子供グリフォンのデューク

140 ぼく、うられちゃうんでしょ?

 エイブル国王都エレナーダ冒険者ギルドの依頼掲示板にはダンジョン内の採取、ドロップ品の納品依頼がやはり多いが、ダンジョン以外、街の中・外での依頼も当然あった。

 一つ面白い依頼が出ていた。


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依頼名:グリフォンの保護

依頼内容:世話をしていたグリフォンの子供が脱走した。

なるべく拘束せず、傷付けず、生きたまま保護して欲しい。

大きさは大型犬ぐらいで上半身と前足は黒の鷹、黄色のクチバシ、下半身は濃い茶色のライオン、背中の羽も黒で羽先に白いラインが入っている。

名前はデューク。

人懐こいので誰かに飼われている可能性あり。

まだ飛べず、戦闘力はほとんどない。

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 世話をしていたグリフォンの子供?

 何故、世話?従魔契約が出来なかったのだろうか?

 グリフォンはAランク魔物なので、契約にかなり魔力を使いそうではあるが。

 Aランク魔物なのに、Bランク依頼の所へ貼ってあるのは、保護だからだろうか。しかし、保護の方が難しいのでは?


 アルは依頼票を受付に持って行き、詳しい話を聞いた所、依頼を出したのは冒険者じゃなく、商人だった。

 商人が街から街へと移動している時に、盗賊に襲われて放置されたらしき馬車の中に大きな卵があり、それがグリフォンの卵で、持ち帰って生まれたら懐かれたらしい。いわゆる、刷り込みか。


 グリフォンと一緒に行商をしていれば、魔物も盗賊も近寄らないし、大きくなったら乗せてくれるようになったので移動がかなり速くなり重宝していたが、ある時、森に食事に行った従魔のグリフォンが大きな卵を持ち帰り、それが今回の依頼の保護するデューク。

 従魔のグリフォンの実子なのか、拾ったのかは分からないそうだ。


 その商人、元からのテイマーではなく、気付いたら従魔契約が出来ていて方法もよく分からないし、デュークまで従魔に出来る程の魔力量がないので、王都エレナーダの冒険者ギルドに相談に来る所だったのだが、初めて来る大きな街に興奮したデュークに逃げられてしまった、と。


 従魔のグリフォンは荷物運びのお手伝いをしていたので、咄嗟に追いかけられず、また、2m以上あるので狭い所に入れず、で依頼を出すことになった。

 エレナーダは王都なだけに、結構広く、大型犬サイズぐらいなら目撃しても、犬か、で流されるかもしれない。デュークはまだ飛べないのが救いか。


 デュークの保護依頼がBランク依頼になったのは、その辺が理由で、まだ子供で飛べず、戦闘能力がないこと、それに、Bランク依頼なら受けられる冒険者が多い、と受付嬢に薦められたのも理由だった。


 目撃情報を聞いてみると、つい先程、依頼を貼り出した所なので、目撃情報は入ってないらしい。すぐさま依頼という辺り、かなり儲かってる商人か。


「グリフォンの抜けた羽だけでも、かなり貴重な素材ですので買い取らせてもらってるんですよ」


「あ、なるほどな」


 高ランク魔物だと魔力がたっぷり含まれてるだろうから、色々と使いみちがあることだろう。


「報酬が羽ってのもあり?」


「交渉次第かと思います」


「じゃ、受注手続きよろしく」


 手続きの間に、アルはエーコに念話通話で連絡し、グリフォンの子供を探してもらった。反則技だろうが、戦闘力がないグリフォンなら怪我しないうちに保護した方がいいので。

 アルも探知魔法を広げつつ探ったが……。


「いた!ちょっと保護して来る」


 アルの幸運Aか探しもの遭遇率アップな【常闇の光明EX】が働いたのか、そのどれもか、デュークは冒険者ギルドのそこそこ側にいた。いわゆる路地裏だ。誰かに追いかけられて逃げて迷い込んだのかもしれない。

 影転移でアルがデュークの側に出ると、デュークは反射的に後ずさった。


『デューク?…だな。警戒しなくていい。保護依頼を受けた冒険者だ。飼い主さんの所へ案内してやるぞ』


『…な、なんでぼくたちのことばがはなせるの?きみ、にんげんでしょ?』


『念話って言って言葉じゃねぇから。肉の刺さった美味しそうな串焼きを見て、よだれ垂らしてたら食べたいんだな、って思うだろ?そんな感じ』


『そっか~。でも、もどらないよ。ぼく、うられちゃうんでしょ?いやだよ』


『…へ?売るつもりなら高い金出して冒険者に保護依頼を出してねぇだろ。何か勘違いしたんじゃねぇの?』


『だって、ファルコとちがってぼくはやくたたずだし、ごはんもじぶんじゃかれないし』


『まだ子供だろうが。そんなこと期待してねぇと思うぞ。ファルコって元からいるグリフォン?』


『そう。ぼくのおんじん。…おんまもの?ぼく、たまごのとき、へびのまものにたべられそうだったんだって』


『恩を仇で返したいワケか?』


『ちがうけど、おじさんにもめいわくだとおもうし…』


『まだ狩りも出来ないのに、どうやって生きてくつもりだ?』


『……どうしよう』


 そこは、考えてなかったらしい。

 元から知能が高いだけで、まだ生まれて三ヶ月過ぎた所なのだ。


『はいはい、戻れ戻れ。事情を知らねぇ冒険者に見付かったら狩られるのはお前だぞ。高ランク魔物に知能があるって知らねぇ連中も多いからな』


 だからこそ、飼い主の商人はすぐさま依頼したのだろう。

 アルはデュークの返事を聞くことなく、すぐさま影転移でディークと一緒に冒険者ギルドに戻った。


「…ぐぁっ!?」


 どこ、ここ?という驚きだ。


「冒険者ギルド。…はい、デューク捕獲。売られると勘違いしたんだってさ」


 アルは念話で同時通訳してやった。



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関連話「番外編48 黒鷹獅子の就職活動」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16818093077837181642

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