129 あっ!この前の依頼の…

「そういや、エーコによると、第五王女の結婚がなくなるかもしれねぇってさ。大災害でサファリス国の国力落ちたから」


 風呂上がり。

 縁側で水分補給しつつ、シヴァがそう教えた。

 和室もどき部屋の前は縁側にしてあるのである。


「第五王女?」


「エイブル国の第五王女。十三歳。サファリス国の有力な貴族の後妻になる予定だったのを嫌がって出奔したんだけど、おれが説得して帰って婚約することになってた…」


「あ、はいはい。アリョーシャの街に来る途中でアルが助けたって話のね。正式な婚約はまだだったんだ?」


「そう。距離があるからな。移動するだけでも時間がかかるから、日取りが結構先でさ。国王暗殺未遂も第五王女の婚約が発端だったから、それがなくなるんなら何とも微妙な感じ」


「あ、だから、復興支援の人数が少なかったってのもあるんだ?」


「だろうな。まったく出さねぇのも体裁が悪いし、少な過ぎても同じく。で、そこは量より質で有能な人材ってことでSランク冒険者のテレストが入ってたワケだ。雇い主はエイブル国でな」


「なるほど。でも、人数を出し渋ったのは、馬車や馬なら一ヶ月ぐらいはかかる遠距離だからだよね?超短期間で済んだんだから、それはそれで揉め事になってるんじゃないの」


「そりゃそうだろうな。SSランク冒険者の騎竜が速いっていくら噂になってても何百人も乗れないと思ってただろうし、まして、長距離の影転移を使うとは思ってなかっただろうし。対外的にはって話だけど。頃合いを見計らってアルで訪ねて、更に物資を出させるさ。たくさんあった方がいいだろうしな」


「まぁね。それにしても、ラーヤナ国はどうしてああも大盤振る舞いだったの?220人も派遣して物資もたっぷりだったし。助かったけどさ」


「そりゃアルに恩義があるから。ちょっと頼りねぇ王様だから、色々とアドバイスしたし、治安維持にも協力してるし。それに、よくあることだけど、政略結婚で嫁婿のやり取りを結構してるんだって。それはエイブル国でも一緒だけど、先代の時に色々あってサファリス国縁者の大半は権力中枢から外れてたりするそうで。もちろん、商業的には繋がってるんだけど」


「あー国同士って面倒臭いね、しみじみと」


「同感。…それにしても、縁側にいるとスイカ食いてぇな。見てねぇけど」


「…すぐ食い気だし。似たような果物はないの?」


「ねぇな。南国ならあるかもしれねぇ。…あ、梨っぽいのはある。季節的にはこっちか」


 空間収納から出して、氷魔法で少し冷やしてから皮を剥き、さくさく切って爪楊枝を刺して皿に置いた。果肉がもっと黄色っぽい。


「あ、初めてみる。梨っぽいの?」


「食感と味はな」


 シャクッとアカネが食べた。


「美味しい!甘過ぎずジューシー。何かスモモっぽいような気も」


「何とも言えねぇ味だろ。異世界産フルーツ」


「うん。美味しければ何でもいいけど」


 そんな風にしばしまったり過ごした後、アカネはエレナーダダンジョンへ攻略の続きに行った。

 ゆっくりするより、動きたいらしい。




 シヴァはアルに化け、予定が遅れた小冊子の自動販売魔道具設置に行く。まずは王都エレナーダの冒険者ギルトに。


「にゃーこや店長だけど、ギルマスを呼んでもらえる?」


 かなり空いてる時間なので、すぐアルの順番になったので、単刀直入にそう言った。


「あ、はい。どういったご用件でしょうか?」


「新しい自動販売魔道具設置について。食べ物以外」


「分かりました。少々お待ち下さい」


 受付嬢はすぐ奥の部屋へ向かい、二階へ上がってギルドマスターを呼んで来た。


「ギルドマスターのバーデガルだ。自動販売魔道具を置きたいと聞いたが、何の販売だろうか?」


「小冊子。本。読み書き、計算の教科書、料理レシピの三種類」


「…あっ!この前の依頼の…」


「そう。出来たんで」


「そういったことなら歓迎だ。邪魔にならない隅ならどこでも設置していいぞ」


「ありがとう。例によって床を壊すけど、後でちゃんと直すから」


 そこは、ちゃんと断ってから、隅の方に自動販売魔道具を設置した。

 サイズはかき氷、カップラーメンと同じだが、本当に厚紙製である。結界コーティングしてあるので、防御力は従来とほぼ変わらない。


 数少ない冒険者たちは、ワクワクと視線を送って来ていたが、え?という感じに変わった。

 表紙は色んな物のイラストの横に文字、一組は鉛筆を持った手が文字を書いているイラスト、計算の方は計算式と八百屋で買い物している少年が指を数えているイラスト。

 料理レシピはラーメンレシピなので、まんまラーメン丼入りのラーメン写真。食品サンプルのごとく、麺を持ち上げている所だ。


「文字の本?」


「こっちは足し算?計算?」


「そう。教科書。学ぶ機会がなかっただけの人が多いみたいだから」


 どうぞ、とアルは自販から離れて食堂の席に座って果実水を注文し、どのぐらい興味を持つ人が出るか、しばし見ていることにした。



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関連話「番外編50 おっかめ~!はっ!ちっ!もーく!」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093078720484638

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