131 剣呑な雰囲気で神父をビビらせてしまった
小冊子の売れ行きもまぁまぁなのに安心し、アルは続いて商業ギルドに行き、同じように許可を取ってから小冊子の自販を設置した。
そして、他に設置するならどこがいいのかアドバイスをもらい、商店街、初等学校の側、教会前と、ちゃんと許可をもらってから設置して行った。
そういえば、教会の中には入ったことがなかったな、とアルは神父に勧められるがままに中へ入ったが、キリスト教の教会と大差ないような感じだった。
もちろん、
眷属である神獣の像も周囲に祀られている。
フェニックスやフェンリルももちろんいるが、他の神獣は地域によっても実に様々で、神獣の数も多かったり少なかったりする。ここは多い方だ。
どうぞ、近くへと神父に招かれて前の方の席に来たアルだが……神様の像すら細工が荒い。
もうちょっと滑らかにさぁ…な感じで。遠目に見る分にはいいのかもしれないが、仕上げが荒い。
こちらのお祈りは指を組んで頭を下げ、目を閉じる。やはり、祈り方もキリスト教と同じだった。
何らかの力を感じるワケじゃないが、寂れずに続いているということは、
こういった時、転生モノの創作物のお約束だと神様の声を聞いたり、神様の世界に魂だけ招かれたりするものだが……。
まったくそんなことはなかった。
祈ってみてもまったく変わったことがなかった。
強制単身赴任転移させた神様か超越者に会ったら説教してやろう、と少し期待したのに、ことごとく定番展開から外れているらしい。
さり気なく、武器と高威力のアイテムを確認したのがダメだったのかもしれないが。
そもそも、創作物の主人公はすんなり自分の立場を受け入れ、神様に言われた通りの行動をするのが大半だが、それは一度死んでいる転生者で他にどうしようもないからで、いきなりの転移者は文句言って当然だとアルは思う。
まして、アルはまったく違う身体に意識を入れられたので、慣れるまでが大変だったし、いきなり、戦闘中の所に転移だったので、アルじゃなければ、死んでる所だ。
ああ、文句が言いたい。
非常に文句が言いたい。
思わず、神や超越者と交信する魔法かスキルが作れないものか、それが無理なら
今は何とか元の身体を取り戻し、アカネを連れて来たので、そこそこ落ち着いてはいるものの、色々と働かされているような気がして仕方ない。
神だの何だのの当初の思惑からはかなり外れていても、ブルクシード王国のスタンピードやサファリス国の大雨災害は、こいつなら助けるだろう、という感じで。
「ひっ……」
剣呑な雰囲気で神父をビビらせてしまった……。
アルは謝罪してお布施を渡してから教会を後にした。
神に思う所はものすごくあっても、強制単身赴任転移に関与していない神もいるだろうし、その信者にも今の神父にも罪はない。
さて、気持ちを入れ替えて、と歩き出そうとした所で、先に設置した小冊子の自販に人が集まっているのが見えた。
買うワケでもなく、行列を作るのでもなく、見慣れない物の見学な感じだ。
「今度は何が入ってるんだ?」
「これ、かき氷の魔道具設置した所と同じ所のだろ。絵一緒だし」
「食べ物ではなさそう」
「文字と数字?食べ物の絵?」
「銀貨1枚ってのは分かるけど、ちょっと何か分からないとねぇ」
「何だ何だ?」
「文字読める人、教えてくれよ」
「…あっ!これ、文字が読めない人の教科書だ。文字と計算。それとラーメンレシピ」
「らーめん?」
「ああ、あれだろ。冒険者たちが騒いでた美味しい保存食」
わいわいと騒ぎながら正解にたどり着き、興味持った人が買い、中を見せてもらった人がじゃ、自分も…と普通に行列になった。
銀貨1枚で勉強が出来るのだから、安いだろう。
「…え、もう?」
売り切れになるとアルに連絡が来るようにしてあったが、もう、だ。需要が高いだろう初等学校の側には二台設置したのに。
はいはい、とアルは初等学校の自販側に影転移した。
「え、何これ?う・り・き…?」
「売り切れ。ま、これだけ売れてるとしょうがないって」
「限定でここまでってことはないよな?いつかは補充されるよな?」
「でも、かき氷の時はたった三日限定だったぜ?」
「あれ、商業ギルトとの契約があったらしいぞ。突き上げ食らってたけど」
「そりゃそうだろ。あの時は台数があったから、みんなに行き渡ってたけど、毎日食べたい暑さだったし…ん?」
小冊子の自販に並んでいたのは、初等学校の生徒たちだけじゃなく、先生たちと通りがかったらしき大人たちもだった。
アルに気付いてこちらを見る。
「はい、どうも。その自販を設置したにゃーこや店長だ。新しいのと入れ替えるからちょっと待って」
少し下がらせてから、アルは自販の底の杭を抜いて収納し、地面を
二台ともだ。影収納に落ちてるお金も他の人には分からないよう回収した。
「はい、どうぞ」
「あ、有難うございます」
「こちらこそ」
「あ、あの、店長さん!本は三種類だけなんですか?」
「今の所。何?何か希望の本があるのか?」
「歴史が難しいので覚え易い教科書があれば、と。ダメですか?」
「ダメだな。気付いてるかどうか知らねぇけど、学校によってもバラッバラな歴史を教えていて、国内だけでも統一されてねぇから。近隣諸国の歴史書と比べても同じく。各国、地域ごとにバラバラ。都合の悪い事実を隠蔽したり改ざんしたりしたせいで。そういった検証した本が欲しいって言うなら作るけど、分厚くて細い字の本で三十冊は下らねぇぞ」
「…そ、そうなんですか…」
「店長さん、勤勉ですね…」
教師陣は苦笑した。
とっくに気付いていても、学校の方針に逆らえないのだろう。
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