132 不器用なことを自覚させてみる

「じゃ、簡単な魔道具の作り方の本は作りませんか?」


 初等学校の生徒たちの一人がそんな提案をした。


「作らねぇ。おれにとっては簡単でも、他の人には簡単じゃなさそうだから。そもそも、不器用な人が多過ぎだし。…ああ、自覚ねぇのか。ちょっと待て」


 アルは作業机を出し、そこに木と塗料を出してカラフルな折り紙を錬成した。15cm四方の一般的なサイズだ。

 もう一つ作業机を出し、そこに折り紙を並べる。


「ほら、その紙を一枚ずつ手に取って、おれのマネをしてみろ」


 じゃあ、と教師たち数人、生徒たち数人が手に取った。

 では、とアルがゆっくり折って、他の人たちにやらせて折って、アルが見本に折って、やらせて、と繰り返し、パタパタ鶴を折った。

 後ろ足を引っ張ると羽がパタパタする鶴である。プテラノドンと呼ばれている地域もあるらしい。

 ちゃんと折れた人はゼロ人。

 歪んではいても、何とか羽をパタパタするように折れたのはたった一人だ。素直な七歳の子供である。


「分かっただろ?紙を正確に折るという難易度の低いことでも、この有様だ」


 アルは錬成でパタパタ鶴を一瞬で大量生産して見せる。

 過去の転生者のおかげで、植物紙の魔道具があり、平民にも出回っているので割と身近だった。

 貴族や裕福な平民の子息が多い初等学校の生徒たちなら、「折るのがもったいない」とは思わないぐらいのお値段である。

 ただ、植物紙は付与魔法か保護魔法をかけない限り、保存が利かないので契約書の類には羊皮紙や植物系魔物紙が使われて差別化されている。


「錬金術も魔法もイメージが大事。手先が器用だとやれることも増えるぞ」


 風魔法で一人に一つずつパタパタ鶴を配ってから、作業机を片付けて、アルは引き上げた。キリがなくなる前に。


 キエンダンジョンの自宅に戻ったアルは、魔法を解いてシヴァに戻ると、『パタパタ鶴の折り方』小冊子を作った。

 写真だと見難いのでイラストで。

 ページ数が少ないので『手裏剣』とセットで一冊に。

 小冊子を見て作ってもすぐには折れないだろうから、完成品を一つずつ付けることにする。

 アクリルもどきの配合を変えた透明の薄いフィルムが完成したので、そちらに入れて小冊子とひとまとめに。


「キーコ、折れないとか言う?」


 ちょっと疑問に思って訊いてみた。


【わたしの場合は折ると言うより、錬成ですね。出来ます】


 キーコ本体は珠なので折ることは不可能か。魔法で折るというのも難しい。


【ついでに折り紙も別で売ったらどうでしょう?十枚入り銅貨5枚で】


「高くね?」


【高品質の紙なので妥当です】


「あーまぁ、確かにな。なら、二十枚入り銀貨1枚で。釣りが面倒だから。…と言えば、いい加減両替して来ねぇとな」


 カップラーメンの売上、放置しまくりだった。

 そう細かいのでもらっても、と思い、義援金は金貨で渡している。

 大きいお金は金貨10枚の価値がある大金貨、大金貨10枚分の白金貨もあるのだが、大商人、貴族でしか流通しておらず、数も少ない。


 自動販売魔道具の販売品目は、二種類だけより、三種類の方が見栄えもいいので、もう一つは便箋と封筒、水性ペンのレターセットにした。

 これも銀貨1枚である。

 にゃーこやオリジナルデザインで、水性ペンのペン軸にはたくさんのにゃーこが、便箋と封筒にはワンポイントにゃーこにしてみた。他の猫との区別はエプロンした猫である。フルカラーで罫線入り。

 フルカラーではないが、罫線入り便箋も過去の転生者が広めていて一般的に出回っている。


【マスター、文房具は文房具で専用の自販にした方がよろしいのではないでしょうか?色んなデザインで】


「やっぱ、売れそう?」


【そう思います。転売屋がまたかなり出るかと】


「じゃ、レターセットは保留で。小冊子の方は転売屋が動くかどうか見てから」


 折り紙の本の自販のもう一種類は色違いの折り紙にした。折り紙自販になる。

 お試しで学校前に置くだけだが、一応、キーコにも在庫を作って置いてもらった。


 再びアルになり、隠蔽をかけてから初等学校前へ転移すると、一段落したらしく、当初程、混んでなかったので、さり気なく隠蔽を解除し、教科書小冊子自販の隣に折り紙自販を設置し、杭を打った。


 そして、何か訊かれるより前に商業ギルド本部へ影転移する。

 そろそろ日が陰って来た時間だからか、そこそこ混み合っていた。

 まぁ、他に急ぐ用事もないし、とアルが列に並ぼうとしたら、目敏く気付いた職員が奥の応接室に案内してくれた。本当にすぐ気が付くな、と感心する程だ。

 担当のモートンもすぐに来た。


「どうしました?小冊子の方の売れ行きは順調ですが」


「両替を頼みに。立て込んでたんですっかり忘れてたんだけど、銀貨が無茶苦茶あるから金貨か大金貨に両替して欲しい。一度にどのぐらいなら両替してもらえる?」


「…ええっと、そんなにあるんですか?」


「ああ。四ヶ国の売上だし。魔道具で数えるにしても運べねぇと思う」


「……少々お待ち下さい。職員の手配と魔道具を持って来ますから」


 何とか両替してくれるらしい。…というか、カップラーメンのせいで銀貨が不足しているのかもしれない。銀貨は銅貨の次に使うお金だ。

 自動両替魔道具を作ってもいいのだが、それだと手数料が取れなくなるので、そのままの方がいいだろう。


 大量の銀貨を出す作業があるので、アルはその場にいる必要がある。

 お茶は出されたが、アルは暇なので、タブレットで絵本を作ることにした。

 思念操作だとイラストはすぐ描けるものの、文章はやはりキーボードの方が速い。もちろん、日本語だ。こちらの言葉変換はすぐ出来るので、問題もない。


 話は定番「シンデレラ」。この世界に合わない所が多いので、しっかり合わせ、ちゃんと手順を踏んでの成り上がりにしてみた。


 ******


 並列思考があるので、絵本を作ってる間も銀貨を出し、金貨をしまうのは普通にやっていたアルだ。

 この『異世界版シンデレラ』はちょっと色々盛り込み過ぎだろうか。

 この世界の絵は写実的なので、イラストはデフォルメ少なめ、写実寄りで水彩で描いたかのようにシンプルにしたような感じのイラストで。


 この絵本と同時にガラスの靴のラッキーチャームやアクセサリーを売りに出せば、バカ売れだろう。…などと考えてみたり。


 幸運の付与は【うさぎの後ろ足】といったレア素材がないと出来ないので、単なるアクセサリーだ。

 『鰯の頭も信心から』と言うように、何らか効果が出る人もいるだろうが、とっくに大金持ちだし、今更商売にするのもなぁ、とも思うワケで。


「もうこの辺で勘弁して下さい…」


 金貨もかなり少なくなったらしく、モートンからストップが入った。

 まだ二割ぐらいしか両替してないのだが、まぁ、仕方ない。


「じゃ、もうしばらくした後でまた両替に来るよ。他の国でも頼むけど、全部は無理そうだし」


 大きめの街の商業ギルドでせっせと両替するしかなさそうだ。

 銀貨を大量に必要としているのは商業ギルドなのだから。

 両替手数料は別にいらないとのことだったので、ドーナツ詰合せを二箱置いてから、アルは商業ギルドを後にした。

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