143 会ったばかりの人間を信じていいのか?
居合わせた冒険者たちと雑談をしていると、そこに、ようやく、デュークの飼い主の商人と先輩グリフォンが到着した。
冒険者ギルドから、結構、遠くの場所にいたらしい。
おじさんとデュークが呼んではいたが、予想より若い三十六歳。まぁ、おじさんか。名前はベレット。
「どうも有難うございました!デュークをかなり早く保護してもらったそうで。…って、デューク、起きろって。デューク」
「たらふく食った後だから眠いんだろうな」
『こんなに安心してるとは。到底、野生に返せないな』
「おう、初めまして、だな?ファルコ。同感だ。まぁ、デュークはまだ生まれて三ヶ月だからしょうがねぇだろ」
アルは念話で同時通訳する。
「グァッ!?」
「ああ、ごめん。驚かせたか。念話。思念を伝えたり読み取ったりして通話するスキル。だから、知能ある魔物とも意思疎通が出来るってワケ。今は声に出しても言ってる同時通訳だな」
「本物のテイマーさんだから、ですか?」
「テイマーに本物も偽物もねぇだろ。従魔契約が出来ればテイマーだ。話せるのは単に念話スキルがあるかないか。そもそも、おれ、一般的なテイマーじゃねぇし。色々あってテイムスキルは生えたけど、ほんの数日前。…改めて名乗ろう。Cランク冒険者のアルだ。副業でにゃーこやの店長もやってる。『こおりやさん』『カップらーめんやさん』はうちが設置した。今はそこの小冊子の自販だな」
「…!!あなたが…こんなに若い方でしたか…」
「疑わねぇの?」
「はい。デュークを素早く保護してくれたことといい、お噂はかねがね聞いておりました。それに、そのあつらえたとしか思えないカゴの出来も素晴らしいですし」
「あつらえたんだけどな、正に。デュークが勘違いしてたけど、ベレットさんは別に売るつもりはなかったんだろ?」
「もちろんです!ですが、このまま連れているのはデュークも危険ですし、もう少し大きくなるまででも預かってくれる人が見つかれば、といった話はしてました。しかし、街中では従魔契約が必要になりますので、子供とはいえ、グリフォンと契約出来る人がいるかどうか…」
「おれなら大丈夫。デュークも乗り気で売り込んで来ててさ。おれは影転移出来るから、いつでもベレットさんとファルコに会える。繰り返せば国をまたぐ距離でも数分で行けるんで」
「…はい?」
「にゃーこやは神出鬼没って噂は知らねぇ?」
「知ってますが、従業員の方ではないのですか?」
「うちの店員もかなり働いてるけど、その土地の商業ギルドへの営業許可を取るのはおれが行くしかねぇんだよ。代表者が契約するから。それに、まだ詳しい噂は流れて来てねぇかもしれねぇけど、大雨災害があったサファリス国への救援隊派遣、おれが連れて行って帰りも送った。エイブル国もラーヤナ国も」
「アル殿が支援をしたのは聞いてましたが、物資だけではなかったんですか…いえ、今ここにいることがその証拠ですよね。一週間程度で往復は無理ですから」
「だから、疑われるのかと思ったんだって。自販を出すまでもなく、周囲の冒険者たちも証明してくれるだろうけど」
『アル殿にデュークを預ければ、本当にいつでも会えるということでいいのか?連絡は?』
「連絡手段も用意する。まぁ、色々忙しいからすぐ出れない時もあるけどな。…ベレットさん、ファルコも乗り気のようだけど、どうする?グリフォンの育て方は知らねぇけど、不自由のない生活はさせてやれるぞ。デュークはまだ何も手伝えないことを気にしてたから、仕事を作ってもいいし」
『仕事?デュークにやれる仕事なんてあるのか?人間で言えば、ちょっと動けるようになったぐらいの赤ん坊なんだが』
「分かってるって。だからこそ。デュークを被災地に連れて行って、子供たちと遊んでもらう。こんな幼い時期のグリフォンなんて、冒険者たちだって見たことねぇんだし、何をどうやって食べるかっていうだけでも大人も興味津々だろうぜ。明るい話題が中々ない地域に明るい話題提供も立派な仕事だ。中々出来ることじゃねぇ」
「それはいいですね!本当にご迷惑でなければ、デュークを引き取ってもらえませんか。いつでも会えるのでしたら、本当に言うことありませんし。なぁ?ファルコ」
『会ったばかりの人間を信じていいのか?』
「何か不満?」
多少はファルコの意志を読み取れても、ベレットには詳しくは分からないらしい。
「『会ったばかりの人間を信じていいのか?』だとさ。ごもっとも。じゃ、冒険者ギルドのギルドマスターにでも立ち合ってもらう?王様でも宰相でもいいけど。王宮に出入り自由なんで」
「…何故、出入り自由なんですか?」
「色々あって。魔法的にも警備的にもおれの侵入を防げねぇってのも理由だけど。まどろっこしい手続きをやってたら日が暮れるし。…まぁ、まずデュークを起こすか」
デュークを起こしてギルマスを呼んでもらい、奥の応接室へ場所を変えた。
ファルコはデュークにも意志を確認して、アルが言ったことが本当だと知ったが、影転移が何なのか分からなかったので、短距離で見せ、ファルコを連れての移動もやって見せると、ようやく納得した。
ここまで用心深いと、ベレットが誰かに騙された、騙されそうになったことがあるようだ。
ギルマスが来るまでの間に、アルは通信首輪を作り、ファルコの首に巻いた。
下弦の月のような少し幅があるタイプで、飾り文字でファルコの名前を入れた。サイズ調整は自動なので苦しいといったことはない。
「通信魔道具首輪。ベレットさんじゃなくファルコに着けるのは奪われ難いから。おれと通話出来るだけじゃなく、手で触れるとファルコと念話で話すことも出来る。ベレットさん、手で触れてみてくれ」
「分かりました」
『本当に話せるのか?あるじと』
「しゃ、しゃべった!え、ファルコ?本当に」
『ああ、わたしだ。すごい魔道具だな。しかも、かなりの短時間で一から作り上げた。噂の方が控えめだったかもしれん』
「確かに。すご過ぎて大げさだと思うのかもしれない」
「ちなみに、念話スキルがあれば筒抜けなんで、内緒話をする時は気を付けるように。ベレットさんも声に出さなくても考えるだけで通じるから」
念話スキル持ちだと、通話相手を限定することが出来るが、魔道具を使う人や魔物が念話に慣れてない素人だと放射してしまうので、それを念話スキル持ちならキャッチしてしまうワケだ。
「はい。やってみます」
『でも、念話ってどうやって?考えるだけでいいのかな?』
『いいようだぞ。あるじとこんなに話せるのなら、もうもどかしい思いをしなくて済みそうだ』
『ごめん。察しが悪くて』
『ねぇ、アル、ぼくもおじさんとはなしてみたいんだけど~。いっしょにさわればいいの?』
「そう。でも、羽根じゃ中身が入ってねぇからクチバシか足な」
アルがそう言い念話でも同時通訳すると、デュークは前足でファルコの首輪に触れ、しばらく、一人と二匹で話していた。
ファルコが獲物を探して離れている間、ベレットはよく無事だったな、と思っていたアルだが、ステータスを見て納得した。
隠蔽スキル持ちだったのだ。
行商も成人してからずっとで長いし、スキルもかなり育っていることだろう。
まぁ、だから、尚更、動きたがる子供のデュークまで隠せず、預かってくれる人、もらってくれる人を探したのだろう。
何ならPバリアを貸そうかと思っていたが、商人にとっては
…とはいえ、グリフォンを従魔にしているベレットは、行商地域では有名だっただろうし、もう一匹を人に譲った、それはにゃーこやの店長だ、というのはアルが連れていれば分かるだろうから、その際、ベレットに寄って来る商人や強盗たちには気を付けてもらうしかない。
ファルコがいるので強硬手段は取らないだろうが、冒険者ギルド以外の室内には、普通は従魔は入れない所ばかりだ。
ファルコたちのおかげで羽振りがいいので、元々気を付けているとは思うが、尚一層気を付けるべきだろう。
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