139 是非、ご用命下さいませ!

 エイブル国王都エレナーダ冒険者ギルド。

 十時半過ぎなので、依頼受注に来ている冒険者は少なく、ギルド内も落ち着いている。小冊子の魔道具はエーコバタが一度取り替えたが、在庫はまだ大丈夫そうだ。


「あ、アル様。おはようございます。小冊子の魔道具の回収ですか?」


「いや、違う話。ギルドの女性職員に対して依頼したいんだけど、それもここでいい?」


「はい、大丈夫です。どういった依頼でしょうか?」


「読書感想文。おれの故郷のおとぎ話を絵本にして自販で売る予定なんだけど、こっちの地域に合わせてアレンジしたんで、変な所があったら指摘して欲しい、と思って。報酬はドライフラワーのプチネックレス」


 これ、とパカッとティ○ァニーブルーの紙箱ケースを開けて見せた。

 続いてサンプル絵本と筆記用具、読書感想文用紙セットの小さい紙袋を出す。にゃーこやオリジナル紙袋で、にゃーこやのイラストロゴマークをオシャレに入れていた。

 今回の絵本はA6サイズ…文庫本サイズなので、先に出した小冊子の倍の大きさ、用紙も厚紙を使っている。絵本ターゲットは当然、子供なので。


「天然の花を使ってるんで、それぞれ微妙に違うし、花も色も違うのもあるけど、選べません、ネックレスの交換交渉はそれぞれでってことで。サンプル絵本と筆記用具は差し上げます、と。どう?」


「やらせて下さい!是非!期限はいつまでですか?」


「別に急いでねぇけど、三日ぐらいあればいい?」


「はい。そう長くないお話のようですから、余裕だと思います。何人ぐらい募集していますか?」


「希望者全員。ちゃんと文章が書ける人じゃなくても、読める字が書ける人ならいいんで。最初に言っとくけど、素直に思ったままの感想をくれる人は次の話で指名するから、名前はキッチリ書いてくれ」


「了解しました。ちなみに、次の報酬もアクセサリーですか?」


「焼き菓子や手袋、帽子とかでもいいけど。季節的に」


「アル様!是非、ご用命下さいませ!」


 アルが挙げた報酬はどれもちゃんと魅力的だったようだ。


「で、女性職員全員で何人?」


「臨時雇いの人も含めれば三十八人です」


「じゃ、三十八人分な。報酬は後払いだけど、そのネックレス一つだけは見本も兼ねて先払いで。見せてやって」


「はい。…あの、アル様、ガラスに花ってどうやって入れたんですか?」


「ああ、ガラスじゃねぇって。樹脂。接着剤の透明のものっていうか。…ほら、この砂時計の容器と同じものなんだけど、柔らかくねぇと花の周囲に空気が入っちまうから配合を変えてある」


 アルはカップラーメンと一緒に売り出した砂時計の一つを出して、そう説明した。


「そうだったんですか」


「ガラスと違って軽いし、割れねぇ、更に加工もし易いのがメリットだな。樹脂の素材はソルジャーアントの目とカエルの粘液の合成。興味あるなら商業ギルドに登録してあるから訊いてみるといい」


「はい。有難うございます」


 じゃ、よろしくと踵を返したアルは、ギルドを出る前に依頼掲示板を覗いてみた。

 前回、魔法学校の講師依頼から九日経つ。立て込んでいたのでしょうがないが、実績が元々少ないし、時間のある時になるべく依頼を受けた方がいいだろう。

 Cランクのアルは三ヶ月依頼を受けないとランクダウンする。


 シヴァは事後承諾でサファリス国国王から依頼を受けたことになっているし、そうじゃなくてもSSランク冒険者は、年単位で行方不明になった所でランクダウンなんかしない。

 アルも事後承諾で依頼を…とは言われたが、断った。

 実質、報酬なんて出せないのに、遠出してまで依頼を受けるCランク冒険者なんていないので。


 同じ理由でCランク冒険者たるアカネも断っていた。

 雇ったのはシヴァのみだが、シヴァが勝手に連れて来たのがアカネであり、友達の神獣たちであり、その友達のアルには連絡しただけ、ということで。



――――――――――――――――――――――――――――――

新作☆「番外編27 にゃーこや店長が教える豚汁レシピ」

https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330667043288792

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る