番外編38 それでも彼らは立ち上がる!

注*もしも…の話で、本編とは関係ありません。

――――――――――――――――――――――――――――――


「…ぐぁっ!…こ、このままでは全滅してしまう!ここは、オレが食い止めるから、お前たちは…」


「何言ってるのよ!ミナト!」


「バカッ!ミナト、本当にバカッ!」


「あんたに食い止められるワケがないでしょ!ヒカリ、回復魔法!早く!」


「分かった!スズ、油断しないで!」


「モモ、MPポーション頂戴!」


「うるさい!何でもいいから…」


「しゃべる余裕があるんなら死ぬ気で逃げればよかったのに。来世で役立てろよ~」


 ロックキャノンの雨が降る。

 一瞬で勇者パーティは四人全員倒された。

 別に魔王と戦っていたワケじゃない。

 単なるフロアボス、それも今まで何度も倒されていて、ボス部屋前にはいつも行列が出来てる、エイブル国エレナーダダンジョン20階のフロアボス相手に、だ。

 Dランクパーティが装備を整え、情報を集めて対策を立て、大技を使わせないよう袋叩きにすれば勝てるフロアボスに、である。


 最後の言葉はフロアボスのストーンタートルではなく、ダンジョン内を映すモニターを見ていたダンジョンマスター…シヴァの言葉だった。


【マスター、まだ死んでいないので治療してやります?】


 ダンジョンコア…エーコがそう訊いたが、その時にはもう瀕死の勇者たちを医療ルームに回収して治療を始めていた。

 腹に穴が空いていたり、腕や足が潰れていたりするが、頭は潰れておらず、エーコがすぐ止血しているのでまだ間に合うだろう。


「ついでに性格矯正もしてやって。中二病が入り過ぎ、無駄な会話をしていても、敵が親切にも待ってくれてるアニメも見過ぎ」


【え、敵なのに待ってくれてるんです?いくら子供向けのアニメでもバカにし過ぎてません?】


「なぁ?長過ぎる詠唱とか技名とかでも、敵はちゃんと待ってくれてるんだぜ。リアル過ぎても何やってるのか分からなくなっちまうだろうし、表現の限界もあるだろうけど、それにしたって、勇者たち、ここが現実だと分からなさ過ぎだし。ちやほやされまくって、大した努力なんかしなくても勇者はチートだから最強!とかって勘違いもしたんだろうなぁ」


【『あいたたた』ですね!】


「おお、よく勉強してるなぁ」


 コアたちにシヴァの記憶から再現した映画やドラマ、アニメを見せているので話が早かった。


【そもそも、勇者召喚を成功させてしまったバカが一番悪いのです。魔王も巨悪もいない、この近辺では戦争もやっていない割と平和な時代ですのに】


「それな…。バカと天才は紙一重だとは本当によく言ったもので」


 どこからか発見された古代の書物の状態がよかったため、研究者たちが大喜びで研究して翻訳してしまい、「実践しないことには翻訳が正しいのか、本当に召喚出来るかどうか分からない!」と勝手にノリノリで試した結果、勇者召喚が成功してしまったのだ!

 帰す方法も記されてなかったのに。


 召喚の際、派手な雷が落ちたことですぐに国の知ることとなり、成功してしまったものは仕方ない、と王宮にて客人として遇していたのだが、勇者たちは勇者らしい行動がしたい!と言い出し……。


 結果、まだ十分に鍛えていないのにダンジョンに潜り出したのだ!


 良識ある王侯貴族は止めたのだが、勇者たちを担いで甘い汁を吸いたい貴族たちが大いに持ち上げ、その気になってしまったのである。

 転移・転生特典で経験値倍加、魔法やスキルも覚え易いので、そういった所も勘違いを深めたのだろう。


 勇者パーティは男剣士…ミナト、女槍使い…モモ、女魔法使い…スズ、女回復術士…ヒカリ。

 完全に鍛錬不足、装備不足、火力不足なので、せめて回復術士に補助魔法付与魔法を覚えさせ、魔法使いも前衛がやれるよう鍛え、全員、魔法やスキルだけに頼らないよう…なーんてまったく考えてなかった。

 20階まで進めたのは、スキルや魔法をガンガン使い、MP、スタミナポーションもガンガン使ったから、に過ぎない。戦い方がまるで分かってない連中なのだ。


 RPGゲーマーだったのなら、そういった装備や戦力的なことも考えただろうが、四人共、そうじゃなかったらしい。十六歳から十七歳の高校生なのに。

 異世界転移も転生も時系列がバラバラなので、放置ゲームが流行った世代なのだろうか。

 当然ながら、万が一の保険としてエスケープボールがドロップするまで待ってから挑戦、なーんてこともしていない。


 ちなみに、シヴァやコアたちが勇者召喚に気付いたのは、召喚し始めた時だ。多くの魔力と次元の歪みで。すぐさま転移したのだが、もう召喚はされてしまった後だった。


 つまり、シヴァも召喚当時から勇者たちの動向を知っているワケである。偵察飛行カメラを付けてあるので、録画までしてあった。

 自分たちの恥ずかしい行いを後から第三者として見ると、中二病も少しは治まらないかなぁ、という目論見もあった。

 治る、じゃないのは、中二病は難病指定の不治の病だというのを思い知ってるからだ。不本意にも関わってしまった中二病患者がいたので。



 ******



 勇者の男剣士…ミナトは右手が潰れ、左足がすねからちぎれ飛び、腹にも穴が空いた。

 女槍使い…モモは手で防ごうと思ったらしく、両手が前腕からちぎれ、支え切れなかった背骨も折れ、右太ももにも穴が空いた。

 女魔法使い…スズはロックキャノンの岩石の欠片が跳んで来たらしく、左手が肘からちぎれ、顔の左半面がぐちゃぐちゃ。脳味噌の一部も潰れて機能障害が残りそうだった。シヴァが時間を戻す【時空魔法】を使わないのなら。

 女回復術士…ヒカリは両足の膝から下を潰されていた。至る所に切り傷や打撲はあるものの、後衛で離れていたので四人の中で一番軽傷だった。


「このまま死なせてやった方が幸せなんじゃね?」


【浅はかな行動でこうなったのですから、思い知ってからの方がよろしいのでは?】


「それは確かに。難病だしな~中二病って。最低限の治療だけにするか。ウチ以外だととうに死んでる重体なワケだし」


 エーコがすぐに血止めをしてなければ、とっくに死んでいた。誰かが救出に来たとしても上級ポーションでも治らない怪我なので、遅かれ早かれ。

 にゃーこや店長が国に売ったエリクサーを使ったとしても、一ヶ所を治すのがせいぜい、エリクサーが致命傷になる場所から治すワケではないので、運が悪ければ死ぬ。

 そもそも、エリクサーは二本しか売ってないので、まったく重要人物じゃない勇者たちに使うとは思えない。


【賛成ですが、両手がない槍使いは片手だけは生やした方がいいのではないでしょうか。長期間、つきっきりの世話人が必要になってしまいますから】


「それはマジックハンドでいいんじゃね?デュークのマジックハンドのように、長くなったり大きくなったりはせず、魔力タンクもなし。片方だけの手の機能だけ」


 子供グリフォンのデュークのマジックハンドは、何気に高性能なので。


【わたしも考えましたが、しばらく、魔力は使わない方がよろしいのでは?】


「それは腕を生やす時も同じだろ。まぁ、しばらく寝たきりなんだし、本人の借金にするから本人に選ばせてやろうか。もちろん、治療費も生活費も借金」


 無料奉仕なワケがなかった。

 『治療ゲリラ』は勝手に治して、勝手に経過観察をしているが、勇者たちのような身体も異世界産の場合、体質も経過も治癒速度も違ってそうなので今後の参考にはならないだろうし、『中二病重症患者』にはなるべく関わりたくないのだ。

 精神疲労が著しいので。



 ******


「……はっ、ここはどこだ?…うう、どうなってるんだ、身体が動かない…」


 勇者四人のうち、最初に気が付いたのは男剣士…ミナトだった。内臓の半分ぐらいがなくなっていたが、無事に最低限の臓器は再生させたし、一番体力があったからだろう。


「おー口だけは元気だな~。右手と左足がなくなり、腹にも穴が空いてたのに、たった半日で動けるようになるワケがねぇだろ。魔法とスキルは封じてある。せっかく助けたのにすぐ死なれるのも腹立つんで」


「だ、誰だ?ここはどこだ?」


 シヴァはミナトのベッドの側に立っていたが、いつものように認識阻害仮面を装着している。まぁ、首も身体も動けないのでミナトに姿は見えないが、一応。


「助けた相手に最初に言うのがそれか?ちやほやしてくれて当然って?中二病重症患者はこれだから、関わりたくねぇのに」


「あ、ありがとう?」


「取って付けた礼に何の価値があると?まぁ、いい。その分も治療費に付けとく。当然、無料じゃねぇからな。質問は?」


「ええっと……あなたは医者?…あ、あんまりいなかったっけ。回復術士なのか?治療する人?」


「言った所で分からんだろ。こちらの世界のことなんてほとんど知らねぇ、学ぼうともしてねぇ、多少鍛錬しただけの中二病の異世界人なんだから。この場所も説明した所で同じく。お前が助かったのはダンジョンの気まぐれのせいだ、とだけ教えてやろう」


 まんまだ。ダンジョンコアのエーコが先に助けていたのだから。


「……は?殺そうとしたのもダンジョン……え、何で助かったんだ?もう絶対にダメだと思ったのに」


「だから、気まぐれ。そもそも、お前はダンジョンもこの世界も勘違いしている。ここは現実だ。ゲームの世界でも物語の世界でもない。魔王なんていないから勇者もいらない。お前は単なるマッドでサイコな研究者によって、実験がたまたま成功して召喚されただけの一般人だ」


 便宜上、「勇者」呼びはされているのだが、召喚の際、強力な魔法やスキルが付与されているワケでもない、言語理解スキル程度の一般人だった。


「……でも、魔法と剣の世界だし、レベルの上がりもスキルを覚えるのも早くて……」


「それ、転移者、転生者特典で全員同じだから。お前たちより遥かに強くて知識もあって頭がいい異世界人がいたからこそ、食や文化が充実してるんだよ。そして、多くの中二病の重症患者もいたから、そういった言い方も広まってるワケだ」


 それも嘘じゃない。

 シヴァも転移者だとは教えるつもりはないが、こちらの世界の勉強をしていれば、こんなに高度な治療は不可能だと気付いただろう。まぁ、高度な治療も最先端技術もダンジョンだから、で通る。…いや、通す。


「………あっ、みんなは?モモやスズやヒカリは?生きてるのか?」


 やっと、自分以外がどうなったのか、気になったらしい。


「その三人も重体。手足が潰れたりちぎれたりしてなくなってるし、頭が半分潰れてる子もいる。遊び半分でダンジョンに潜るから、こういったことになる。日常生活すら危うい上、治療費も生活費もまだまだかかる借金持ち。お前らをあれだけちやほや持ち上げてた貴族たちも、引き取ってくれねぇだろうなぁ。中堅貴族程度なら家財一切売っても払い切れねぇし、借金を一緒に背負ってでも助けてくれる聖人なんかもいない」


「そ、そんなに高い治療なのか?」


「もちろん。言っただろ。腹に穴が空いてたって。内蔵の半分がなくなってたのに即死してないって、スゲェと思わねぇのか?魔法がある世界だから、どれだけ重体でも治る、などとアホなことを思ってるだろ?」


「違う、のか?」


「当然、違う。回復魔法は人間が本来持つ治癒力を高め、治るのを早くしているだけだ。重体であればある程、魔力が大量に必要になるし、治癒力を高めることにも限界がある。霊薬も同じ。再生能力が高い魔物と同化すれば、すべての怪我が治るかもしれねぇけど、それはもう人間とは違う生き物だな」


「じゃ、ずっと、寝たきりになる、のか?おれも?みんなも?」


「それは経過次第だな。身体に負担がかかり過ぎるから、一気に治療出来ねぇのは分かっただろ。逆に生きる気力をなくせば、どんな治療も無意味になる。心に身体は引きずられるものだからな」


 まぁ、その場合は洗脳クラスの強力な暗示をかけ、無理矢理生かして、働いて借金を返してもらうが。

 大してレベルを上げてないこいつらなら、元の世界に送り帰すことも出来るかもしれないので、その実験には最適だ。


「時間はかかっても動けるようになる、ってことか?」


「ああ。そうじゃねぇと、借金を返してもらえねぇからな。ただ、スズって子は難しい。顔の左半面はぐちゃぐちゃで左目も脳味噌の一部も潰れてたから、絶望して死ぬかも」


 ずっと眠らせたままでは、筋力も体力も落ちる一方だし、【時空魔法】で巻き戻したのは潰れた脳味噌とその周辺だけなので、どこまで記憶があるのか、機能障害は残っていないかの確認はしないとならない。


「……は?ぐちゃぐちゃ?」


「聞き流してたのか。頭が半分潰れてる子もいる、と言っただろ。スズは左腕もちぎれてない。もっと薄汚れているのなら、アンデッドの軍団に混じっても、見分けが付かねぇ程の重体」


「そ、そんなに……モモとヒカリは?」


「槍使いのモモは両手を失い、背骨も折れ、腿にも穴が空いてた。ヒカリは両足が潰れてるけど、他は打撲程度で一番軽傷」


「潰れてって…ポーションか何かで治るんだろ?」


「だから、ポーションは万能じゃねぇっつーの。骨ごとミンチにした肉を戻せるとでも?神経もバラバラなのに?」


「で、でも、寝たきりにはならないって」


「自分の都合のいいように改変すんな。経過次第だと言っただけだろ。この世界にも義手、義足はあるし、従魔や使い魔契約が出来れば、手足の代わりになってもくれる。まぁ、そう都合のいい魔物と契約する以前に会えねぇだろうけどな」


 外出出来るようになるまで、どれだけ時間がかかるのやら、というのもあるが、便利な魔物がその辺にいるワケがなかった。そうだったのなら、人間たちがこぞってテイムを試すだろう。


 現実を突き付けられたミナトは混乱しているので、「たたみかけるチャンス!」とシヴァは結界スクリーンをミナトの目の前の天井に固定し、今までの痛々しい映像をうつしてやった。


「オレがこの国を救ってみせる!」

「みなさん、安心してくれ!神が選んだ勇者はおれたちなのだから」

「一ヶ月、一ヶ月だけ待ってくれ!必ず目に見える実績を上げてみせるから!」

「ああ、そうそう、王よ。王女との縁談はなしにしてくれ。残念だが、力を持つ者は国にも一人の女の子にも、縛られなくてもいいからな!」

「ああ、また、女の子を泣かせてしまった。モテる男は辛いものだな…」


 発言だけでも数々と痛々しいことを言っているのである。

 国王に対しても上から目線過ぎで、礼儀に厳しい王侯貴族の反感も買っていたりもする。

 その上、ミナトは無一文のクセに防具に全身鎧フルメタルアーマーを所望したので、はいはい、と騎士団がサイズが合う鎧を着せてやったが、重過ぎて這いつくばったまま、動けなくなったこともある。

 もちろん、意地悪だった。

 鍛錬をする前のことなので、ミナトたちのステータスが低いのも分かっていた。


 ちなみに、モテる、というのもミナトの勘違いである。

 百人中九十九人が「髪型や服装を変えたら分からない」と言う十人並みの顔立ちで、この近辺の国だと凹凸の少ない珍しい顔立ちにはなるものの、痩せ型、170cmもない身長で姿勢もよくなく、努力もあまりせず、言動もこのように痛々しいのでモテ要素は全然ない。

 そもそも、運動神経もあまりよくなく、何かスポーツをやっていたとしても、ベンチウォーマーにすらなれない応援雑用要員だったことだろう。


 一緒に召喚されたスズ、モモ、ヒカリの女三人と同じ高校だったそうだが、仲がいいワケでもない顔見知り程度。一緒に召喚されたし、パーティを組むからには、で少しは仲良くなっていたが、女三人はミナト程、重症な中二病ではなかった。

 …まぁ、中二病は中二病で、どれだけ説明しても信じず、「魔王の復活はまだ隠してるのよ!民の不安をあおるから」などと言っていたが。


 痛々しい映像を最初はえつに入って見ていたミナトだが、次第に顔を真っ赤にして「やめろ~」と叫び出すことになった。





 勇者(便宜上)たちが自分たちが中二病の重症患者だと自覚したのは、それから三ヶ月もかかることになった。

 自覚してもマシになっただけで、完治には程遠い。

 身体の方は動けるようにはしてやったので、今度は不幸な境遇から成り上がる、悲劇のヒーロー、ヒロインの妄想に取り憑かれているからだ。

 しみじみと中二病は難病だった。


 そうだ!

 勇者(笑)たちが生きてる間に回収出来ない程の莫大な治療費がかかっているのだから、コアたちの娯楽に提供するとしよう。

 適度な間隔で試練を与えたり、既存の創作物のような行動をさせたり、転移トラップでどこかに飛ばすのも自由自在で。

 シヴァは親切なので「悪の組織に捕まって改造されたヒーローの戦隊もの」や「魔法少女もの」の映像を作り、コアたちに参考に配った。


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