236 すごいごういんにとおりすがったね

 またテンプレに遭遇した。

 頻繁に起こることがテンプレなのだから、何の不思議もない。

 駆け出し或いは経験の浅い冒険者パーティが獲物を深追いし、森の奥の方へ入り過ぎて返り討ちに、のテンプレである。

 常設依頼をやるつもりでギルドに寄らず、直接、森に来ていたのだろう。


「助けが必要?」


 シヴァは一応訊いてみた。

 Cランクのライトニングウルフ六匹に囲まれており、冒険者四人のうち二人は足と腕に怪我を負っている。爪でやられたのと雷魔法だ。


「た、助けて!」


「はいよ」


 シヴァは久々に合金刀で首をねて回った。


【かいしゅうしまーす】


 デュークがすぐ収納に入れる。血が流れ過ぎるとそれで他の魔物を呼び寄せてしまうので、ちゃんと教えた通りに。

 シヴァが回収してもいいのだが、デュークにも仕事をあげないと。


「ポーションある?新薬使う?」


 血振りしてさっさと合金刀を収納にしまったシヴァは、新薬を出して怪我した冒険者たちに見せる。


【またしんやくとかいってるし~】


「実験データは集める程、精度が上がるんだって。ってことで、無料でいいぞ。新薬はちょっと副作用あるけど、痛いんじゃなくかゆいだから」


「ええっと…どちらさま?」


「助けてもらったのはありがとう、だけど、新薬って何?」


「通りすがりの冒険者兼錬金術師だ」


【すごいごういんにとおりすがったね】


 デュークがツッコミを入れたように、シヴァの探知魔法にひっかかったので、わざわざ予定コースをそれてここまで来ていた。

 シヴァのスピードにデュークが付いて来れないので、小脇に抱えて。


「え、何、グリフォン?何でしゃべるの?」


【かしこいから。うちのマスター、マジでてんさいだから、しんやくつかったら?キレイになおるよ】


「このぐらいの怪我なら、なんと三滴だけで治るぞ」


 どれだけ待っても返事はくれなさそうなので問答無用でいいか、とシヴァは【クリーン】をかけてやってから、新薬ポーションをスポイトで患部に垂らした。

 念のため、手足は影拘束で固定してから。


「うぉおおおっ!かゆ、かゆいっ!」


「五秒ぐらい我慢すると大丈夫。掻きむしると傷になるからな」


【かゆいのは、なんとかならなかったの?】


「冷たい、熱い、痛い、よりマシじゃね?濃縮してあるから効果が劇的なのはいいんだけど、副作用はどれかが付いちまうんだって」


 かゆみが治まったようなので、影拘束を解除してやった。


「…本当にすごいキレイに治った…跡が残りそうだったのに」


「たった数滴でいいなら、今までのポーション瓶の量でかなりたくさん使えるってことだよね?」


「そう。画期的だろ。今の所、おれしか作れねぇのがネックなんだけど」


【そんなんばっかだし!】


「難易度を下げたつもりなんだけどなぁ。繊細な魔力操作と詳細なイメージ力が必要で。簡単に作れるんなら従来のポーションももっと質が上がってるって話だけど」


【じゃ、きをつけてもどってね】


 デュークはさっさと話を戻して、バイバイ、と羽を振る。


「ここから早く離れた方がいいのは確かだな。さすがに魔物も増えて来てる辺りだし。…おっ、アルキノコだ!ダンジョン外で初めて見た!」


 そう言ってる間に、シヴァの視界の隅に動くものを発見。

 幼児ぐらいの大きさのでかいキノコだ。その名の通り本当に歩くキノコで食用だ。


【…うわ、きのこがあるいてるよ、ホントに…】


 デュークは【ドラゴンアイ】の片眼鏡を装着しているので、距離があっても難なく見える。

 …そう、魔力を使ってなくてもシヴァの視力はかなりよかった。

 森の中で木々の陰になることもあって、一般人なら点にも見えないだろう。


 ちょっと引いてるデュークだが、シヴァは再び小脇に抱えて距離を詰め、アルキノコをゲット!

 足?触手?菌糸?の付け根が弱点なので仕留めるのは容易いのだが、隠密スキルを持ってるので発見するのも割と難しかったりする。

 シヴァは【直感】スキルが働いたのもあった。


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 一周年記念SS「番外編34 爆誕!呪われた村」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330669449266458

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