番外編50 おっかめ~!はっ!ちっ!もーく!
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そろそろ日差しも熱を帯び、気温も上がり、暑くなって来た。
スイカが食べたい。
異世界にもスイカはある。
ダンジョンドロップである【植物辞典】に載っていたので探した所、簡単に見付かった。
ただ、原種に近いようで果肉は黄色で青臭く、ウリ科って本当なんだ、と思い知るぐらい、甘みも水気も少なく、スイカのあのシャクシャクとした食感は全然なく、食感もウリっぽい。
それはそれで漬物にすれば中々の味になるが、違う。
シヴァが食べたいのは漬物じゃない。
瑞々しく糖度が高い美味いスイカだ!
シヴァは故郷で作っていたスイカを思い浮かべた。
妻のアカネは元園芸部で家庭菜園歴も長い。連作障害を避けるため、土地を休ませる必要があり、そうなると庭では土地が足りなくなり、元園芸部の先輩たちとシヴァの友人たちも一緒に、みんなで休耕田だった土地を借りて畑にし、色々と野菜を育てていた。
アカネの先輩には農家の人も農作物研究をしている人もおり、農業機械も借りられるため、かなり本格的に。
育てていた中にスイカもあった。
大玉スイカは持て余す家庭が多いが、小玉スイカは人気だったので、毎年たくさん作って皆で山分けしても余る分はスーパーにも卸していた。いつでも人気なメロンと一緒に。
あまり知られていないが、スイカやメロンといったつる性植物の収穫は一回ではない。二回、三回は収穫出来る。どんどん個数も少なくなり大きさも小さくなる傾向があり、三回目は品種によっては糖度も一回目よりはかなり下がるが、美味しく食べられる程度だった。
プロの指導があったので、当然と言えば当然かもしれない。
暑い夏の日の農作業の後、井戸水で冷やしたスイカを食べるのは至福のひとときだった。
真っ赤、或いは真っ黄色の果肉は甘く、瑞々しく、種は小さく、シャクシャクとした食感は最高だった。
アカネが色々と作ってくれたスイカのスイーツ、ゼリーはもちろん、くり抜いたスイカを器にしたフルーツポンチ、ババロア、スイカジュース、シャーベットもシンプルに美味かった――――。
「カーマイン!美味いスイカが食いたい!」
南国のブルクシード王国が受け持ちのフェニックスの神獣、カーマインに、シヴァは通信バングルでそう言ってみた。
【植物辞典】に載っていた「スイカっぽい」のは一つだけ。他はおそらく名前が違うので検索出来ないのだ!
【すいか?何だ、それは。どういった食べ物だ?】
「そこからかーっ!」
まぁ、予想はしていた。
予想はしていたが、どこかにスイカがあるのなら過去の異世界人が異世界風呼び方として広めていそうだと思ったのだ。
それに、長寿な神獣の中でも最年長、死んでも記憶も人格もそのままで復活するカーマインで、魔力があれば食事は必要なくても、フェンリルの神獣イディオスよりは色々と食べているようだから、食材にも詳しいかもしれない、と。
いや、待てよ?人間にあまり関わっていないので、食材の名前だけが曖昧なのかもしれない。
シヴァはブルクシード王国のカーマインの山腹の拠点へと転移し、スイカの絵を書いて説明してみた。
原種系かもしれないので深緑か黒っぽい丸い球体か楕円形で、大きさは人間の手のひらサイズから頭ぐらい。こちらのスイカはもっと大きいかもしれない。
蔓にいくつか果実が生り、中は黄色や赤で、黒い小さい種がぽつぽつとある、ウリやメロンの親戚。
シヴァの故郷、地球だと五千年の歴史があり、赤い遺伝子と甘い遺伝子がペアになってるので、赤い果肉の物が甘いのだ。
…と、そういった自然探索、歴史探訪みたいな番組で見たことがあった。
『中が黄色か赤の球体か楕円形か……いくつか食べたことはあるが、はて、どこだったか…』
カーマインは長寿なだけにすぐに思い出せないらしい。
「こっちの方?暑い地域?」
『ああ、それは確かだ。…と、シヴァよ。コアたちに訊いたのか?』
「まだ。知識が豊富なだけに条件に合う果物、というだけでもーのすごくありそうなんだって。カーマインに聞いてもうちょい絞れたら、と思ったんだけど、まぁ、訊いてみるか」
シヴァはブルクシード王国内のダンジョンコア、サーコ(サルタナ)、ルーコ(ルタルデ)、ブーコ(ブエルタ)、レーコ(レーゲン)、オーコ(オクリール)、ラーコ(ラングザ)、イーコ(インセ)、フーコ(フレール)の八体に訊いてみた。
すると、色は薄い緑、みかんぐらいの大きさで中身もやはりみかん色の果物が、スイカっぽいのではないか、と熟している果実をもらった。
名前は『マンダリーネ』。
シヴァはその名前を知っている。
「ドイツ語でみかんっていう意味じゃねぇか!」
【そうなのですか。みかんはこちらでも『みかん』ですが。そのマンダリーネも手で剥いて食べます】
そうなのか、とシヴァは素直にみかんを剥くようにマンダリーネを剥いた。中身は薄い子房に入ったみかん、にしか見えないが、一房食べるとシャクッ!
「っっ!!食感はスイカ!でも、味はメロンっぽい…」
ねっとりはしてない。あくまでシャクッ!なのだが、種はなく、メロン味で外見はみかん、食感はスイカ、外側はプリンスメロンの小さいもの、に見えなくもなく……何か混乱して来た。
【マスター、お口に合いませんか?】
レーゲンダンジョンのレーコが心配そうに声をかけて来る。
「いや、美味いんだけど、おれの故郷の果物が色々混ざった感じで混乱するっつーか。食感はスイカなんだけどな…」
やはり、これじゃない感がある。
他にも南国フルーツを色々と出してくれて、すべて美味しかったが、やはり、色々と混ざっていて素直に楽しめなかった。うーむ。
少し思い付いたシヴァは認識阻害仮面を装着し、ブルクシード王国の市場へと出かけた。
色んな果物を扱っている本職に訊くのが一番じゃないか、と思ったのである。
こういった調査でお役立ちなのが【分身】である。
ブルクシード王国の目ぼしい街にそれぞれ分かれて調査した。
「瑞々しくてシャクッとした食感で甘い果物?そんなの、いっぱいあるが…」
果物屋の店主が見せてくれたのは、ドラゴンフルーツみたいなトゲがある果物から、仏像の頭のような形の
一番、スイカに近かったのは、バレーボールぐらいの大きさで深緑、中は赤い果肉で黒い種の『チェトリオーロ』という野菜。多分、カーマインが食べたのはこれだ。
ただし、外見と中身はスイカにそっくりだが、味は……キュウリ。甘味はなし。
英語では『キューカンバー』、イタリア語か何かで『チェトリオーロ』といったような気が……。
まぁ、これはこれでサラダにピッタリな野菜で、栄養素も中々高かったので、見付けてよかった。
スイカじゃないが!
******
分身と共に色々探し回ったシヴァだが、一朝一夕では無理だし、美味しい果物や野菜は手に入ったので、夕方にはあっさり引き上げた。
色々かけあわせて品種改良した方が、シヴァが食べたい日本のスイカが早く食べられるかも、と今ある農地を更に広げることにした。
しかし、しかし、だ。
その日の夕食のデザート。
シヴァが食べたかったスイカが、食べ易い三角カットで出て来たのである!
愛する妻アカネのいたずらっぽい笑みと共に!
シヴァはつい三度見した。
食品サンプルじゃなく、幻影でもなく、【品種改良により作り出された、シヴァとアカネたちが過去に作っていたものより、更に美味しくなってる最高級スイカ】と鑑定様も保証している!
「へへへ~♪驚いた~♪」
「おう。いつの間に作ってたんだ?」
シヴァはダンジョンマスターなので、当然ながら農地に何を植えているかも把握しているのだが……。
「結構、早いうちにキーコちゃんたちとあれこれ頑張って。シヴァは色々立て込んでてスイカのことは忘れてるようだったし、シヴァにだけ内緒にしてたワケ」
なるほど。アカネがキーコを仲間に引き入れてているのなら、シヴァに内緒に出来たワケだ。農地フロアをシヴァの管理範囲外に作れるので。
【大成功ですね!味も頑張ったんですよ。マスター、是非、ご賞味下さい】
「そうそう、食べて食べて!」
「おう。では…」
シャクッ!
シャクッ!シャクッ!シャクッ!シャクッ!シャクッ!……。
スイカだ!マジでスイカだ!
瑞々しさといい、甘過ぎず、かつすっきりとした甘さといい、食感といい、もう、文句の付けようがない程の美味しいスイカだ!
「今年はみんなで海でスイカ割りも出来るよ!ただし、まだ種として安定してないんだよね。魔法植物でしか、再現不可能だったし」
そっか。
「その肥料は嫌、あっちがいい、水は魔法で作った水の方がいいってあれこれ注文もうるさくて」
……ん?
「何かしゃべるようになっちゃって」
……何か?
【意思疎通を円滑にするべく、頑張りました!】
キーコの
「でも、収穫量はかなりのものだよ!時間停止収納がなければ、持て余しまくってただろうけどね~」
あはははは…とアカネは少し遠い目をしながら笑った。
アカネとしても当初の完成像からは割と外れたらしい。
「まぁ、これだけ美味しいのならいいって」
異世界の(品種改良した)スイカはしゃべる。
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関連話「129 あっ!この前の依頼の…」
https://kakuyomu.jp/works/16817330653670409929/episodes/16817330657664883014
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