141 反抗期か!

「…はい、デューク捕獲。売られると勘違いしたんだってさ」


 アルは念話で同時通訳してやった。


「…あ、アル様、早急な保護、有難うございました。…って、言葉が分かるんですか?」


「念話で会話が出来る。元々知能が高い魔物だしな。こっちの言うことはだいたい分かってるぞ」


「そうなんですか。じゃ、依頼主も心配していると思うので、すぐメッセンジャーを出します。デューク君は…もう逃げませんか?」


「考えなしに飛び出しただけだから、逃げねぇだろ。狩りが出来ねぇからメシも食えねぇし」


『…むぅ。ぼく、かわいいから、かわいがってくれるひとがいるかもしれないよ?』


「甘いな。グリフォンって世間一般には高ランクの魔物で、高級素材だぞ。戦闘力もロクにねぇ子供に何が出来る、と?運良くいい人に飼われることになっても、その人が殺されてデュークがさらわれるだけだな。相当強い冒険者か国に飼われるんなら別だけど」


『くにって?』


「権力者。武力も持ってるけど、まぁ、自由奪われて軍事利用されるのがオチだな。今の商人のおじさんが無事なのは、もう一匹強いグリフォンがいるからだ。可愛がってもらってるんだろ。こうも箱入りグリフォンだと」


 箱に入ったグリフォンを想像するとちょっと可愛い。


『じゃ、おにいさんは、ぼく、いらない?あっというまにいどうしたし、つよそうなんだけど』


「養うのも守るのも余裕だけど、グリフォンのシツケとか分からねぇっつーの。先輩グリフォンの言うことを利いとけ」


『え、でも、ファルコもグリフォンがそだててないよ?』


「…そうだった。商人のおじさんが育てたんだっけ。じゃ、いいじゃねぇか、おじさんのとこで」


『でも、ぼく、やくたたずだし、二匹ってたいへんだとおもうし…』


「反抗期か!…正にその時期なのか」


『はんこーき?』


「自分はこれでいいんだろうか、と考える時期。人間の場合だけど、デュークは人間と人間に育てられたグリフォンとに育てられてるから、考え方は人間寄りなんだろうな」


 艶のある黒い鷹の頭を軽く撫でた。意外に羽毛の触り心地がいい。

 デュークが今のままだと居辛いという気持ちも分からなくもない。

 まだこれから大きくなるデュークは食料も多く必要になるし、狩りもすぐ上手く出来るワケではないのだから。


 それに、今は大丈夫でも噂が広がり、グリフォン狙いで商人が襲われることもあるかもしれないし、その際、先輩グリフォンが運んで逃げられるのは商人まで、だろう。


『アカネ、グリフォン欲しい?子供グリフォンが売り込んで来てるんだけど。戦闘能力ほぼなし、大型犬サイズ、まだ飛べず、魔法も使えねぇ』


 アルはアカネに念話で訊いてみた。


【そんなに小さいんだ?何?どこかで拾ったの?】


『いや、依頼で探したんだけどさ』


 アルは事情を手短に説明した。


【そういった事情なら、おじさんが手放さないんじゃない?随分、可愛がってるようだし】


『でも、本人…本魔物が納得してねぇからまた逃げそうだぞ?』


【あーそっかぁ。引き取ってもいいけど、グリフォンってどうやって育てるのかが分からなくない?】


『そこなんだって。おじさんはやれてるんだから、何とかなりそうではあるけど』


『ねぇ、なんでだまるの?』


「ああ、ごめん。通信の魔道具使って念話で彼女にちょっと訊いてたんだよ。一人暮らししてるワケじゃねぇから」


「えっ、そうなんですかっ?」


 受付嬢がまず驚いた。

 メッセンジャーを手配してからは、黙ってやり取りを見ていたのだが。


『え、なんかおかしいの?』


「ソロ冒険者だから一人暮らしだと思ってたんだろ。おれ以上の環境は誰も用意出来ねぇだろうし、また逃げられた方が危ねぇしなぁ。デュークは何食うの?生肉?」


『やいたのもたべる!くしやきとかくだものとか』


「…お、おれの優秀な鑑定様が超いい仕事した。グリフォンはやっぱ雑食なのか。先輩グリフォン、魔法使う?」


 相変わらず、いい仕事をしてくれる鑑定様だ。


『うん。かぜまほうだけ。ぼくもつかえるようになるの?』


「練習すればな。本能的にだいたい分かってるらしいぞ。だから、魔法が使えるぐらい大きくなって魔力も増えたら、使い方が分かるようになるらしい。先輩グリフォンもまだ成長途中だろう」


『そうなんだ!たのしみ』


「しかし、少々残念なお知らせ。グリフォンの平均寿命は300年だとさ」


『…え?』


「大半の人間の寿命はせいぜい六十年、かなり頑張って霊薬を手に入れて長生きしたとしても百年ぐらい。商人のおじさんとは死に別れるのは決定、デュークが成長するのを待てないかも、ということだ」


 そういえば、大型の鳥は長生きだった、とグリフォンは魔物なので比べる対象が違ってるかもしれないが、アルはそんなことを思い出した。


『おにいさんは?わかいからながい?』


『おれの寿命はグリフォンより長くて、500年以上あるらしいぞ。ステータス上げ過ぎで。友達の神獣が言ってたし』


 あまり知られたくないので、アルは念話だけで返す。


『しんじゅーって?』


『神様の使いの聖なる獣。ケタ違いに長命なんで豊富な知識を持ってる。髪も爪も伸びなくなったから、多分、本当』


『そうなんだ!じゃ、ぼく、もらってよ』


「おじさんの所にいて、いよいよおじさんがダメなら迎えに行くっていう手もあるぞ?先輩グリフォンも行き場に困るだろうし」


『んん?さっきのいどうつかえば、おじさんにもファルコにもいつでもあえるんじゃないの?』


「まぁ、それはそうだけど。賢いな、デューク」


 そうか。それもあってアルに売り込んでるワケか。


『へへへへ。ぬけたはね、うれるっていってたからぜんぶあげるし』


「有り難いけど、デュークはまだ若いからさほど使いみちがねぇんだよなぁ。飾りか矢羽に使う程度しか。まぁ、溜めといて羽根枕やクッションとかでもよさそうだけど」


「…アル様、すっかり素材として見てませんか?」


「いやいや、抜けた羽根くれるって言うから使い途を言っただけだって。やり取りで売り込まれてるのは分かっただろ。デメリットの方が多いから他に受ける奴もいなさそうだし、影転移で連れて来たから商人のおじさんにも先輩グリフォンにもいつでも会えるし、で条件もいいと、賢いデュークは分かってるワケで」


「それは本当に賢いですね。でも、アル様、いくら幼くても魔物なので従魔にする必要がありますが、そちらは大丈夫なんでしょうか?」


「ああ、問題なし。色々あってつい最近、テイムスキルが生えたんで。他に従魔がいるワケじゃねぇんだけど。…あ、そっか。Aランク魔物をテイム出来る人っていう辺りで、更にかなーり狭き門になっちまうな。商人のおじさんも元々その相談に来たワケだし」


『だから、うられるとおもったの。おかねもらうっていってたし』


「それ、逆じゃね?デュークをもらってくれる人がいるなら、よろしくどうぞ、でお金をもらってもらう、であって売るんだったら、支払ってもらう、って言い方になるだろうし」


『…そうなの?』


「多分な。可愛がってなけりゃ保護依頼出さねぇし。…じゃ、デューク連れて食堂にいるから」


 注目されっ放しで業務が滞ってしまっているので。

 アルはデュークと一緒に食堂に移動した。

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