136 すちゃらか?

「いい加減、ちゃんとした王家はダンジョンの存在理由を知るべきだし、先入観なしでそのまま受け取れるちび姫様だから話してるんだよ」


 ダンジョンは『人類最後の砦として』作られたものだ。

 痩せた土地ばかりのこの世界で生き残らせるために。

 食べられる魔物が多いのも鉱物が採れるのも、ダンジョンにある物はこの世界のどこかにある物が前提になっているのも、それが理由である。


 ダンジョン外で農家や農場がそこそこ広まって来ているが、予想が出来ない所に魔力溜まりが出来てしまうせいで魔物の分布バランスがバラバラ。人間は常に生活を脅かされおり、まだまだ危うい。


 だからこそ、人間は戦う力を付けるためにも、ダンジョンはそう簡単に攻略出来ないようになっている…らしい。コアたちによると。

 【冒険の書】の知識も合わせて、アルはちび姫にそう教えてやった。


「では、ダンジョンの中のまものと外のまものとは、まったく違うのですか?…あ、でも、スタンピードのまものはドロップは落とさないのがていせつですが」


「スタンピードは魔力が濃過ぎて暴走した状態だから、魔物も物質化しちまうんだよ。外の魔物はスタンピードの生き残りか濃い魔力溜まりから生まれるから物質化していて、ドロップにはならねぇワケ。ダンジョン自体、濃い魔力溜まりから生まれるんだけどさ。

 まぁ、つまり、魔力は物質化出来るってこと。おれが分身作れるのも魔力が豊富だからで、分身の維持効率が悪いのは魔力の塊だから」


「…わかったような、よくわからないような…」


「さすがに、ちょっと難しい話かもな。こっちの世界では進んでねぇ概念だし。

 で、ダンジョンマスターだとドロップに何を出すかも、どんなフロアでどの魔物を配置するかも自由に出来る。ダンジョン内に蓄えられた魔力が足りるならな。

 だから、コアにお願いして畑や素材を作ってるワケだ。外から持ち込んだ苗や海藻も増やしてくれるし、植物の成長を早めることも出来るんで。復活した畑の作物の成長が早いのは、神獣たちのおかげってことにして、ちょっと早めてあるワケ。本格的に寒くなる前に収穫出来るように」


「そうだったのですね。しみじみ改めてアルさまには頭が上がりません。バレたらかなりマズイことになる技術まで使ってもらいまして」


「人命優先だからな。やろうと思えば、被災地だけじゃなく、どこも豊かな土地に変え、食料に困らず、生活も便利になって誰しも豊かな生活が出来るようになる、という夢のような世界をおれなら作れるのに、何でやらねぇか、分かる?」


「人がかんがえなくなるから、ですか?だらく、といいましたか」


「その通り。独裁程つまらねぇ世界もねぇしな。そもそも、ダンジョンコアは何でも作れるワケじゃねぇ。異世界知識がたっぷりあり、物作り経験もかなりあって手先が器用、というおれが作る物はコアには同じ物が作れねぇことが多い。練習しねぇとな。そんな所はちょっと人間っぽいんだけどさ」


「…あのぉ、アルさま。ダンジョンのドロップといえば、マジックアイテムやまどうぐもたくさんありますよね?それでも作れないということですか?」


「そ。おれが元いた世界は魔法がねぇ替わりに、科学や文化が発達しててさ。魔法でやれることの大半はやれるんじゃねぇかな。転移や空間拡張以外は。空を飛ぶことも道具を使えば出来たし、このバイクも外観は異世界の物そのままだ。中身はこっち仕様だけどな。

 改良に改良を重ねてるし、レア素材も使いまくってるから、コアにもまったく同じ物は作れねぇ。レア素材もダンジョンから出るんだけど、コアの管轄じゃねぇ素材もあって、作れねぇ物もそこそこあるんだよ」


「そうなんですね…。なんか頭いっぱいです」


「まぁ、そうなるわな」


 アルは苦笑する。

 いくら聡明でよく勉強しているちび姫でも、この世界にはない概念まで混じえた話は荷が勝ち過ぎだった。


「サファリス国王都にティサーフダンジョンがあるだろ。ちゃちゃっと攻略してマスターになって、浅い階層に食材ドロップがたくさん出るようにしたから、役立ててやって」


「は、はい、ありがとうございます。…ですが、ダンジョンは、そんなにかんたんにこうりゃくできてしまうものではありませんよね?なにかコツでもあるんですか?」


「力ワザ。ダンジョンの床をまとめてくり抜いた超反則ショートカット攻略」


「……アルさま、わたくしがそうぞうしたより、はるかにおつよいのですね…」


「どのぐらいの強さだと思ってたんだ?」


「ぐんたいぐらいは、かたてでひねれるぐらいかと」


「魔法を使わなくても余裕だな。ダンジョンは徐々に攻略するのも醍醐味なんだけど、時間がねぇ時にはしょうがねぇ。おれがマスターになることで、使える力も増えるし、今後、似たようなパターンでドラゴンがこの国に入って来たら、その時点で分かるようになるから、再発防止対策もバッチリ」


「アルさまばかりに色々はたらいてもらうのも、もうしわけなさすぎなんですが…」


「見付けても出来る限り国に委ねるって。手に余る時だけ手を出す。基本はこれだな。今回の災害は後者なワケ。亡くなった人も怖い思いした人もたくさんいるけど、災害も悪いことばかりじゃねぇ。今後、似たようなことがあったら何をすればいいのか分かるんだから、早く動けるだろう?河川の工事のやり方も備蓄の大事さも分かったんだから、日頃から備えることだって出来る」


「はい。へいかもそなえにかんしては、なんども必要だとおっしゃっていました。アルさまのおかんがえは『いせいしゃ』のしてんですね」


「育った環境がかなり違うだけだって。こちらだと王族や貴族しか勉強しねぇことを、一般平民も義務教育として学んでたし。いや、それ以上の研究分野まで興味があればすぐ学べた。だから、過去の異世界人たちは色んな知識を持ってて広めたんだよ。異世界でも国によっては教育レベルも文化も様々なんだけど、残されたものからしておれらと同郷ばっからしいけどな。教育レベルが高くて、食にこだわってて、手先が器用、味噌醤油の国だから」


「では、いせかいでも国がちがうとそういったとくちょうはない、ということですか?」


「そう。世界でも有名な程、料理が美味い国で、他国の名物料理も独自にアレンジしてより美味しくしたりしてるから、旅行や留学や研修で来たのに帰りたがらない外国人も多いぐらいでさ。異世界とこっちは環境が似てる所が多いからか、食べ物もよく似てて色々探してるよ。まだ見つからねぇのも多いんだけど」


「にてるんですか。ふしぎですね。同じ国の人ばかりがこちらに来るのも」


「おれらの生まれた国は日本って言うんだけど、『日本人はすちゃらか宗教で農耕民族で温厚、環境にも適応し易く、手先が器用で食にこだわりがあり、教育レベルも高いから』だろうな」


「すちゃらか?」


「ああ、言わねぇのか。日本人は信心深い人が少なく、色んな宗教のいい所だけ取り入れてるのが普通だから。ま、平和だから真剣に神に祈ることは滅多にないって話。

 …そろそろ最初の村に着くぞ」


「…え、もうですか」


 話しながらだったこともあるが、バイクのスピードも結構出てるのだ。あまり揺れないし、結界を張ってるので風も当たらず、実感は薄くなるだろうが。


 そうして、順々に村や街に復興支援の人たちを置いて行って、二度目の休憩を入れた時、バカたちがまだ影収納に入ったままなのをアルはちび姫に言われて思い出した。

 真っ暗闇の中にいきなり放り込まれて二時間半ぐらい、ものすごく怖かったらしく萎縮していたが、ちび姫がしっかり説教して、アルに謝らせてから容赦なく働かせることにした。


「あいつら、アホだな…」


「あれだけ鈍感なのも逆にスゲーよな…」


「体格で見くびるって腕力自慢だとよくあることだけど、魔法使いが身近にいないんだろうな…」


「『優れた魔法使いが』な。いまだに接近戦は弱いとか思ってたりするんだろ。魔力温存と詠唱時間稼ぎで、接近戦も戦える魔法使いも多いのに」


「っていうか、店長って魔法戦士じゃないのか?店長が武器装備してても単なる飾りって言ってたぞ。神獣様たちが」


「飾りって…」


 ……そんなヒソヒソ話が聞こえていたアルは内心苦笑するしかない。

 何言ってるんだ、イディオスもカーマインも。

 アルは確かにガリ寄りの細身体型だが、ステータスが高いため、身体強化をしていなくてもかなりの戦闘力なのは確かだし、体術が得意なのも確かだ。

 しかし、「飾り」とまで言うか。

 ダンジョン以外では装備していても使わないので、「飾り」と言えるものの、武器使い自慢な他の人たちの反感を買い兼ねない。


 まぁ、それはともかく、復興支援団を各地に移動させ、各所で色々手伝っていたので、そろそろお昼の時間だ。アルはバイクをしまい、ちび姫と手を繋いでから影転移でセプルーの街に戻った。

 手を繋がなくても移動出来るが、一瞬とはいえ、さすがに怖かろう配慮である。



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新作☆「番外編27 にゃーこや店長が教える豚汁レシピ」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330667043288792


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