番外編64 遅牛でも早牛でも『ぎゅうー』っとしたい
「
ラーヤナ国王都フォボスにある『ホテルにゃーこや』の本館最上階のオーナーフロア、そのリビングにて。
シヴァは大型犬サイズのフェンリルのぬいぐるみゴーレム一号を、『ぎゅうー』と抱き締めた。
ポーズなだけで力は入れてない。『日常モード』でもヘタすると抱き潰してしまうからだ。比喩的表現ではなく、物理で。
一号は大喜びでぱたぱたと尻尾を振っている。
よし、ちゃんと元気だ。
「はいはい。極上の霜降りカウ肉が食べたいのね」
シヴァの妻のアカネは唐突話に慣れているので、あっさり流された。
「あっさり流すなよ~」
「ミノタウロスは違うでしょ?サシの少ない赤身肉だし。
簡単に狩れるのは、アカネがドラゴンスレイヤーだからである。
「そうだけど、そういったことじゃなくて。松阪
シヴァは一号専用ブラシを取り出し、ブラッシングしてやる。改良に改良を重ねた銀の毛皮はもっふもふで柔らかく、ブラッシングで更に艶が増すのだ!
一号としても気持ちいいらしく、ブラシを見せるだけで走って来る。
「それは確かに。食材として見てるか、生き物として見てるか、という差?それとも、ある時、いきなり『
アカネの足にすりっと頭をこすり付けたのは、足元に
はいはい、とアカネはバロンの頭を撫でる。日頃の手入れと食生活もいいので、もふっとつやっつやだ。
「どっちも。どっちの言い方も正式で、
シヴァは分かり易く具体的な例を出してみた。
「あーそれはあるかもね。語感の違い?『
「そうそう!じゃ、『ビーフ』はどうよ?って話になるけど、ビーフはビーフだよなぁ」
「うん。それも何となく分かる」
アカネの手にも足にも身体を寄せたバロンは、【幼獣化】して子豹になると、そろりとその膝に上がった。アカネの作る極上の甘いお菓子の大ファンなので、バロン的に大いに敬ってる行動なのである。
バロンはシヴァの従魔だ。
一般的な豹サイズなので普通の食堂や店に連れて行くと、他の客に迷惑なので【幼獣化】スキルを覚えさせていた。
もう一匹の従魔、子供
もちろん、「可愛いから」というシンプルな理由もあった。
そんな可愛い姿で甘えられて勝てなかったアカネは、ピスタチオ風ナッツクリームを挟んだラングドシャのサンドクッキーをマジック収納から出し、「一枚だけね」とバロンの口の中に入れる。
「ふみゃー♪」と美味しい声が上がった。
「もはや、かつては野生だったとは誰も信じなさそうな
マスターの
それで確かに問題ない。この集団のうち誰がボスなのかの判断は、群れを作る生き物の本能で分かる、というのもあるのかもしれない。
「たとえ、野生の魔物でも、甘い物好きの魔物は懐柔出来ることが分かったのは成果でしょ」
「まぁな。アカネだから、というのもありそうだけど。……あーはいはい」
そこで、一号がおもちゃが入ったボックスからボールを咥えて持って来て、シヴァの前に落とした。誰もが分かる「遊んで♪」である。
シヴァは一号だけじゃなく、アカネとバロンも連れて『地下』だと言い張ってる人工海エリアへと転移した。
ボール遊びをするのなら海辺が一番である。
デュークは冒険者活動をしている十三歳のリミトとサーシェと一緒に出掛けているが、非番の子供従業員たちはいるので、声をかけて一緒に遊ぶことにした。
******
青い青い空。白い雲。
エメラルドグリーンの透き通った海と真っ白な砂浜。
ビーチには
その木陰やタープの下にはデッキチェアが並ぶ。
誰が見ても南国の海だと分かる光景だった。
しかし、ここは人工海であり、ダンジョンの中。このヤシの木はいつでも
ヤシの木の花言葉は「勝利」「平和」「家族愛」「守護」といったいい意味ばかり。だからこそ、南国にはヤシの木が付きもので『楽園』と言われるのだろう。
この辺に詳しいのは、家庭菜園歴約二十年で中高園芸部、土木工学科卒で元庭師のアカネだった。
海でたくさん遊んだ後の昼食は、もちろん、日陰でバーベキュー。
メインは松阪牛っぽい上位種のカウ肉だ!
今まで何度もやっているバーベキューだが、炭火焼の美味しさは飽きることなんてあり得ない。
定番の肉と野菜を刺した鉄串をバーベキューグリルに並べ、別のグリルには網を置いて網焼きもし、また別のグリルには鉄板を置いて焼きそばも焼く。
肉の味付けはシンプルに塩コショウ、バター醤油、ステーキソース、あっさり大根おろしタレ、オニオンソース、ミネラル豊富な岩塩、柑橘塩、ブレンドハーブ塩も、どれも違ってどれも美味しい!
焼くのは焼きのスペシャリストになっている『にゃーこ』たちが担当してくれる。なので、焼き係だけ中々食べられない、うっかり焼き過ぎた、といったこともない。
『にゃーこ』は小柄な人間サイズで二足歩行の猫型モフモフゴーレムなのだが、いつの間にか魔法生物化しており、個性まで芽生えている。
焼き過ぎそうな肉や野菜は、一旦、時間停止のマジック収納に収納し、食べられる余裕が出来たら出してくれる有能ぶりだ。
「ん~っ!!!」
バーベキューは、どんどん舌を肥やしている従業員たちも、悶えるような美味しさだった!
「大きくおなり、健康に害がないのなら横にでもいい」と常々思っているシヴァとアカネだが、運動量も多いので、中々そこまでにはならなそうだ。
より美味い肉、美味い物が食いたいのなら、戦闘力も相応に鍛えねばならないこともある。
「そういや、『
「へー」
肉を食べる合間にサラダを挟むと口の中がさっぱりリセットされ、永遠に食べられそう!と、せっせと食べているアカネはさらりと聞き流した。
別に大食いじゃなく、一人前はぺろり程度だったアカネだが、
ちなみに、淀は京都の地名で港町だ。当時、陸路で
シヴァは小さめの丼を取り出し、ご飯をよそい、サンチェっぽい野菜を中心としたサラダを載せ、その上に焼き立ての
「ありがとう。…って、なんて罪深い丼を!」
そう言いながら、そそくさと食べるアカネである。
牛タンは
どの肉もどの部位もみんな違ってみんないいのだ!
もちろん、シヴァは自分の分も牛タン丼を作って食べる。
後で『にゃーこ』にレシピを教えて、従業員たちにも食べさせよう。
バーベキューにも焼肉にも白いご飯がなければ、始まらない、とシヴァは思う。
そうして、みんなで存分に『
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