134 ツッコミ名人の役人、その名をトルートと言う
翌日、朝食後。
シヴァはアルに化けてサファリス国に行き、冒険者からの支援物資と義援金を国王に渡した。
その時に結婚式についても訊いてみた所、地域によってバラバラらしいので、地元の役人に訊く。
特に花嫁特有のアクセサリーはないが、花で飾るのが一般的で、白い衣装なのはどこの地域も一緒らしい。
花婿は一般的な晴れ着、或いは小綺麗な服で見事バラバラだった。
「今の時期だと南国の花なら用意出来るけど、浮かねぇ?」
森や林の木も大分数を減らし、作物が育つにはもう少しかかるモノクロが多い景色、髪色も淡い色の人が多く、白い服装に鮮やかな花、となると。
「大丈夫、じゃないですかね?会場も花で飾ることが出来れば」
「採取に行かねぇとなぁ。適当な花がねぇんなら造花…作り物の花を用意しよう」
「本当にしみじみと何から何までお世話になりまして」
「ちゃんとツケとくから問題ねぇよ」
「ははははは」
ドレスに使えそうな白い布色々と裁縫道具を置き、役人には結婚するカップルの数と日取りを決めておいてもらうことにした。
「そういや、ヴェスカはどう?ちゃんと働いてる?」
「はい。褒めちぎるといいようです」
「単純だなぁ。各地からの支援団から怖がられてねぇ?」
「大丈夫です。そこは伝令を走らせてますので。ヴェスカ殿より、支援団の方々がたびたびトラブルに。仮設宿舎も温泉もキャパオーバーですから…」
「そりゃ調整するしかねぇな。一ヶ所に集まり過ぎるってことだろ。まぁ、しょうがねぇから運んでやろうかな。どう振り分けるか計画した?」
そんな経緯でアルは結局、輸送や運搬を手伝うことになったワケだが……。
「おやまぁ、久々だなぁ」
何だこいつ?ガリガリのガキなんかお呼びじゃねーんだよ、という目で見られるのは。
装備なしで上着を着ているだけ、という場違い感が半端ない格好なこともあり。
支援団の大半は兵士及び役人、冒険者、少ないものの学生も来ている。
「何だお前は?ガキが遊びに来る所じゃねぇぞ」
「どこの金持ちの坊っちゃんか知らねーけど、面白半分で関わって来んな。帰れ!」
「何しに来たよ?ひょろガキが」
「ちょっ、やめて下さい!三分の一以上の大量の物資を提供して下さり、早くから復興支援に尽力してくれた大恩あるお方なんですよ!」
「何言ってるんだ。それはSSランク冒険者とその仲間だろうが」
「その一人です!」
「え、シヴァの仲間じゃねぇぞ?友達の友達の友達、な感じ」
「エイブル国とラーヤナ国から救援隊と神獣を連れて来たのもこの人です!」
「はっははー?夢でも見たんじゃね?」
「どうやってだよ、そんな長距離」
「運んだのはSSランク冒険者だろうが」
「これだからバカは嫌い」
アルは「すとんっ」と影の中に首だけ出るように落としてやった。青ざめている人たち以外のバカたちを。
「何しに来たのか、教えて欲しいのはこっちだな。相手の力量も読めなくてイキがってると死ぬぞ?隷属の首輪でもはめとく?ちゃちゃっと作るから」
「アル殿、作らなくていいです…」
「じゃ、新薬のお試しに使っていい?」
「よくないです!」
「えーあれぇ?おっかしいなぁ。王様に貸しもツケも盛りだくさんあるから、ちょっとぐらい返してもらってもいいかなぁ、と思うんだけど。人類の医学の発展のための尊い犠牲に!」
「犠牲とか言っちゃってるじゃないですか!」
「実験だし。あー大丈夫。エリクサーあるから、とんでもないことになっても多分治せる」
「何で多分なんですか!万能薬じゃないんですか?エリクサーって」
「あんま知られてねぇけど、優先順位決めるのは人間なワケだ。脳味噌がヤバイのに、出血の多いちぎれた手から治すとかやっちまうのがエリクサー」
「…え、全部治るワケじゃないんですか?」
「霊薬とはいえ、薬だからな。どこまで効果が及ぶのかは限りがある。さっきの例だとちぎれた手を血止めしてから飲ませる、が正解。何度か使ってるからその特性に気付いたんだけどさ。ダンジョン潜ると死にそうになってる連中が多くて」
「そんなに何本も持ってるんですか?伝説の薬ですよ?」
「レアアイテム遭遇率アップの称号持ちなんで。新薬はMPポーションの強力版でわずか数滴で超回復、しかし、味が犠牲になってるから怖くて試せねぇ、というシロモノ」
「それはものすごく苦いのでは…」
「でも、画期的じゃね?成分抽出でいらない所はカット。これなんだけど…」
アルはスポイトと超MPポーションの瓶を出す。
「出さないで下さい!っていうか、試すの確定しちゃダメです!」
「ちっ。誤魔化されなくなったか」
ツッコミ名人の役人、その名をトルートと言う。
二十代前半なのに豊かな知識。復興支援中に分身アルが仲良くなっていたが、本体も楽しい。
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