135 わたくしのふとくのいたすところ

「アルさま、これは一体、どうなってるのでしょう?」


 そこに、第三王女、五歳のちび姫がたたたーっと走って来てそう訊いた。

 風魔法が使えるようになったので、かなり足が速い。アルが教えたので懐いているのである。アルの居場所は国王に聞いたのだろう。


「おイタが過ぎた輩の成れの果て」


「成れの果てにしちゃダメです!」


 トルートがすかさずツッコミを入れる。


「まさか、アルさまにぶれいをはたらいたのですか?大おんじんになんてことを!…もうしわけありませんでした!アルさま。わたくしののいたすところ」


「いや、いくら王族でも五歳児に替わりに謝ってもらってもさ」


「では、父…へいかに謝らせます。本当に何てことをしてくれたのですか。民がうえずにおいしいごはんが食べられるのも、寒さにふるえずにすんだのも、全部アルさまのおかげですのに」


「大人数になれば、変なのも混ざって来るさ。しばらく、反省しといてもらおう。真っ暗闇の中でな」


 バカな連中はさすがに青ざめていたが、出ていた首も影の中に沈めた。


「じゃ、ちび姫様、復興支援団の人たち、各地に送るんだけど、バイクに乗りたい?」


 アルは愛車の魔道具バイクを出した。


「はい!そらをとびますか?」


 ちび姫のわくわくキラキラした目が痛い……。

 眼力が強過ぎだ。


「そこまで急いでねぇんだし、地上を走らせりゃいいだろ。その方が魔力的にも節約になるし」


 ちび姫をひょいっと抱っこして、先にバイクのタンクを掴むように乗せておく。

 ちび姫はちゃんとゴーグルをかけているので、準備万端だ。前に乗せた時に作ってあげたら、かなり気に入り、ずーっと首にかけ、風魔法ダッシュをする時にも使っているのである。


「そうですね。よろしくおねがいします」


「トルート、『ちび姫様は預かった!』って王様たちに言っといて」


 誘拐犯のようなことを言ってみる。

 親公認なので誘拐されたとは誰も思わないが。


「はいはい、分かりました」


 トルートにもはいはい、と流される程だ。

 じゃ、と復興支援団の人たちを降ろす場所ごとに分けて眠らせて影収納に入れてから、ちび姫の後ろでバイクにまたがり地図を表示させると走らせた。ロクに目印がないので念のためだ。


 まだまだ荒れた路面でも、オフロード仕様なのでまったく問題なくスムーズにバイクは進む。

 さすがにちび姫を乗せているのでスピードはそんなに出さないが、スピードが出る乗り物自体が少ないこの世界、安全速度でもちび姫はかなり楽しいようだ。


「アルさま、おききにしたいことがあるのですが、いいです?」


「改まって何?」


「どうして、今日はシヴァさまではないのですか?アルさまのフリをしたシヴァさまでしょう?でも、アルさまが別でいるワケでもなく、同じ人がわかれてるような?数日前には顔をかくしたシヴァさまも何人かいましたけど」


「やっぱバレてたか。【慧眼】スキルと【才媛】称号持ちだしな」


 ステータスを隠蔽していて見えなくても、だからこそ、と推測は出来てしまうワケで。

 長年生きてるだけに固定観念があるテレストと違い、子供のちび姫は素直にありのまま受け止める。


「わたくしにそんなスキルとしょうごうがあるんですか。知りませんでした」


「まだ五歳じゃ大して気にしねぇだろうしな。今日、アルに化けてるのはこっちの方が都合がいいし、不自然じゃねぇから。二人同時に姿を見せてた時は影分身でアルに化けさせてたんだよ。おれはおれなんでその記憶も後で共有してるけど」


「かげぶんしん?魔法ですか?」


「そう。影魔法の一つ。人手が足りなかったから八人分身作って、一人はアルに化けさせてたワケ。分身は能力も魔力も制限されるけど、魔力を蓄えるマジックアイテムをビシバシ使ってな」


「かなり無理させてしまっていたワケですか。もうしわけありませんが、助かりました。でも、すると、頂いたきゅうえんぶっしのほぼ大半はシヴァさまの懐から出ていることに」


「そこは気付かなくてよかったのに」


「そういわれましてもじじつははあくしておかねば。本当に本当にありがとうございます。…あ、これもぶんしんも言っちゃダメなんですよね?」


「もちろん。あんな大量な物資、一体、どこから。何者だ?ってことになるだろ?…まぁ、今でもそう思われてるだろうけど、更に」


「はい。アルさまがいい方なのを知っていればいいだけだとわたくしは思いますが、なことが気になる人も多いですね。アルさまと使い分けている理由はめだつからですか?」


「それは当然あるけど、そもそも、おれ、アルの身体に意識だけ入れられてた転移者なんだよ。違う世界から来た異世界人。知ってる?」


「知ってます。【けんじゃ】さまや【ゆうしゃ】さまだけじゃなく、色んな文化をもたらして下さった他の世界から来たといわれている【けんじん】さまですよね。伝説の。…え、そうなのですか?」


「ああ。別に勇者でも賢者でもねぇけど、異世界人。神様や超越者に会ってねぇから、何を期待されてるのかは分からねぇけどな。で、アルとシヴァは体格にかなり違いがあるだろ?シヴァの方が元の姿だから、かなーり違和感があって、しばらくして化けられる魔法覚えたんで、化けてたんだけど、色々あった結果、一瞬だけ異世界に行けたんでアカネをさらって元の身体も取り戻したんだよ」


「…アカネさま、さらってきたんですか」


「説明する時間がなかったからさ。本当に奥さんなんで仲良しだし、説明した所で結果は一緒。…ってことで今は元の身体がシヴァなんだけど、前はアルの身体に意識が入ってたんで、意識が抜けて元の身体に戻った後、アルの身体は死体に戻った。埋葬したけどな」


「つまり、アルさまとシヴァさまで別々の立場を作ってしまって、メリットもあるので、今更やめられない、ということですか」


「正解。理解が早くて助かる。ちび姫様、おれに率直に訊いて来たのも、何をどこまで話していいのか、経験が浅い自分の判断だと間違うかも、と気遣ってくれたワケだろ?」


「はい。さすがアルさまです。【だいけんじゃ】さまでいいのではないでしょうか」


「そんな大層な肩書なんざいらねぇよ。急なことなのにあれだけ大量の救援物資をどこから出したかっていうのは、スタンピードや災害といったことが頻繁にある世界だから普段から備えていたのと、おれがダンジョンマスターだから。知ってる?ダンジョンマスターって」


「ダンジョンの…あるじってことですか?まさか」


「そのまさか。ダンジョンコアという知的生命体、まぁ、大精霊の親玉みたいなのがダンジョンを管理していて、最下層まで行ってダンジョンボスを倒し、ダンジョンコアルームを発見して、その中のダンジョンコアの珠に触れると、ダンジョンマスターになれる資格が与えられるんだよ。で、登録するとダンジョンマスター」


「……あの、アルさま、わたくしが知らないだけで、それはいっぱんてきなちしきなんでしょうか?」


「いや、324歳のテレストさえ知らなかった超レア知識。おれがダンジョンマスターってのはテレストも知らねぇから、黙っててな」


「はい、もちろんです。でも、わたくしにはどうして話してくださるのですか?ごまかすこともできたと思いますが」


「いい加減、ちゃんとした王家はダンジョンの存在理由を知るべきだし、先入観なしでそのまま受け取れるちび姫様だから話してるんだよ」


 ダンジョンは『人類最後の砦として』作られたものだ。



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