133 言い方を変えただけじゃねぇか

 もう外は暗くなっている。

 アカネはエレナーダダンジョンに泊まるのだろうか?

 すぐ側なので、アルはさくっとアカネの元に影転移すると、アカネは59階の砂漠、もうすぐ60階へと続く階段手前にいた。

 装備を【チェンジ】で変え、魔法を解いてシヴァに戻る。ちゃんと砂漠仕様だ。


「あれ?シヴァ、どうしたの?」


「もう外暗いって。ちょっと時間がズレてたんだな、ここ。まだ夕方ぐらいっぽい明るさだし」


「そうだったんだ。迎えに来たの?」


「いや、どうするかなぁ、と思って。ここに野営する気?」


「うん、60階でね。後1階だし、せっかくせっせと潜って来たんだから、最後までズルなしで行こうかと。寒暖関係ないアイテムに超快適なマジックテント、断熱まで付いてる万能結界のPバリア2まで持ってるんだから、放っといてくれていいよ」


「淋しいこと言うなよ~」


「じゃ、成長を見守ってて」


「言い方を変えただけじゃねぇか」


「あはははは。じゃ、ご飯だけ一緒に食べよっか。60階に降りてから」


 アカネも少し淋しかったらしい。

 サファリス国でもバラバラで動いていたことが多かったからだ。


「了解」


 話している間も魔物が襲いかかって来ていたワケだが、シヴァはもちろん、アカネも難なく倒していた。

 魔物が多い方が階段がある方角、とある意味分かり易いワケだが、まず暑さでやられてる冒険者パーティも多いワケで。

 チャレンジするのなら、しっかり準備しろよ、とシヴァは思う。

 このフロアに来るまでに、暑さ対策のマジックアイテム、魔道具のドロップが出るようにしてあるのに。


 クラヴィスダンジョンでは氷点下20℃といった極悪低温のフロアもあるのに、低温対策のマジックアイテム、魔道具はかなり少ない。

 極悪過ぎるので、こちらも下層フロアに寒さ対策アイテムがドロップするようシヴァが手配したが、パーティ人数分となると、かなり頑張らないと難しい。

 だからこそ、攻略したのは、いまだにシヴァだけだった。ちゃんと情報を渡していても。


 高ランクパーティなら金も素材も持ってそうなのに、割に合わないと挑戦しないのだろうか。揃えている所なのだろうか。


 ******


 シヴァとアカネが60階に降りると、まだ少し明るかった。やはり、少し時間がズレているらしい。

 階段側のセーフティスペースは、囲んでいる発光する岩のおかげでほんのりと明るくなっている。


 本物の砂漠と同じように日が落ちると共に、どんどん気温が落ちて来ていた。Pバリア2を張るまでもなく、シヴァが万能結界を張る。Pバリア2は2m四方なので、行動を制限されるのも面倒臭い。


 別に肌寒くはないが、外気温が低いと食べたくなるのがシチュー系。

 …ということで、今日の夕食は作り置きしてあるグリーンドラゴンシチューになった。パンでもご飯でもどちらも美味しいので両方だ。魚介類と温野菜サラダも副菜に付ける。


 もちろん、どれも美味しいので会話も弾む。

 シヴァがブレイブに会い、支援物資をもらったら、他の冒険者たちも…と話したら、「人情ってこっちにもあるよね」とアカネも嬉しそうにしていた。


「じゃ、明日はアルとしてサファリス国へ行く?」


「その予定。引き上げてすぐ翌日かよ、と思わなくもねぇけど、復興支援団が各地から来てると、その摩擦もありそうだし、そういや、近々結婚する予定だったカップル数組ってどうなった?ってのも思い出して。アカネ、知ってる?」


「一部だけね。こんな時だから結婚式はなしで、って言ってたんだけど、こんな時だからこそ、明るい話題だろう?っておばさまたちに反対されて、出来る限りになるけど、ちょっとした式をやるって言ってたよ。日取りは分からないけど、わたしはどこまで手出ししていいのかなぁ、と思ってて」


「ドレスに出来そうな布と裁縫セットをプレゼントすればいいんじゃね?花嫁やその家族が縫うのが一般的らしいし。そして、こちらでも男の服は適当でいいという差別。確かに変わり映えはしねぇんだけど」


「あはははは!花嫁が主役っていうのはどこでも変わらないよね。こっちだとベールとかレースの手袋とかあるの?」


「平民だとねぇな。結婚指輪も平民も貴族もなし。明るい話題は王様も喜ぶだろうから、どうした方がいいか訊いてみた方がいいな」


「そうだね。家族が亡くなった人も多いから、別々の日より一緒にお祝いした方が盛り上がれるだろうし。…あ、でも、合同結婚式っていうのはどうなんだろう?この日だけは自分が主役って思うタイプの花嫁だと面白くないだろうし」


「街や村によっても風習が違うから、一くくりにするのも何かもしれねぇか」


 この辺りは部外者にはよく分からない所だ。


「あ、宮廷楽師を呼べるかも?」


「おれが連れて来ればな。お祝いごとに音楽はつきものだろ」


 宮廷楽師に払う報酬ぐらいは国王に出してもらって。


「シヴァが演奏したら?分身やにゃーこたちと一緒に」


「宮廷楽師が無理で、サファリス国の一般的な音楽を勉強してから、ならな」


「…あ、そっか。音楽自体、違うんだよね。手軽に移動してるから隣の国だっていう実感が薄かったわ。お金や言葉は共通だし」


「アカネも感覚がかなりズレてるし」


「シヴァに言われたくないけどね~」


 夕食を食べ終わると、シヴァは『異世界版シンデレラ』をアカネに見せてみた。


「いいとは思うけど、これは既に絵本じゃなく、ライトノベルぐらいのレベルじゃない?作り込み過ぎじゃないかと。

 まぁね?大きくなってからツッコミ所が満載だなぁ、とは思ってたけど、それがおとぎ話じゃないかとも思うワケで。でもって、王子が腹黒過ぎ。書き手が書き手だからしょうがないかも、な所があるにしても、どこかで見初めて、ぐらいでいいんじゃないの?」


「長いこと虐げられてたシンデレラなのに、無茶苦茶美容に気を使ってる令嬢たちを差し置いて?って所に無理ありまくりだろ」


「…まぁ、そうなんだけど、そこはおとぎ話。『こんな平凡なわたしにもいつか王子様が!』がシンデレラのメインテーマでしょ?少女漫画でもよくある王道パターンで」


「…え、そうなの?シンデレラは成り上がりがメインじゃなくて?」


「成り上がるより、王子様がメインじゃないの?一般的な話だとシンデレラ自体は何もしてないんだし…まぁ、人によっても解釈は様々だろうけど」


「うーん、こっちの女の感想が聞きてぇな。あ、受付嬢に…」


「それなら後でわたしが行きまーす」


「…え、アルでもダメ?」


「ダメだって。アルだって、絶対、狙ってる人たちがたくさんいるよ。金髪碧眼のキラキラ濃ゆい人たちの中にいたら、アルの茶髪水色目って容姿は平凡かもしれないけど、爽やかだし、気さくだし、にゃーこや店長で大金持ちだし、大魔導師とかまで言われてるし、で」


「でも、アカネだと面が割れてるだろ。シヴァの妻が何故か知人のアルに頼まれて?不自然過ぎ」


「…う、確かに」


「じゃ、依頼で出すってのはどう?読書感想文。この話を読んで思ったことを書いて下さい、で女限定依頼。また三十人ぐらいでいいかな」


「女冒険者って文字読めるの?識字率上げてる最中なのに」


「…それがあったか。じゃ、冒険者ギルドの女性職員に小遣い稼ぎ依頼。真珠の一粒シルバーネックレスプレゼント」


「え、報酬が豪華過ぎない?」


「早くて数分で真珠が作れるマジックアイテムを持ってるんだよ」


「…ボロ儲け出来るね…」


「そうなんだけど、ヘタに出すと市場破壊しちまうし、真珠の価値も暴落しちまうし、かといって塗料に混ぜてパール色作ってるだけじゃもったいねぇだろ」


「あ、花嫁さんにあげたら?…って、扱い難しいものを農家の人たちにはちょっと、か」


「なんだよな。水晶かガラスの方がよさそう。キラキラしてれば喜ぶだろうし。女性職員たちもそっちにするか」


 真珠はやはり、下手に出さない方がいいだろうから。


「繊細な加工技術料がバカ高いような気がするんだけど」


「気のせいってことで。全員お揃いってのも嫌なもの?」


「同じでいいと思う。差を付けられる方が嫌じゃないかなぁ。こちらは同じ感じで揃えてるつもりでも、『隣の芝は青く見える』ものだしね。幸運のモチーフとかあるのかな?花嫁特有のアクセサリーとか」


「王様にその辺も訊いた方がいいだろうな。マジな王族がいるからティアラ類はダメだろうけど」


「あーそういやそうだっけ。髪飾りと首飾り、な感じ?」


「首飾りで髪は花でいいんじゃね?首飾りはシンプルな物にするからともかく、髪飾りは普段使い出来ねぇだろ」


「確かに。リボンと組み合わせるとか?」


「そのぐらいでいいと思うぞ」


 そんなことを話してから、シヴァはキエンダンジョンの自宅へ帰り、予定通り、アカネは一人でエレナーダダンジョン60階に泊まることになった。


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関連話*【異世界版シンデレラ】トアルー伯爵家

https://kakuyomu.jp/works/16817330651746010347

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