243 事実が一番、胡散臭いらしい
従魔と泊まれる宿だけあり、食事の追加料金だけでよく、バロンが増えた宿泊料はなし。元々部屋料金だし、離れの部屋なので問題なかった。
ネコ科で人間の家には入ったことは今日が初めてなだけに、その辺で爪研ぎされると困るなぁ、とは思っていたシヴァだが、バロンは『借りてきた猫』状態だった。
圧倒的に強いシヴァがマスターだし、美味しい物を食べさせてるし、でマスターの望まない行動はしない、と思ってるらしい。
デュークを見本にすれば、ほぼ正解だし、下半身が獅子のグリフォンだし、仲間という意識もあるらしく、じっとデュークの行動を見ていたりもする。
まぁ、数日もすれば慣れるだろう。
一匹増えたし、バロンも慣れないし、混み合う食堂は迷惑になるかと、夕食は部屋食にした。離れの部屋の元からあるサービスである。
今日の夕食は寒い日に嬉しい鍋焼きうどんだった。
ほとんど寄せ鍋で、ボア肉も野菜もたっぷり。川魚出汁だが、丁寧に雑味を除いてあってスープも美味い。
さすがヒルシュ。簡単な料理でも手は抜いてない。
バロンは熱いのは少し苦手程度で猫舌までは行ってなかったので、少し冷ました程度で美味しそうに食べていた。麺が少し食べ辛そうだったので、シヴァが麺を切ってショートパスタ状態にしたが。
デュークは麺類でも全然平気でクチバシで器用にすする。
手持ちのご飯と卵で雑炊にしてシメ、スープも美味しく頂いた。
「あ、ヒルシュに肉売るの忘れてたな」
食後のお茶をしつつ、シヴァは思い出した。
夕食を運んで来たのはホール担当の従業員だったので、すっかり忘れていた。
食堂の忙しさのピークが過ぎた頃を見計らい、デュークとバロンは部屋に留守番でシヴァだけで食堂に行き、熊肉を売った。トカゲ肉も美味いが、あまり日持ちしない。
「おお、わざわざ悪いな。貯蔵庫の場所空けるから、ちょっとそこで座って待っててくれ」
割と日持ちする肉だと、貯蔵場所の問題があった。
シヴァがカウンターの椅子に座ると、助手がお茶を淹れてくれた。
そこに、食堂から話が聞こえて来る。
「…そういや、聞いたか?大雨でかなり被害が出たサファリス国、もう復興してるらしいぞ。まだ一ヶ月ぐらいしか経ってないのに」
「ああ、それ。SSランク冒険者がかなり手助けしたらしいぞ。洪水に流されず、何とか助かっても、怪我して住む所も食べ物もないんじゃ、更に死者が出るからって、仮設の家作って大量の食料も生活雑貨も寄付したらしく。でもって、各国から支援募って、どうやってか連れて行ったんだとか」
「あ、その話、おれも聞いた。そのSSランク冒険者のツテで、神獣様が二匹、二体?も来て下さったらしい。洪水の後は水が引いても作物が育たないからって、浄化?みたいなことしたそうな。でもって、ほら、あの無茶苦茶美味いと評判だったカップラーメンを自動販売魔道具で売ってた大魔導師、あの人もどこからか駆け付けて、援助したらしいぞ」
「そりゃすごいけど、そんな数人がちょっとぐらい援助してもどうにかなるものかぁ?」
「ちょっとぐらい、じゃなかったから復興してるんだろ。各国も援助はしてるけど、ケタが違ってて騒然としたそうだし。いや、今もか。そんな大量の食料や物資がどこからって話で、でも、そこまで大量買いしてたら絶対目立つのに、そんなことがないらしく、となると…」
「大量に食料や物資を作る魔道具かマジックアイテムを持ってる、とか?」
「それはないだろ。錬金術だって何もない所からは何も生み出せないんだし」
「そのSSランク冒険者、実はどこかの国の重要人物で、そういった大量の食料や物資を援助しても、全然余裕がある程の大国じゃないかって噂もある」
「どこかってどこ?そんな大国なら噂になってるだろうし、遠くの国ならどうやって移動するんだよ?」
「長距離の転移魔法陣がどこかにある、とかいう噂があるけどな。そもそも、そのSSランク冒険者からして、突然どこからか現れていきなり難関ダンジョンをソロ攻略してSランクになって、という規格外過ぎる実績があるワケで」
「それ言ったら『カップらーめんやさん』の大魔導師様もだろ。今ではエイブル国の割と大きいダンジョンの下層に、自動販売魔道具を設置してるらしいぞ」
「え、何それ、初耳。救援物資で放出したから当分無理っていう話を聞いてたんだけど?」
「何で下層?設置してもダンジョンに取り込まれないのか?」
「セーフティスペースやルームなら大丈夫らしい。実験してから設置したそうだから。下層なのはそう数が出せないからって話」
「って、大魔導師様、下層に余裕で行けるってことだよな…」
「実はかなりのダンジョンを攻略してるんじゃないか、という噂もある。例のSSランク冒険者だけじゃなくてな」
「あ、なら、ダンジョンから食料や物資を調達してるんじゃないのか?」
「いくら何でもケタが違うだろ。街三つ分の住民を一ヶ月以上賄える程の量だぜ?騎士団総動員しても無理過ぎだし、そんな大勢動員してたら、とっくにかなりの噂になってるって」
「確かになぁ」
「『神の使徒』じゃないかっていう噂も聞いたぞ。神獣様たちと友達らしいし」
「…人間が神獣様と友達になれるものなのか?」
「実は精霊王かも、とかいう噂もあるけどな。人間の都合よく動かないから精霊使いはかなり少ないのに」
「そうそう、関連してるかどうかは分からないけど、エイブル国、ラーヤナ国、ブルクシード王国で謎の奇跡が続いてるらしいぞ。大怪我が一晩で治ってるんだとか」
「…はぁ?」
「噂が大げさになってるだけじゃなくて?」
「本当らしい。四肢欠損、原因不明の病気まで治ってるそうだから、それこそ『神の使徒』の恩寵じゃないかと教会関係者が騒いでるってさ」
「『神の使徒』ねぇ……。一気に胡散臭い話になったな。それが本当なら大威張りで姿を見せるハズだろ?教会への喜捨も増えるし、権威も上がる」
「姿を見せないからこそ『奇跡』と言われてるワケだ」
……と、そんな話を商人たちが話していたが、シヴァは内心ニヤニヤしてしまった。
情報操作は上手く行ってるらしい。あれこれ説を流したのはシヴァだ。分身たちも使ったが、コアバタたちにも協力してもらって。
情報過多の方が事実は分かり難くなるものだ。
異世界人の転移者、転生者、という説も流しているが、信憑性がなさ過ぎるのか、こちらは噂が広まり難かった。
事実が一番、胡散臭いらしい。
過去の異世界人たちは、ここまで派手なことはやらなかったので、余計に
クラヴィスダンジョン前マスターは異世界人だったが、クーコによると人嫌いな所があったらしく、そういった支援の類はまるでしてない。
思い付かなかったのもあるのだろうが、あまり強くなかったそうなので余裕もなかったのかもしれない。
異世界人が知識や技術や新しい料理や調味料を広めるのも、資金の調達に苦労したり、同業者から恨まれたり、権力者に狙われたり、とかなり苦労して時間をかけてじわじわと広めて行ったので、やりたい放題なシヴァと同郷だとは思わないのもあるのかもしれない。
そもそも、今までの異世界人たちは、シヴァより余程、スキルや魔法の初期スペックが恵まれていたようなのに、平和に暮らしていた弊害か、記録に残っている限り、大して強くなっていなかった。
冒険者ランクで言えば、Bランクがせいぜいな感じで。
魔道具も自分で作るより、「こういったのを作って欲しい」と人に任せてる方が多かった。協力して作ったという錬金術師、魔道具師もかなり多い。…まぁ、徒弟制度のせいでもう衰退してしまっているが。
転生モノ話の定番で「トラックに
記録に残っている勇者は召喚者、賢者は、どうやら転移者のようだから、優れた人間が選ばれているのだろう。
元の世界でも規格外なシヴァは転移者だが、こちらでも規格外だった、というだけの話か。
まぁ、いくら何でも、各国王と宰相と幹部は、異世界人なのには気付いているとは思うが、案外、異世界人の子孫や弟子だと思ってる可能性もあるのかもしれない。
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