241 しんやくのじっけんだいにされちゃうよ?
『なんだかんだいいつつ、やさしいよね』
『腹減ってるのに食えねぇのが一番辛ぇもんだろ』
『マスターでもそんな時あるの?』
『割とあった。仕事が忙し過ぎて、しかし、店がなかったり食べる時間がなかったり、で。こっちのようにマジックバッグがあれば、かなり食事事情が変わっただろうけどな。ねぇし』
『そんなにいそがしいしごとってなに?』
『税理士。修行の時が一番忙しかったな。こっちじゃ考えられねぇ程の仕事量だったんだよ。そりゃ文明が発展するぜ、な感じで大半が働き詰めでさ。夜勤や徹夜当たり前な仕事も結構あって』
『なんのしごとなのか、よくわかんないんだけど~』
『法律…国が決めたルール通りに税金の計算して、国に納める手伝いをしたり、店の経営が分からない人を助けるお仕事。って、この言い方も分かり辛いか』
『むずかしいしごとをしてたのはわかるよ!まえもきいたけど、やっぱりよくわかんないし!』
『分かったらかなりスゲェんだけどな。こっちに似たような職業ねぇし、社会システム自体が違うし。…お、チャレンジャーが一人』
Cランクパーティのリーダーの男(二十代後半)が武器片手に近寄って来た。武器はポールアックスでちょっと珍しい。柄が長い斧で、もう少し刃の部分が小さくて軽いのならハルバートだ。
「よぉ。休憩中の所悪いが、質問していいか?」
「嫌と言ったら?」
「おれじゃなく、他の奴が来るだけだろうな。あんたはテイマー、なのか?」
「自分の替わりに従魔に戦わせたり、移動や連絡に使ったりするのがテイマーなら、違うな。従魔がいるだけの冒険者」
「武器は何を使ってる?何も持ってなさそうなんだが…」
「聞いてどうする?」
『なんにももってなさすぎて、あやしくおもうんでしょ』
シヴァはSSランク仕様のベルト飾りがたくさん付いた肩当て付き黒のロングコートではなく、カーキ色のジャケットとトカゲ革ズボン、ショートブーツ、腿のナイフホルスターも腰の武器もマジックバッグもなし、というシンプルな冒険者装備だったが、中には今までの技術の結晶でかなりの防御力を誇るベストまで着ており、浅層でも全然油断していなかった。
「そう言われると困るが…そもそも、どこからソファーとか出した?」
「服の中のマジックバッグから」
…ということにした。実はポケットが、とかありそうだし、そういったフリするのも簡単なので。
実際はイヤーカフ型収納から出した。こちらの方ではまだ【チェンジ】は出回っていないようなので、適当なことを言っておく。
「そ、そうか。じゃ、武器も入ってるってことか」
確かに、シヴァは武器もたっぷり持っているが、ここまでまったく使ってない。
「そちらの豹の種族は何だ?」
「何で答える必要がある?」
『どうして、ききたいのかわかんないね。なかよくなりたい、とか?』
デュークは念話でそう言いつつ、男の顔をわざわざ覗き込んだ。
「デューク、スピーカーになってねぇぞ」
【あ、そうだった?しつれい。しゅぞくきいて、どうするの?】
「…しゃ、しゃべるのか?」
【かしこいからね!あんまりしつこいと、しんやくのじっけんだいにされちゃうよ?】
「数に限りがあるんだから、そんなもったいねぇ使い方はしねぇよ。デュークの戦闘訓練にでも使うか?」
【えー?よわそうなんだけど。あのとりのほうがよっぽどわかってるし】
デュークはプルプル震える鳥…テソロコトーラを羽で示した。
「震えてるのはデュークのせいじゃね?まだ子供でもAランク魔物だし」
【いやいや、マスターのせいだって】
「違うって。…ほら、おいで」
『フルール』とシヴァが念話で名前を呼ぶと、フルールはよく訓練された犬のように即座に飛んで来て、シヴァが差し伸べた腕に留まった。
「な?」
【ふくじゅうさせただけじゃん!】
「いや、何もやってねぇっつーの。魔力の流れぐらいはデュークも分かるだろ。呼んだだけ。お前も賢いな」
シヴァはフルールの耳の後ろ辺りを指先でかいてやる。
鳥が喜ぶ場所だが、魔物でも同じらしい。もう震えてはいないが、デュークには警戒していた。
バロンは食べる方に夢中なので別にいいらしい。
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