137 結婚式の準備はどこでも大変!
セプルーの街、領主の館の前にアルとちび姫は影転移したのだが、何やら騒がしい。
「絶対こっち!」
「いいえ、こっちよ!こっちの方が絶対可愛いわ!」
「ちょっとシンプル過ぎないか?」
「しょうがないでしょ。こんな時なんだから。あなたが縫ってくれるワケ?お花も用意してくれるって話だけど、その用意してくれるのって店長さんでしょ。いくら何でも負担かけ過ぎだと思うし、魔法だって何のリスクもなしで使えるワケじゃないわ。出来る限りでいいのよ、出来る限りで」
「そうよね。これだって素敵な思い出になると思うし、店長さんやシヴァ様方の助力がなかったら結婚式どころの話じゃなかったワケだし」
「こんなに豊富に布を用意してくれること自体が有り難い話だし」
結婚する人たちを集めて話し合える場所がないので、領主の館のホールに机と椅子を置いて結婚式のドレスについて話し合っていたらしい。
結婚する当事者たちと役人以外も、よく見れば王妃も第二王女も王太子妃も加わっている。
「みなさん、ドレスばかり気にしてますが、くつはどうなさるのでしょう?」
ちび姫がそこを指摘する。
「…あ。さすが、女の子。よく気付いた。職人に頼むのも間に合わなさそうか」
アルは念話でティサーフダンジョンのティーコに、サファリス国で一般的に結婚式で履くパンプスを作ってもらい、転送してもらった。今いる花嫁予定人数分+αで。他の村や街にも結婚式をしたいカップルがいるので。
女性用靴は5cmヒールで少し光沢のある白布パンプス。飾りは自分たちで着けるそうだ。
「はいはい、花嫁さんたちは並んで。サイズ合わせるから」
サイズ合わせはアルが錬金術でする。一番、早いし、足に合った靴は履き心地もいい。
「店長さん!」
「アル様!」
「これ以上は本当に申し訳ないので…」
「はいはい。拒否権ねぇからな。何なら王命をもらって来るぞ。貸しなら腐る程あるし」
「そこでおうめいをちらつかせるのですか。さすがです。アルさま」
ちび姫は何だか感銘を受けたらしい。
王命の使い
パンプスは大きさだけじゃなく、ヒールの高さやソールの柔らかさも調整してあげた。足の形は様々だし、痛めると可哀想なので。
「未婚の女性はどんな理由でも男性に足を触られるのははしたない!」文化なら、面倒なことになったことだろう。違ってよかった。
そこで、昼食の準備になったので中断し、アルも支度を手伝ってみんなで一緒に昼食を食べる。小麦粉がたくさんあるからか、ベーコンと野菜のパスタだった。宮廷料理人の半分はまだ居続けてくれているので、さすが、美味しかった。
午後はパンプスのサイズ合わせの続き、終わったらついでに、花婿の衣装はこちらで決定してやった。
何にしても選択の幅が少ないのですぐだ。礼服としてしか使えないものだともったいないので、ジャケット、ズボン、シャツでそれぞれバラバラでも使えるよう、スマートカジュアルっぽい感じでまとめた。
花婿の服装は本当に何でもいいそうなので、アスコットタイで統一してやる。全員お揃いではなく、それぞれに似合うようアレンジしてあるので、元のデザインが一緒だとは中々気付くまい。
ちなみに、午後はちび姫は親元に戻っている。王族とはいえ、五歳児なのでお昼寝も遊ぶのも仕事だ。
「あ、そうそう。花嫁さんたち。SSランク冒険者の妻、アカネさんが『ネックレスは任せて』って言ってたんで、用意しなくていいぞ」
エレナーダダンジョンを午前中でソロ攻略したアカネは、一服した後、王都を散策してどんなデザインがいいか考えるそうだ。
鉱物ダンジョンの近くのため、鉱物を使った色んな細工物も多いのだ。
ダンジョンで鉱物ドロップをたくさんゲットしたので提供とデザインはアカネ、石と作るのはアル(シヴァ)である。それから、生花が売っているのなら今のうちに買い占め、或いは予約する予定。
「…え」
「…そんな何から何まで申し訳なさ過ぎなんですが…」
「アカネさんも結婚式をやったことがある経験者なんだから、応援したいんだってさ。まぁ、出身地域がかなり違うみたいだから好みじゃねぇかもだけど」
「いやいや、そんなお気持ちだけで胸いっぱいです」
「でも、正直、すっごく楽しみです!下僕でも下働きでもします、とお伝え下さい」
「えーズルイ。わたしが言おうと思ったのに」
「いやいや、下僕も下働きもいらねぇだろ。王族より大金持ちなSSランク冒険者の奥様で本人も稼ぎまくってるのに。…あ、おれはモニターが欲しいんだった。この中で文字が読める人はいる?」
手を挙げたのは六カップル中、六人だけだった。半数だ。識字率は他の国と似たりよったりか。この近隣国の言語は共通で、地域によって多少方言っぽいものがある程度である。
「じゃ、読める人はこっち。読めない人はこれな」
アルは読み書きの教科書小冊子と筆記用具をセットにして、読めない人たちに配り、読める人には『異世界版シンデレラ』の小冊子と筆記用具を渡して、感想文を書いてもらうことにした。
「この教科書は読み書き出来ない冒険者を三十人集めて、色々話し合って作ったものなんだけど、一般人ならどのぐらいで覚えられるかが知りたいんで、後で覚えられた日数を教えてくれ」
場合によっては難易度を設定した教科書を作るか、続編や補足本を作るか、になる。
「…あの、アル様、わたしたちが得するばかりではないですか?」
「そんなことねぇって。誰も彼もメリットがある一挙両得って言うんだよ。こういったことは。読み書き出来る人が増えれば、本を買う人も増えるだろ?買う人が増えれば本を作る商人も増え、本を書く人も増えて色んな話も増える。すると、話だけじゃなく絵を付けたり、演劇や映像になって、その舞台や伝達手段の技術も発達する、といいこと尽くめなワケ」
「よく分からないんですが…」
「回り回っておれも得するって分かってりゃいいよ」
事実である。
さて、他の地域の結婚するカップルの所へ行かねば、とアルは役人に伝えてから影転移した。
結局、昨日に引き続き働いているアルだった。
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関連話*【異世界版シンデレラ】トアルー伯爵家
https://kakuyomu.jp/works/16817330651746010347
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新作☆「番外編27 にゃーこや店長が教える豚汁レシピ」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330667043288792
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