142 すっごいすっごいえらいひとだ…

「何か食う?飲む?」


 食堂に移動したアルはディークにそう訊いた。


『ぼく、おかねないんだけど』


 人間の街で飲み食いするには、お金が必要なことを分かっているグリフォン。本当に賢い。


「奢ってやるよ。昼にはちょっと早いけどな」


 肉が好きだそうなので、デュークには串焼きと腸詰めを頼んだ。

 もちろん、アルも食べるが、エレナーダでも販売されるようになった焼きそばも注文する。


 デュークが食べ易いよう大きい深皿二つ、その皿を固定出来るようなミニテーブルを錬成。片方には水を入れてやる。


『すごーい。おにいさん、かなりすごいまほうつかいだったんだ?』


「魔法も使える剣士であり、錬金術師で魔道具師でもある。名前で呼べ。アルだ」


『アルさん?』


「さんはいらねぇ」


『でも、ぼく、じゅーまってのになるんでしょ?ファルコはおじさんのこと、あるじってよんでるし』


「各自それぞれ。おれは呼び捨てでいいって」


『わかった。アルはぼうけんしゃっていってたけど、やっぱり、Aランク?』


「Cランク。これ以上ランクアップするメリットが全然ないんで。他に商売っつーか、趣味?で商人やってて、色々作ってる。『こおりやさん』『カップらーめんやさん』は知ってる?」


『しってる!らーめんはたべたよ!おいしかった。…え、なに?アル、やとわれてるひと?』


「いや、店長。屋号は『にゃーこや』。おれが考案して仲間たちと改良したものを、自動販売魔道具で売ってる。最近は小冊子、本の自販を設置してて、ここにも置いてあるぞ」


『…すっごいすっごいえらいひとだ…』


「いやいや、偉くはねぇって。大金持ちだから採算度外視のことが出来るけどな」


 色々話してる間に注文した料理が届いたので、アルもデュークも食べ始めた。串焼きは串を外してやらなくても、自分で串を掴んで上手に串から外して食べる。鷹の前足は案外器用らしい。


 ちなみに、デュークの鷹部分は黒だが、クチバシと足は黄色だ。

 やきそばは甘辛醤油味。これはこれで美味しい。中華麺もちゃんと作れているので、独特の弾力もバッチリだ。

 そこに、アカネがさり気なく近寄って来た。

 転移魔法陣でエレナーダダンジョンまで来て、そこから影転移かマロンで街に来たのだろう。


「こんにちは。アル。少しぶり」


「おう」


 アルとアカネの面識はあるものの、他人行儀なやり取りとなる。


「何でグリフォン?」


「保護中なんだけど、飼うことになりそうで」


 アルはテイムのことも含め、事情を改めて説明する。

 念話でデュークには説明せず、アカネとやり取りする。


『じゃ、飼った方がこの子のためにもいいね。よく考えたらかなりマズイ状況でよく無事だったわ。戦闘力はなさそうな商人のおじさんでしょ?』


『デュークも幸運Aだからだろ。アカネは別にいい?』


『歓迎。思ったより可愛いし、素直そうだし。じゃ、そうなると、こっちの事情を話さないとだけど、まずは商人のおじさんの了解を取らないと、か』


『だな』


「そっか。じゃ、また」


 アカネは一通り聞き終わった、という感じで少し離れた席で座り、ランチを注文した。ランチが焼きそばである。野菜スープ付きだ。


『ともだち?』


「知人。前に一緒の依頼を受けたことがあって、この前もそうだったんだよ」


 これも嘘じゃない。アルとしては。


『彼女じゃないの?』


「彼女じゃねぇな」


『すごいわかいけど、やさしそうなのに』


「とうにSSランク冒険者の奥さんなんだよ」


『…あら、ざんねん。よさそうなひとってすぐけっこんしちゃうよね。おじさんもいってた』


「おじさん、独身?」


『うん。かのじょはいたことあるけど、あちこちいってるあいだににげられたって』


「行商は予定通りに行かないことばっかりだろうしなぁ。…デューク、もっと食う?」


『うん!』


 ランチメニューの時間帯になって混雑して来たので届くのも時間がかかりそう、と収納から作り置きのサンドイッチを出してやった。

 具材は玉子やローストビーフやツナサラダである。

 何か一品でも注文していれば、持ち込みは別にいい。もちろん、アルも食べる。


 くちばしでもサンドイッチは食べ易いらしく、デュークは遠慮なくぱくぱく食べる。「おいしい!」と連発して。

 野菜が少ないか、と温野菜サラダも出した。ゴマドレッシングの気分なのでゴマドレ。

 デュークにももちろん食べさせる。犬猫でも偏った食事は身体に悪かったハズだ。魔物でも食物を食べる時点でバランス良く食べた方がいいに決まっている。


『これも、おいしいよ!なんてなまえのたべもの?』


「蒸した野菜だって。…あー筋っぽいか、甘みのねぇ野菜しか食ってねぇのか。旅ばっかだとしょうがねぇかも。これは新鮮な野菜で作ってあるし」


『しんせんなの?なんで?やさいたかいってきいたけど』


「うちで作ってるからな。食べ放題」


『はたけあるんだ?』


「おう。うちは超色々あるぞ。好きなだけ食え」


 ダンジョンだから。

 デュークは本当に遠慮なく食べた後、眠くなったのか丸くなった。

 そのまま石の床で寝かせるのも冷たそうなので、アルは目測でカゴを錬成し、ピッタリのクッションも錬成して入れ、その中に寝かせてやった。


「…何かいい暮らししてるなぁ」


「店長、いつ飼ったの?グリフォン」


 グリフォンが目立たないワケがないので、遠巻きにしていた冒険者たちだが、寝たからいっか、と思ったらしく、近くに来てそっと話しかけて来た。


「いや、まだ保護中。今の飼い主さんがいいんなら飼うことになりそうだけど」


「飼う?テイムじゃなくて?」


「テイムはするけど、まだ戦闘力もなく飛べもしねぇんで」


「って、それってかなりヤバイんじゃ…」


「ってことで、ギルドに相談に来る途中で、デュークが逃げて保護依頼が出ておれが受けて保護したと」


「…うーん、かなり強運なんじゃ…」


「店長、ギルドにたまにしか来ないし、依頼受ける所、見たことないのにな」


「そういった意味では、おれの引きも強いのかも。…あ、そうそう、先日は救援物資や義援金をありがとな。サファリス国の王様が感謝状送るって言ってたけど、欲しい?」


「…えーそれはあまり」


「入国優先してくれるとかあれば嬉しいな」


「そのぐらいなら何とかなりそう。提案しとく」


 国境警備兵たちに分かり易く、偽造がし難い何かというのが問題になるだろう。

 せいぜい、五十人弱だし、アルの頭の中に入ってるので、リスト作って照らし合わせる、というのでもいいかもしれない。冒険者ギルドカードの偽造は出来ないので。

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