240 マスターにのりものっている?

 そうやってまったりしたり、遊んだりしているうちに入街審査の行列が進み、シヴァたちの番になった。

 バロンもしっかり従魔登録してあるので別に問題なく、王都ドリフォロスに入ることが出来た。

 もう日が陰って来ていたが、これでも早い方なので時間がかかったのは仕方がない。


 ドリフォロスダンジョンを中心に発展した街なので、ダンジョンは真ん中。

 放射状にしっかりと区画整理されており、場所は分かり易いものの、門からだと結構遠いし、他の場所へ行くのにも便利なので定期馬車が出ており、門からダンジョン出入り口まで数ヶ所の停留所に寄って三十分程らしい。


 さらりと市場を見て買い物をしてから、ダンジョンまでみんなで競争した。

 大半の人たちには見えないだろうが、驚かすのは本意じゃないのでみんなに隠蔽をかけて。

 市場からだと定期馬車で二十分、シヴァが身体強化なしでランニング程度に走って五分ぐらいだ。

 魔物でも肉食獣なバロンは持久力はさほどなく、それはまだ子供グリフォンのデュークも同じ。

 そういったことで、予想通り、シヴァが圧勝だった。隠蔽を解く。


【しみじみと、シ…マスターにのりものっている?ひつようないじゃん!】


 デュークのスピーカーにした言葉に、息を切らせながらバロンが大きく頷く。


「そこはロマンと魔力温存ってことで。…魔力は使ってねぇか。体力をほんの少し温存ってことで。さて、夕食までちょっと下見してくか」


 ドリフォロスダンジョンは120階ある地下洞窟型ダンジョンで、階層が多いダンジョン特有で幅広い冒険者向けになっており、浅層は初心者向きだった。

 10階ごとに転移魔法陣があり、101階以上はフィールドフロア。今までの最高到達階は111階だ。湿地帯フロアで底なし沼が厄介らしい。飛べる冒険者パーティもいなかったのだろう。

 …いや、パーティだからかもしれない。魔法や魔道具で一人二人は飛べても、で。


 まぁ、ともかく、探索スタート。

 ダンジョンの入り口の洞窟は、スタンピード対策に頑丈な防壁で覆ってあり、警備兵もいるが、別に何らかチェックするワケでもなく、出入りは自由だ。


 浅層は初心者に譲り、邪魔な魔物だけシヴァとデュークのマジックハンドで捕まえて、バロンに仕留めさせる。ネコ科は前足の爪が伸びる仕様だが、魔物になるとその大きさの落差が激しい。ほとんど熊手だ。


 8階ぐらいになると、冒険者の数も減ったので、四角の箱結界に魔物詰め合わせパックを作成し、一気に仕留めさせた。

 影魔法も時々使わせる。新薬のMPポーションで一滴で回復するので、トイレが近くなることもない。使い過ぎるのも副作用がありそうなのでそこそこで。


『そろそろきゅうけいにしたら?バロン、しんどそうだよ』


「そうだな」


 9階に降りてからすぐのセーフティルームにて休憩にした。

 アリョーシャダンジョンのセーフティルームで、いきなり攻撃された時の教訓を活かして、デュークは身構えていたが、別に何もなかった。あんなことは本来なら滅多にないのだ。あのバカ女が非常識なだけで。


 この辺りで休憩というのは、誰しも考えるらしく、そこそこの人が休んでいた。四人、五人、三人パーティで三人パーティがCランクで、こちらに来て探索に乗り出したばかり、な感じである。


 四人、五人パーティはいかにも駆け出しっぽく、装備が全然整っていなかったが、五人の方の一人の少年はテイマーで80cmぐらいの大型インコっぽく彩度の高い赤青黄緑のカラフルな鳥を肩に乗せていた。


【テソロコトーラ・スペイン語で宝のインコ。ゴージャスな見た目から付いた名前だが、風魔法と補助魔法が得意で上手く育てれば『宝』として遜色なくなる。鮮やかな色の羽も高く売れる。この個体(フルール)はまだ十歳なので魔法は今後に期待】


 鑑定してみたのだが……鑑定様、スペイン語はこの世界にない気がするが、誰が名付けたのだろう?

 過去の転生・転移者がスペイン語が堪能だったとは思えないので、どこからか文献がこちらに流れて来ている、という可能性もあった。

 まぁ、つまり、従魔として優れた魔物というワケだ。


『キレイなとりだねぇ』


 デュークも従魔の鳥が気になったらしいが、そんな感想を述べた。


『え、張り合わねぇのか?カラフルだし』


『いやぁ、じぶんが、ってのはないな、ってかんじ。おちつかないだろうし~』


『まぁ、確かに。見てる側はよくてもなぁってのは分かる』


『でしょ?…シヴァ、きらっきらだもんね、ようし』


『シヴァ呼び復活してるぞ』


『このばあいはかおのはなししてるし~』


 冒険者たちは武器を構えたので、バロンはそちらを警戒していた。


「従魔だから」


 念話でのやり取りは一瞬で、シヴァは一応、そう断っておく。


「あ、はい」


「…グリフォン、だよね?」


「フォレストパンサー?グレートパンサー?」


「ダブルファングビッグキャット?」


 バロンの種族は推測出来ないらしい。ネコ科魔物は種類も多い。

 勝手に盛り上がってる連中は放っておいて、シヴァは皆に【クリーン】をかけ、空いてるスペースにソファーセットを出し、果実水とハーブティ、お茶請けは野菜チップスを出して休憩にした。


『あんていのマイペースさ』


『一々相手するルールなんざねぇし。…変な食感?甘いのがいいって?』


 バロンからは言葉じゃなく、何となくの感覚が伝わって来る。


『そう甘いもんばっかでも身体に悪そうなんだって。おれの気分としてもしょっぱい系だし。じゃ、甘じょっぱいのテリヤキチキンのサンドイッチはどう?』


 バロンは年の割には痩せ気味で野生で食うや食わずだっただろう、となると、しばらくは栄養満点で問題なかろう。

 作り置きテリヤキチキンサンドを、一口サイズにカットしてやってからバロンの深皿に入れて置いた。

 美味しいものばかりくれる、という認識が出来たらしく、バロンはテリヤキチキンサンドをまったく警戒せずにすぐ食べる。

 気に入ったようだ。



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