番外編29 いつか一緒に空を翔けよう

 人間と魔物が従魔契約をすると、意思疎通がやり易くはなるが、言葉で伝えるものではないので行き違いも多い。

 人間も魔物の言葉を理解してないし、魔物も人間の言葉を理解しておらず、双方、その概念からしてない場合もあるからだ。


 当然、例外もある。

 魔物の知力が元々高く、一緒に過ごすことで人間の言葉や習性や風習を理解している場合だ。

 その例外に当てはまるのがグリフォンのファルコ。

 エイブル国北部周辺で活動している商人のベレット(三十六歳)の従魔である。

 しかし、それでも、行き違いがあるのはファルコの『念話』がマスターであるベレットに伝わらないからだ。



 そんなある時。

 画期的な技術と知識を持つにゃーこや店長が念話が聞こえる魔道具を作ってくれたおかげで、ファルコの『念話』を伝えられるようになった。


 ただでさえ目立つグリフォンなので、ベレットは道中では話さず、従魔も泊まれる宿、その従魔・厩舎にファルコが落ち着いてから、改めて話すことになった。

 すると、思った以上に認識違いが結構あったのが分かった!


【あるじのつがいは既に亡くなったのではなく、単にモテなかっただけ、なのか?】


「冴えない中年のおれがモテる、と思ってるファルコの感覚もすごいよな…」


【わたしの働きでかなり稼げるようになったことで、メスにも色々と声をかけられていただろう?】


「人間の場合は女性と言うんだ、女性と。あいにくと、近寄って来る女性は単なる金目当てで、それはモテるとは言わないんだよ…」


【金があるのも魅力の一つだろう?きっかけはどうあれ、好意がなければ、つき合おうとも思わんだろうし】


 それは確かに。

 いくら、金持ちだったり条件がよかったりしても、つき合うのはちょっと、という人はいるものだ。


「思ったより大人だなぁ、ファルコって」


【いや、グリフォンの寿命は平均300年だそうだから、ニ年程度じゃまだ子供だ。人間だと家の手伝いが出来るようになる七、八歳ぐらいか】


「じゃ、十何年か経つと、ファルコは何かすごい大物になってそうだなぁ」


【あるじ、気が付かんか?わたしはまだ成獣じゃない、ということだ。道理でAランクのグリフォンなのに、わたしを見て逃げる魔物もほとんどおらず、魔法も中途半端だと思った】


「……え?そんな風に思ってたのか?ファルコ、あんなに強いのに」


【そんなことはない。わたしがもっと強ければ、デュークも守れたんだが】


 念話を誰にでも聞こえるようにしているだけに、感情が反映している残念そうな声だった。

 ベレットは申し訳なさそうな顔になる。


「ごめん。おれがもっとスキルを磨いたり、ステータスを上げていれば、デュークも手放さずに済んだのに」


【いや、あるじは商人だ。わたしを従魔にしているだけでもすごいことだ。それに、いつでも連絡が出来、遠くにいても会うことも出来るアル殿がデュークを引き取ってくれたことは最良の結果だろう】


「でも、淋しいよ。デュークは何かと騒がしかったし」


【それは仕方ない。デュークはまだ赤ん坊のようなものだからな。騒ぐのも仕事だ】


「ああ、赤ちゃんと一緒だったのか。人間でも三ヶ月ちょっとじゃ寝返りもどうか、な時期だしなぁ。

 ……デューク、ちょっと目を離した隙に、何かの穴にハマって出られなくなってたこともあったなぁ」


【見た目より中身はほっそりしていた時期だな。引っ張っても出なくてさすがに焦った】


「おれがちょっと土魔法が使えてよかったよな」


 ベレットが土魔法で穴を広げて、デュークを救出したのである。

 デュークの背中の羽部分が引っかかっており、ファルコが襟首を咥えて引っ張ると痛がるので、救出出来なくて困ったのだ。


【アル殿はかなり魔法も使えるようだから、デュークが何かやらかしても安心だな】


「やらかす前提なのはどうかと……まぁ、何かやらかしそうだけどな」


 はははは、とベレットとファルコは笑った。



 ******



 ベレットたちは想像もしなかったことだろうが、やらかすより前に、デュークは怖がっていた。


「グリフォンが温泉に浸かると、首だけしか見えないから、より一層…」


「茹で鳥だよなぁ」


 アカネが飲み込んだ言葉をシヴァ(アル)が続けた。


「低温調理で生はむ」


 では、遠慮なくと思ったのか、アカネがそんなことを言う。


「丸ごとなら参鶏湯サムゲタンじゃね?」


「水晶鳥も手軽で美味しいよね。ミンチにして鳥つくねや鳥バーグ、鳥そぼろ、キーマカレーもいい!」


「シンプルに炭火で焼く焼き鳥も美味そう。…っつーか、そもそも、グリフォンってAランク魔物だから、下半身の獅子部分も美味いんじゃねぇの?」


「それ言ったら若鶏が肉が柔らかくて美味しいように、若いグリフォンも美味しいんじゃない?手羽先が大きいし、いい出汁も出そうだよね」


【いやーん、やめてやめて~。たべないで~。じょうだんにきこえないから~】


「料理とグリフォンの話であってデュークの話じゃねぇぞ。一応」


【いちおう、とかいってるし~】


 ここはラーヤナ国キエンダンジョン、オーナーフロアの温泉宿風シヴァたちの自宅。その庭園露天風呂だった。

 最初より広げてあるのは、遊びに来る神獣のイディオスとカーマインも一緒に入るには小さかったからである。

 庭をもっと和風に整えて、雰囲気も更に素敵にしたのは、本職は庭師のアカネだった。


 その庭園露天風呂に浸かっているのは、デュークとシヴァで、アカネは側の縁側のベンチ、縁台えんだいに座り、隣に座らせたシャム猫にゃーこのブラッシングをしていた。

 その足元にはフェンリル型ぬいぐるみゴーレムの一号がはべっている。


「まぁ、でも、デュークが温泉を気に入ってくれたのはよかったよ」


「見るたびに『茹で鳥』って思うけどな」


【ゆでてないから~つかってるだけだから~】


「あははははは」


「本気で怖がるからからかわれるんだよ。

 …そうそう、前から猛禽類は飼ってみたかったけど、リアルオブジェで我慢してたから、その点でもちょうどよかったね」


「あーはいはい。フクロウや鷹とふれあい体験が出来る花鳥園に何度か行ってるから、いいなぁって盛り上がったんだよな。でも、エサがピンクマウスっていう子ネズミで、ハードルが高いものだったから、憧れってだけだったんだけど……ん?デューク、食べる?」


【なにが?ねずみ?】


「生まれたばっかのネズミ。生きたままとか生とか…」


【やだ、ない!】


「あーよかった。こっちだとネズミ系魔物だろうから、もーのすごくわらわらいそうで、スゲェ面倒なことに」


「下手に殲滅しちゃうと生態系が変わりそうだし、養殖すると変に情が移りそうだしねぇ。他にもいっぱい美味しいものがあるんだから、デュークもそっちでいいよね」


【うん!】


 こうして、戦闘力がなく、まだ飛べもしない子供グリフォンのデュークは、安心で安全で快適な生活を送れることになったのだが、トラブル体質なマスターのせいで、何かと巻き込まれることにもなった……。


――――――――――――――――――――――――――――――

関連話☆「147「茹で鳥?」「低温調理だな」」

https://kakuyomu.jp/works/16817330653670409929/episodes/16817330657695931892

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