番外編48 黒鷹獅子の就職活動

 温かくて居心地のよかった場所は、いつの間にか小さくなった。

 ぎゅーぎゅー。

 ちょっと苦しくてもがく。

 コツン。

 クチバシが壁?に当たった。

 そうか、ここから出ればいいんだ。

 コツコツコツコツ、クチバシでつついて、何とか開いた穴を足で広げて。

 よいしょ、よいしょ。

 光が入って来て目が少し痛い。


 何か聞こえる。

 後から考えれば、卵の殻を割るのを応援されていたのだろう。

 一番最初の記憶は、心配そうに覗き込む顔。

 白い鷹頭と人間の男の顔。

 

「ピイピイ(なになに?)」


 二人…二匹?は目を細め、唇の端が上がる。

 

「ピイ?(なになに?こんなかんじ?)」


 マネしてみた。何か楽しくなった。

 それが笑顔だと知ったのは、割とすぐだった。



 ******



「あら、デューク、元気?」


「またちょっと大きくなったねぇ」


「ファルコもね」


「こんにちは。ベレット」


「こんにちは」


「ファルコ、木の実食べるかい?」


「デュークは果物がいい?」


「あらあら、手までつついちゃダメよ」


「ピ!(あ、ごめん。いきおいでつついちゃった)」


「ううん、いいのよ、ファルコ。そんなに頭を下げなくても。すり傷にもなってないんだから」


 頭を下げる白鷹獅子グリフォン…ファルコに、果物売りの女性は大丈夫と手を振った。

 ファルコの背中にいたデュークも、慌ててマネして頭を下げる。ごめんね。


「本当に大丈夫だから」


 手を少しつつかれた女性は、デュークのまだ小さい黒鷹頭を指先でちょいちょいと頭を撫でる。


「本当に賢くて可愛いわねぇ。デュークもファルコも」


 続いて、女性はファルコの白鷹頭も撫でた。


「ファルコはもう人を乗せられる程、大きくなってるんだから、カッコイイの方が喜ぶんじゃないのか?」


「でも、可愛いの。グリフォンってすごく長生きって聞くから、ほんの数年じゃまだ子供よ」


 デュークが物心付いた頃には、周囲の人たちは笑顔が多かった。

 Aランク魔物のグリフォンでもファルコが生まれる前、卵の頃から見ているし、デュークも卵の頃からなので、街の人たちに可愛がってもらっていた。


 デュークを一番可愛がっているのはファルコで、デュークの卵はファルコが拾って来た。それこそ、一番初めから関わっているのだ。ファルコのマスターになるベレットは二番目にデュークを可愛がっていた。


「でも、そろそろデュークも誰かがテイムしないとさらわれちゃったり、しちゃうかもよ?」


「このカンデンツァの街ならともかく、他の街だと魔物はテイムしてないと入れないしなぁ」


「それは分かってるんだけど、子供でもAランク魔物をテイム出来る人も難しいんだよ。商人のおれがファルコをテイム出来たのだって奇跡のようなものだし…」


 ベレットが困ったように頭をかく。


「…あっ!そういえば、そうだった!Aランクなんだよな…」


「ファルコも暴れたりしないしねぇ。…従魔誘拐事件の時以外は」


「まぁ、あれはあっちが悪いし。ともかく、王都でテイマーを探すべきかなぁ。馴染みの冒険者たちもその方がいいって言ってたし」


「ファルコでひとっ飛びだから、その辺はいいにしても、王都って色んな人が集まるんだろ?いくら、デュークをテイム出来ても変な人にはちょっと…」


「おれもそれが心配で…。お金を……っても売られるとかあるかもしれないし」


「ピイ?(おじさん、なに?うられるの?ぼく?)」


「ファルコの抜けた羽でもいい値段で売れるしなぁ。グリフォンは素材としても優秀らしくて」


「グリフォン自体も珍しいもんなぁ。目の前に二匹もいるから何か実感が薄いけど」


「ベレットの所にはグリフォンが集まる運命らしいけどな。あははははは!」


「どんな運命だよ。あははははは」


 ここでデュークが勘違いしたのをベレットはまったく気付かなかった。

 デュークの言葉(念話)が分かるファルコも、デュークの行く末を真剣に案じていたので、デュークの言葉は聞き流していたのだ!


 ******


「ピピ…(ぼく、うられちゃうんだ…やだな)」


「ピィ……(ぼくもそだつとおおきくなっちゃうから、かなぁ?ファルコもおっきいし…)」


「ピ~(ごはんはじぶんでなんとかできる、とおもうけど…まだとべないし)」


「ピッピピ!(ううん、とべるよ!がんばれば!)」


「ピルル…(?とかいうところにいったら、にげて…ファルコとおじさんにあえなくなるのはいやだけど、でも、うられちゃうのもいやだし!)」


「クルゥ!(いいひとにひろってもらおっと!ぼく、かわいいからだいじょうぶ!)」


 そして、デュークは王都エレナーダに到着するなり、逃げ出すことになる。



→「140 ぼく、うられちゃうんでしょ?」に続く。

https://kakuyomu.jp/works/16817330653670409929/episodes/16817330657689077068


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る