144 ぼく、よわいからね?
程なく、ギルマスが来たので、立ち合いの上、譲渡契約を交わした。
盛り込んであるのは、当然、デュークの主がアルになり管理責任があること、デュークの安全と自由。譲渡契約には金銭は動かないが、通信魔道具のレンタル料として、ベレットが金貨100枚支払うことになった。
案外、頑固で譲らなかったのである。
それ以上の価値はあるのだが、「レンタルだし、金貨10枚ぐらいで…」とアルが言ったら怒られた。
ギルマスにも。そうも安売りされたら、大多数の魔道具師たち錬金術師たちの立場がない、と。まぁ、それはそうか、とアルは妥協させられたワケである。
ベレットはファルコだけの一人と一匹の移動だけじゃなく、自分の店の店員や他の商人と一緒に移動する時に護衛依頼を出すため、冒険者ギルドにも口座を持っているので、金貨100枚は即金だった。
デュークの保護依頼が金貨10枚なので、かなりの儲けになったワケだ。
それから、アルはデュークとスムーズに従魔契約をして、冒険者ギルドにも従魔登録して手続き完了。
「じゃ、今日はこれでデュークを自宅に連れてくから。また明日」
ベレットたちはしばらく王都にいるし、アルも冒険者ギルドの小冊子の自販の様子を見に来るので。
一旦、アルたちは影に潜ってからアカネを影の中に引き寄せて、それから、キエンダンジョンの自宅へ空間転移した。
『え、あれ?なんでいっしょ?』
「改めて初めまして。シヴァの妻のアカネです。で、シヴァは…」
「おれなワケ」
アルは【チェンジ】で服を変え、変幻魔法を解いてシヴァに戻った。
「こちらが元々の姿。アルは魔法で化けてた。中々複雑な事情があってさ。こっちの時はシヴァって呼べよ」
『…わかったけど、なにがなんだか…おくさん?』
「うん、奥さん。見た目若いけど、二十三歳だよ」
『…あれ?ことばつうじてる…』
「わたしも念話スキル持ちだから。SSランク冒険者のシヴァの奥さんとして見せて回ったんで、わたしも結構顔知られてるの。だから、アルの彼女でーす、とは言えないから、わざわざ一緒の依頼を受けて知人ってことにしてある。わたしも呼び捨て…はシヴァが怒るから、さん付けで」
「呼び方は『アカネさん』な」
『はーい。シヴァのほうがかおがいい、…びじん?なのに、なんでアルにばけるの?』
「目立ち過ぎるし、色々事情があるから。まぁ、今言っても理解出来ねぇだろうから、おいおいな。それより、デューク、この場所に違和感ねぇの?」
『いわかん?…なんかすっごいまりょくがおおくない?』
「そう。ダンジョンの中だから」
『…えーっ?こわいまものがたくさんいるってところだよね?へいきなの?ぼく、よわいからね?』
「分かってるっつーの。このフロアには襲って来る魔物はいないし、安全。ここ全体がおれたちの自宅。…お、一号、警戒してるな。大丈夫だって。こいつはデューク。今日からうちの子」
『デュークです。…っておおかみ?』
「神獣フェンリルの外見そのままぬいぐるみのゴーレム。名前は一号。犬の行動パターンを入れてあるだけなんだけど、結構、個性が芽生えててさ。一号は防水じゃねぇから気を付けねぇとだけど、戦闘力もねぇから、お互い遊び相手にはいいだろ」
「あれ、にゃーこたちは?…こっちも警戒してるなぁ。連絡入れてないの?」
「どうなるか分からなかったし」
にゃーこたちも手招いてお互い紹介し、キーコバタを出してもらい、こちらも紹介した。キーコバタは念話が通じる。
『アルがシヴァでダンジョンのマスター?…こんらんしてきた』
「中々複雑な事情があるんだって。ま、家の中に入れよ。部屋空いてるから好きな部屋で好きなように整えてやるし」
『カゴ?』
気に入ったらしい。
「カゴでもいいけど、普通にベッドでもいいし、木の上がいいなら好きな場所に植えられるぞ」
『え、なんできのうえ?ねたらおちてあぶないじゃん』
「鳥部分もあるし、ライオンだって木の上で寝ることもあるんだぞ。まぁ、人間に育てられていたら論外か」
シヴァはデュークに【クリーン】をかけてやってから、家の中を案内した。土足禁止なのはちゃんと言っておく。
案内はシヴァと一号に任せ、アカネは作業部屋にて作業に戻った。
サファリス国の被災地で結婚間近なカップルのために、教会やテーブルを飾る色々な飾りを作っているのである。
立食パーティなのは決まっているが、そういった小物類に関してはまったく未定で、役人が気付くとは思えないし、やったもん勝ち!と。こういったこと、アカネは得意なので任せた方がいいとシヴァは思う。
一般的な平民の結婚式についてはティサーフダンジョンのティーコに情報をもらってるので、逆に嫌がらせだと思われることもない。
シヴァたちの自宅は色々改造しているものの、ラーヤナ国海辺のトモスの街の高級温泉宿がベースになっているので部屋数が多い。
にゃーこたちの部屋もあるが、みんな一緒の方がいいようなので大部屋だ。猫ゴーレムなので3Dで遊べる方がいいかと、天井をぶち抜いて高く改造し、猫タワーも猫ステップもキャットウォークも猫ベッドも猫ちぐらも色々と作ってある。
まぁ、サイズは大きくてもゴーレムでも、好きな所で寝る猫そのものなのだが。
一号はにゃーこたちとよく遊んでもらってるので、この部屋で遊び始めた。新参のデュークにちょっと気を使ったこともあるのかもしれない。
たくさんあって選べないとデュークが言うので、デュークの部屋はオーシャンビューの部屋にシヴァが決めた。
エイブル国は内陸なので海はなく、初めて見る海にデュークは興味津々だったのだ。
カゴがあれば、取りあえずはいいそうなので、早速、海辺に連れて行く。
キレイに整えられた砂浜は見るだけでもキレイだが、波打ち際で遊んでるだけでも楽しい。砂の感触が中々気持ちいいのだ。
ダンジョン内なので本物ではなく、生き物もいないのだが、本物の海だと魔物が襲って来るので気楽に遊べない。その旨はちゃんと注意しておく。
デュークが子供の間は別行動にはならないにしても、成獣になったら単独行動する時もあるだろうから。
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