ!…と暇なので見ていた行列に並ぶ観客からも、歓声と拍手が起こる。


『えー。ぼくにふりじゃない?まだこどもでとべないのに~』


 ご褒美の一口ドーナツを美味しそうに食べるバロンに、デュークが悔しそうに念話で言う。


『こんな時ばかり子供主張。まぁ、そうだけど。じゃ、デュークはマジックハンドを使ってもいいぞ』


 マジックハンドは5mぐらい伸びるので、一気にバロンが不利になる。バロンには影転移を許可した。見える範囲の短距離しか影転移出来ないので、いい勝負だろう。


「えっ、シャドー種?」


「影転移、だったような?」


「縮地かも?」


 動きが速いので確信は持てなかったらしい。


「っていうか、あの手は何?」


「マジックアイテム。本人…本魔物の器用さに依存するから、使いこなすのは難しいんだけどな。本来は」


 訊かれたので、シヴァは簡単に答えておいた。

 辛くもデュークがボールをゲットして戻って来る。


「デュークの方がレベル高いのに、身体の使い方がまだまだだな」


 デュークがバロンから学べることは多いだろう。


『やせいでいきてきたバロンと、ぬくぬくそだったぼくとをくらべるのがまちがってるとおもう~』


『確かに。弁は立つよな』


『おかげさまで~』


 しばらく遊んだので、ソファーセットを出してティータイムにした。

 お茶系統は苦手らしく一舐めして止めていたが、果実水ならバロンも飲む。飲み物も甘いのが好きらしい。


 シヴァは紅茶にした。お茶請けはクッキーである。

 二人掛けソファーにバロン、三人掛けソファーにシヴァとデュークで、ローテーブルではバロンは飲み食いし難いので、バロン専用サイドデスクを作ってやった。


「…ご貴族の方でしたか?」


 前に並んでいる商人の一人がそう訊いて来た。


「いや、平民。貴族だったら別の門から入るだろ」


「いや、まぁ、そうですが、目立ちたくない方はこちらの一般向けの門を使う場合もありますし、そもそも、そのかなり質のいいソファーセット、それが入る容量の大きいマジックバッグとなると…」


「ほぼダンジョン専門の冒険者だと珍しくねぇぞ。この程度のマジックバッグと質のいい家具を持ってるのは。寝なし草だからよく使う家具ぐらいはこだわってたりするし」


 これは事実だ。ダンジョン専門冒険者だと稼ぎが段違いにいいし、大容量のマジックバッグ遭遇率も高くなる。

 シヴァが作る程、高品質の家具はどこにも売ってないし、ダンジョンでも出ないが。


『シヴァ…じゃない、マスター。れつ、すすんだけど、どう…うわっ…』


 列が進んでもソファーに座ったまま、くつろいでていい。

 土魔法でソファーセットごと移動出来るので。表面だけ入れ替えるのである。ベルトコンベアーのように。


「…実はそのソファーセット、ゴーレムですか?」


 商人は自力で進んだのだと思ったらしい。


「いや、土魔法」


「……詠唱は?」


「いるの?」


「普通は」


『なんてマスターからとおいことば』


「ふーん」


 さらりと流す。


「…バロン、まだ欲しいんだ?」


 自分の分はペロリと食べたバロンは、羨ましそうにこちらを見ていた。甘いものばかりもなぁ、と思いつつも、干しいもをあげてみた。

 味付けしてない加工もしてない、素朴な甘さならまだいいような気がする。


『あ、ぼくも~』


「デュークも、芋、好きだよな」


『おいしいし!』


 結局、何でも好きなグリフォンである。

 バロンも気に入ったようで、美味しそうに干しいもを食べていた。

 人間が加工した料理したものなんて、森の奥にいた今までは口に入ることはなかったのだろう。


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