242 おれより強い連中なんか腐る程いるって
【ひとのじゅうまって、そんなにかんたんにいうことを…まぁ、マスターだしね】
「それで片付けられるのも不本意。…あ、何?野菜チップが欲しい?」
【えづけしちゃダメだとおもう~】
「分かってるって。ほら、帰れ」
シヴァが腕を振ると、シヴァの上空を一周回ってから仕方なさそうに、呆然としている少年マスターの肩へ戻った。
「…何かスゲーもん見たな…」
まだいた男はそう呟きつつ、ようやく仲間の所へ戻って行った。
シヴァたちがマイペースに野菜チップとサンドイッチをパリパリパクパク食べてると、我に返った少年テイマーが駆け寄って来て膝を付いた。
「し、師匠と呼ばせて下さい!」
「ヤダ」
【『ししょー』ってなに?】
「エライ先生?尊敬出来る人で弟子を取る。…って、君が話してたのか?」
【なんだとおもってたの】
「通信の魔道具で相手の声も聞こえるようにしてるのか、見えない精霊かと。グリフォンだよね?」
【うん】
「どうやって従魔にされたんだ?」
【ちがうよ。マスターにもらってもらったの。で、なんで『ししょー』?】
「すごいから。おれの言うこともたまに利かないのに、初対面でフルール…あ、こいつのことなんだけど、従うなんてすごい。なんで、弟子にして下さい!おれ、カルって言います」
「却下。弟子なんかいらねぇ」
【なんのでし?マスターはテイマーじゃないよ】
「え、そうなの?あんなにすごいのに?」
【ぼくはおとも。ざつようがかりでかわいさたんとう。ちょっとはやめのいどうだと、マスターについていけないから、かかえてもらうぐらいだし、ぼくがおおきくなってもむりむりすぎ】
「…抱えてもらう?大きくなっても無理って、グリフォンって走るのも速いんじゃなかったっけ?」
【もっとはやいのがマスター。とべるし、すっごくつよいし】
「……従魔、いらなくない?」
【たすけてくれてるんだよ。めずらしいからってすっごいねらわれるし】
「グリフォンが、と言うより、デュークがスゲェ賢いから、どこまで賢くなるのか研究したいのもあるけどな。まだ四ヶ月半でこの賢さだし、料理も作れるし」
【えっへん!えっへん!】
「グリフォンがどうやって料理を作るの?」
【『マジックハンド』をつかって】
デュークは縮めて羽の下になっていたマジックハンドを、うにょーんと伸ばして見せた。
「……グリフォンってこういう手があったっけ?」
「ない。マジックアイテムだ。元々の器用さに左右されるから、使いこなすのは難しいんだけど、デュークはすぐ慣れたし、今も努力してる」
「そうなんですか。…デュークってすごいんだな」
【でしょ!カルはかけだしぼうけんしゃなの?】
「そう。テイマーでも戦えないんじゃ危ないから、一応は鍛錬してるけど、あまり向いてないかも、で」
【あきらめるのはやいね】
「…うっ……」
「弟子だの何だの気軽に言って来る連中は、手っ取り早く苦労せず楽して技術を身に付けたい、強くなりたいんであって、地道な努力はしたくねぇんだよ。そこで、手っ取り早く強くなる薬があるけど、使う?」
【し…マスター!それ、ぜったいあぶないくすりでしょ!】
「そりゃそうだ。肉体改造する薬が安全なワケがねぇだろ。一時的に、でもな。計算上、一分限定でも一週間寝込む」
その場合、回復魔法やポーションが効くのかどうか、是非とも実験したいが、かなり危険な実験になるため、被験者が中々いない。
【……それ、つかえないくすりじゃないの?】
「まさか。絶体絶命のピンチの時、一分でも超人になれたら生き残る確率がかなり上がるんだぞ。欲しがる連中はいくらでもいるって。売るつもりはねぇけど、逆に言えば、もっと薬効を高めたものだと肉体崩壊を引き起こすから、何やっても無駄な魔物や強過ぎる悪人が出て来た場合、使えるかな~と思って」
万が一の時のため、魔力が使えない場合、ロクに動けない場合も想定しているワケである。脅しでも冗談でもなく、本当に色々と研究している。
【…マスターにかてるあいてがまずいないとおもうんだけど…】
「これだから箱入りグリフォンは。世界は広いんだぞ。おれより強い連中なんか腐る程いるって」
宇宙も含めたら本当に腐る程いるが、その観念がデュークにはまだない。
【えー?それはしんじられない…】
そこで、口を挟めず見守ってるカルがウザくなった。
「フルール、そいつを元の場所に連れて行け。邪魔」
シヴァがそう命じると、フルールは心得たとばかりに頷き、風魔法でカルを元の場所に吹き飛ばした。
前足で腕でも引っ張るのかと思ったのだが……マスターの扱いが雑だ。
【ふつうのじゅうまって、マスターにけがさせたり、さからったりはできないんじゃなかったっけ?】
「テイマーとしての力が弱いんだろうな」
『フルール、そのマスターに愛想が尽きたら、ウチに来てもいいぞ。見ての通りに従魔の待遇はかなりいい』
シヴァは念話で勧誘しておいた。
「クァ!」
その時はよろしく、という感じにフルールは返事をした。
『このダンジョン、近々おれがマスターになるから、ここに来れば話が通るようにしとくから。今の従魔契約の強制破棄もおれなら出来る』
この念話は意味が分からなかったらしく、フルールは小首を傾げた。ダンジョンのマスターという概念すらないのだろう。
まぁ、フルールとカルが何だかんだ揉めても、上手くやって行ければ、それでいいが、カルの地道な努力を嫌うような性格では、遅かれ早かれ、といった所か。
『困ったらこのダンジョンに来い、ということだ』
もう少し噛み砕いた言い回しだと理解したらしく、フルールはこくりと頷いた。
シヴァたちはその辺で休憩を切り上げて探索を再開し、10階に到達した所で今日は宿に引き上げた。
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