番外編05 変態になるには理由がある

<ダンのいるパーティ(パーティ名はなし)>――――――――

・ダン…二十三歳。剣士。長剣使い。大柄犬系。

・ボルグ…二十歳。土魔法使い。ショートソード。

・グロリア…三十二歳。リーダー。槍使い。

・ヒューズ…二十八歳。水と風魔法使い。バスターソード使い。

・マーフィ…二十六歳。斥候。弓使い。火魔法使い。

―――――――――――――――――――――――――――――


「そういや、アル、サーラさんが少年好きで、よく触る変態だって、声をかけて来る前から分かってたみたいだけど、一体、どこで分かったんだ?」


 夕食後。

 軽く酒を呑みながら、アルがダンたちにこちらでの生活や常識を更に教えてもらった後、ボルグがふと思い出したようにそう訊いた。


「経験則のカンだって言っただろ。敢えて言うなら、ねっとりとしたくらい視線」


「暗いかぁ?明るいだろ、あの人」


「そっちじゃなく陰鬱な方のくらい。明るく見せてて影があるっつーかさ。

 …ボルグ、あの変態に不幸な身の上話をされて、『大人の男の人が怖いの』とか『君なら大丈夫みたいだから慰めて』とか言われただろ?」


「えっ、何で分かるんだっ?」


「よくあるパターンだから。同情させて『自分だけが特別』だと思わせて、その実、変態の希望通りに調教される、ということだな。おれの故郷だとそういった心理状態も研究されてて、『虐げられた自分はもうおらず、主導権を握るのは自分だ』と書き換えるワケだな。で、次第に楽しくなって来て変態になり、より極めて行く、と」


「おいおい、極めんなよ、そんなの~。犠牲者が増えまくるってことだし~」


「双方合意なら問題ねぇだろ。おれは嫌だから避けただけでさ」


 アルは自分に迷惑がかからないのなら、かなり寛容だ。どうでもいい、とも言う。


「被害者は合意、するかぁ?」


 二十八歳のヒューズは変態サーラのターゲットになり得ない他人事ながらも、被害者に同情的で思いっ切り否定派らしい。


「まぁまぁキレイなお姉さんに可愛がられたい男はいるだろ」


 三十二歳のパーティリーダーのグロリアは、「まぁまぁ」判定らしい。


「おれはどん引くけどな…あの舐め回すような視線が気持ち悪い…」


 二十三歳でガッチリとした身体付きのダンがそう言うと、皆もうんうんと頷いた。アルも当然。

 変態サーラの好みとしては、ダンは育ち過ぎなのだが、大型犬系なので惜しい、と思うらしい。


「同感だけど、ターゲットはあくまで少年だろうから対象外だろ」


 二十六歳のマーフィがツッコミを入れる。


「若い頃はそれが分からなかったんだよな…単純で素直だったし」


 二十歳でかつての被害者のボルグは、ふぅとため息を漏らす。


「それは今もだろ。ボルグがターゲットから外れてるように見えねぇから、変態に元少年も入るじゃね?」


「えーマジか…」


「つけ込む隙を与えると、すかさず狙って来るから気を付けろよ」


「アルは何でそんなことにまで詳しいんだ?確信持ってるようだし」


 ダンが首を捻った。


「だから、知識だけじゃなく、フラチな老若男女を散々叩きのめして来たから、だって。少数派マイノリティ少数派マイノリティを呼ぶのか、おれなら笑わずに聞いてくれると思うのか、お悩み相談を持ちかけて来る連中も多かったし」


少数派マイノリティ?アルが?…ああ、元々規格外だって言ってたな」


「そう。どこでも『浮く』し、目立つんだよ。今は外見が普通でも何か目立っちまってるし」


「おいおい、あれだけやらかしてどうして目立たないと思うんだ…」


「圧倒的に不利なガタイで、ダンを投げるだけで相当だしな…」


「何が目立つか分かってないから目立つってこともあるんだろ」


「そうそう。こっちの『普通』がよく分からねぇのもあるワケだ。…まぁ、ともかく、もう関わりたくないのなら、変態サーラは徹底的に避けろよ。少しでも同情するとこれ幸い、と引きずり込まれるぞ」


「そんなにヤバイ感じ?何か称号とかスキルとかあって?」


「あの時は鑑定スキルがなかったから鑑定してねぇって。まぁ、何人も餌食になってるんなら、何かしらスキルか称号がある可能性が高いけど」


「…怖い話になって来た…」


 他人事じゃないボルグが寒気を感じたらしく、腕をさする。


「あの人が誰かと結婚して落ち着けば大丈夫じゃないのか?」


 ダンがそんな質問をした。


「結婚したいのならとっくにしてるだろうし、落ち着きたいのなら、そう何人も手を出してねぇだろ。おそらく、『みんな違ってみんないい』なんだろうな」


「……さて、すっかり酔いが醒めた。解散にしようか」


 興醒めした所でグロリアがさっさと仕切って、解散となった。

 さっさと寝て忘れちまえ、ということだった。


 ******


 そんな話をした数日後。

 冒険者ギルド併設の食堂にて、左頬を手で押さえて俯き震える女を受付嬢が背中に庇っている場面にボルグは遭遇した。

 相対しているのはガタイのいい冒険者だ。


「問答無用で殴るなんて酷いです!それも女の顔を!」


「どけっ!そいつには弟分が泣かされたんだ。邪魔すんな」


「人違いじゃないんですか?ちゃんと確認しました?何か誤解があっただけかもしれません。最初から喧嘩腰なのはどうかと思います」


「部外者が割って入って来んなっ!」


「あなただって部外者でしょっ!」


 受付嬢は一歩も引かず、ぎゃーぎゃー言い合う。

 そのぐらい度胸がなければ、荒くれも多い冒険者が相手の受付嬢なんてやってられないし、大半の冒険者が味方だと分かっているから強気に出ているのだろう。


「きゃーボルグ君、助けて~」


 そこで、棒読みで助けを求めたのは…サーラだった。

 つまり、震えていた女もサーラだったのだ!

 俯いていたので気が付かなかった……。


 は?とばかりに、言い争っていたガタイのいい冒険者と受付嬢はこちらを見た。


「自分で何とかして下さい」


 何故、か弱いフリをしているんだか。

 「殴るなんて…」と受付嬢は責めていたが、サーラが押さえていた左頬も、顔のどこも赤くなってないし、腫れてもいない。

 斥候のサーラだが、ちゃんとレベル上げをしているので、この程度では怪我しないのだ。レベル上げの大事さをボルグに教えたのもサーラである。


「ちょっと痛かったのは本当なのよ~。ムカムカして来てどう始末してやろうかと思ったら、何か震えちゃった、な?」


「可愛くないです」


「え~?頑張ったのに~ボルグ君、可愛い子が好みっぽいし」


 ワザとらしい、あざといのは御免こうむりたい。

 おっと、相手しない相手しない。

 ボルグは自分に言い聞かせて、踵を返し、冒険者ギルドのカウンターへ向かった。

 ソロで納品依頼を受けており、その納品に来たのである。

 食堂に先に来たのは、今日のセットメニュー次第でここで食べるか、他に行くか決めようと思っただけで。


「ちぇっ、残念。何か入れ知恵されたみたいだね?…あのちぐはぐな子か」


 そんな氷のような声が聞こえるのと同時に、「ぐはっ!」という男のうめき声が聞こえた。ガタイのいい冒険者が痛い目を見たらしい。


 ボルグは少し背筋が寒くなりつつも、アルの忠告に感謝した。

 今度、メシでも奢ろう。


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