130 「悪い奴ばかりじゃないよな」とほっこりする。

 まず、ギルマスのバーデガルが小冊子の自動販売魔道具から、ラーメンレシピを買う。

 全然、躊躇しなかった所からしても銀貨1枚はお手軽価格なのだろう。


「えっ!全部色が付いてるぞ。すごい」


 大半は白黒印刷、色付きは数色だけなので、フルカラー印刷は画期的だった。


「ええっ?これってカップラーメンのラーメンだけレシピじゃ…」


「…秘密にしとかなくていいのかよ…」


「…と言いつつ、買う」


 ラーメンレシピだけじゃなく、読み書き、計算の方も興味を持って買って行く人が割といた。

 読み書きが出来てもちゃんと習ったことがないのでどんなものか見てみたい、イラストがカラフルでキレイだから、というのもあるようだ。


 昔話やおとぎ話の絵本も結構売れることだろう。

 その場合、この世界のアレンジバージョンにする。

 シンデレラだったら『姿を変えるマジックアイテムを持った魔法使い』になるか。人に魔法をかける方が難しいので。


「よぉ、店長。少し振り」


 そこで、先日、ダンジョン内『どんぶりやさん』で会ったAランク冒険者のブレイブに声をかけられた。『豪炎の支配者』のリーダーである。


「おう。サファリス国の件か?」


 金に困っておらず義侠心にあふれる冒険者なら、救援隊に加わることを考えるだろう。

 エイブル国から冒険者ギルドへサファリス国の救援依頼は出ていないだろうが、ギルドからも商人からも情報は入る。


「よく分かるな。そうだ。もう他国の支援は引き上げたとさっき受付で聞いたが、こんなに短期間で本当に大丈夫なのか?かなりの広範囲で大雨が降って洪水のようになったそうだが」


「その通りだけど、SSランク冒険者と神獣様方が何とかして下さったんで」


「…え、神獣?」


「フェンリルとフェニックス。おれが連れてったんだけどさ」


「……どんな知り合いなんだよ…」


「友達。神獣たちが浄化して台無しになった畑を何とか作り直して、仮設住宅の数も足りてるし、サファリス国の国内から復興支援隊が到着してるから、本当に問題ねぇよ。SSランク冒険者とその仲間もスゲェぞ。三十分ぐらいで五十世帯は住める仮設集合住宅を建てちまうんだから。まぁ、魔力補給の何らかの手段があったようだけど、温泉の公衆浴場まで作ってたし」


「…そんないい設備まであるのか…。SSランク冒険者はケタが違うとテレスト殿にも聞いたことがあるが、そこまで…」


「ああ、テレストとも知り合いなのか。テレストも帰って来てるぞ」


「知ってる。目立つ御仁で女が騒ぐしな。それより、物資はどれだけあっても邪魔にはならんだろ。ギルドに指名依頼を出すから、被災地に届けてもらえないか?」


「そういったことなら依頼はなしでいい。その分物資に上乗せしてくれ」


「しかし、それだとアル殿のメリットがないだろう?」


「どうせ、様子は見に行くんだし、ついでなんだよ。今すぐ運べっていうワケでもねぇだろ?」


「それはそうだが…悪いな」


「気にしなくていいって。何かしてやりたいって思っても、行動に移すことは中々出来ねぇもんだしな。政治的なしがらみで救援隊の規模を縮小したエイブル国首脳陣より、余程立派。まぁ、自国の民を優先するのは当然にしても、無駄に着飾る暇があるならその資金を回せ、とは言いたくなるけど」


「…そうなのか。賢君だと名高い国王だから、貴族たちとももう少し上手くやってるかと思ってたんだが…」


「他国のことだしな。王様の一存じゃ中々進められねぇって。格はサファリス国国王の方が余程上だけど。ノブリス・オブリージュ…高貴なる者に伴う義務がよく分かってる王族で、ちび姫様も自分が出来ることをちゃんと考えて走り回ってたよ」


「…え?王族も現地入りしてたのか?」


「そう。SSランク冒険者が連れて来て。他国人の指図より国王が陣頭指揮取った方がいいだろう、と。王都の機能が停止しちまうから、宰相は三日ぐらいで戻ったけど。ちなみに、暇そうな貴族たちもSSランクが問答無用で連れて来てたけど、王族自ら働いてるし、当初の現地の状態は酷かったからさすがに文句も言えず、渋々と働いてたなぁ」


「…SSランク冒険者、本当にやりたい放題のようだな。アル殿も、だけど」


「おかげで、早めにある程度まで復興出来てるワケだし」


 そんな話をしてから、アルが出した作業机にブレイブが日持ちする野菜や小麦粉、布やポーション、傷薬といった救援物資を出し、それをアルの収納に入れ直した。

 ちゃんといくらあってもいい物な辺り、前にも似たような状況で支援したことがあるのだろう。

 そんな目立つことをしてると、何なに?と寄って来るもので、事情を話すと、他の冒険者たちもじゃあ、と物資を提供してくれた。


 マジックバッグを持っている冒険者だと、腐らない物はいつまでもバッグに入っている、ということはよくあることで、毛布やマントや生活雑貨の類はかなり余分に持っている冒険者たちも多かった。

 ちゃんと整理しているタイプの冒険者たちは、現金で「これ、少ないけど…」と。

 こんな時、「悪い奴ばかりじゃないよな」とほっこりする。


「何だ?物々交換か?」


 人が集まってると、ギルマスのバーデガルも疑問に思ったらしく、こちらに来た。


「大雨災害が酷かったサファリス国への寄付や義援金。復興はそこそこして来てるけど、おれはまた様子を見に行くから」


「…え?どうやって?」


「影転移で」


「……そこまで長距離の影転移が出来るのか」


「繰り返せばな。エイブル国とラーヤナ国の救援隊、影収納に入れて運んだのもおれだし」


「今更も今更なことを驚かれてるな」


 ブレイブが不思議そうに言う。


「王都のギルドって商業ギルドの方が出入りしてるからな。ギルマスには今日初めて会った」


「…え、あれ?店長、エレナーダダンジョンの33階にいたよな?潜ってても冒険者ギルドに顔出しなし?」


 側にいた冒険者の一人がそんなことに気付く。


「鉱物ダンジョンだから売るもんがねぇんだよ。余す所なく有効活用出来るから」


「あ、そういやそっか。魔道具作ってるし、錬金術もスゲェんだっけ」


「ってことで、ギルマスも寄付する?」


「あーじゃ、ささやかながら」


 ギルマスは金貨1枚を寄付してくれた。が、冒険者たちからはブーイング。高給取りのクセに!渋い!と。


「まぁまぁ、気持ちだけでも有り難いって」


 サファリス国国王に感謝状ぐらい書かせるか、と思いながら、アルはたしなめてみた。

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