番外編24 バラバラくんは狂戦士

注*残酷表現ありです。ご注意下さい。

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 魔物は基本的に凶悪ヅラである。

 当然、例外もあるし、外見よりも中身の方が凶悪といった場合もあった。



「ねぇ、シヴァ。異世界にパンダっているの?動物じゃなくて、パンダっぽい魔物?ベア系は色々たくさんいるんだし、パンダもいそうなもんなんだけど」


 温泉宿風自宅の和室にて。

 畳の上でゴロゴロしている黒白にゃーこをブラッシングしていたアカネは、その色合いからふと疑問に思ったらしく、無邪気にそう質問した。

 にゃーこはゴーレムなのでいくらもふもふでも毛は抜けないが、艶が出て毛並みがよくなるし、にゃーこたちもブラッシングが大好きだった。

 短い毛足で少し硬めのボア系毛皮で作ったブラシが一番気に入っている。


「……とうとう来たか、この質問」


 座卓ざたくで縫い物をしていたシヴァはその手を止めた。


「え、何なに?かつてはパンタがいた形跡はあったけど、絶滅してる?黒白って目立つし、ほとんど寝てる生態のままなら捕食され放題だし?」


「違う。変な方向に進化?変異?しててな…まぁ、魔物じゃなく神獣なんだけど……調べたことを後悔するぞ」


「って、そんな言い方されたら超気になるんだけど~。あ、魔物辞典がタブレットに入ってるんだから、名前は違ってもキーワードやイメージで探せば神獣も載ってたりする?神獣も元は魔物だよね?イディオスはフェンリル、カーマインはフェニックスだし」


「ああ。タブレットにも入ってるけど、覚悟した方がいいぞ。見た目はそのまま可愛いパンダだけに、生態が違い過ぎてショック」


「そんなに?どっち方向?スプラッタ?ホラー?怖い話系統?」


「どれも」


「……うっわーマジで?外見は可愛いパンダなのに?」


「猫サイズに小さくなってる分、より可愛いだけに。そりゃ強いだろうけど、そんなのが神獣でいいのか?本当に?とイディオスに聞き返したぐらい残酷で悪趣味」


「強さに偏ってるんだね……あ、そのパンダ型の神獣、近くにはいないんだよね?」


「そう。幸いなことにこの星の裏側の大陸管轄だって。イディオスも実際には会ったことがなくて、親とカーマインから話を聞いたのと、親からの記憶の継承で知ってるだけ、だそうだけど、『われも何度か聞き返した』って言ってたぐらい」


「……うん!『好奇心は猫をも殺す』だね!調べないことにする!」


「スゲェ賢明」


 おれもそうしたかったな~とぼやきながら、シヴァは再び縫い物に戻った。

 縫っているのはアカネの浴衣と和装小物だ。

 生地は簡単に出来たが、かつてシヴァが反物から作ってアカネにプレゼントした浴衣の色と柄と帯の再現に時間がかかり、もう暑い時期は過ぎてしまったが、常時適温、温泉宿風の自宅なら構うまい。

 季節が少々気になるのは、元日本人だけだろう。

 錬金術で数秒で縫うことも出来るが、何となく手縫いしたくなったのである。


 最初の結婚記念日で何を贈ろうかと悩んだ結果、学校で和裁を習う時代の母親に教わって浴衣を作って贈ったのが最初だった。

 それから、結婚記念日恒例になっていたので五枚。

 浴衣が終わったら、アカネが気に入っていた既製品の小紋(あわせ)も再現しよう。

 正月用の小紋はどんな柄にしようか迷っている最中で、まだまだ決まらない。

 元々可愛くて綺麗な妻なので、何を着せても似合うのだが、和服だとよりアカネの清楚さが引き立つ。少し派手な柄でも帯や髪型で似合うようにしてしまうのが和装の奥深さ、よさである。


 ちなみに、もう出来上がった浴衣もあるので、アカネに着てもらったが、【チェンジ】の魔法は最初は使えなかった。まぁ、当然である。和装は着付けが独特なので。

 一旦、着付けた後、登録したので、もう【チェンジ】で脱ぎ着が出来るようになっている。ただし、違う小物の時はその都度、登録が必要だった。データが増えれば対応出来るようになると思うが、それまでにそういった手間は仕方ない。



 ******



 むかしむかし、森の中に猫サイズの白黒の生き物がいました。

 ちょうど小さな熊のような形をしていますが、目の周りと耳と手足は黒い色、後は白色でした。


 ある日のこと。

 白黒の生き物が一人遊びをしていると、突然、彼の体がスライムのように分裂してしまいました!

 おお、なんということでしょう!


 彼の身体は頭部が四つに分かれ、手は二つに分かれ、足は三つに分かれ、胴体は六つに分かれ、尻尾も目も耳も鼻も口も、お腹の中のものも、それぞれがバラバラに個別に動き始めました!

 彼自身も驚きましたが、痛みはまったくありませんし、傷口もありません。


 逆にこの新しい体はとても便利だったのです!

 バラバラになって目や耳がなくても、目がえて音も聞こえました。口がないので話すことは出来ませんでしたが、それぞれ話すのと同じように念話で伝えることが出来ました。


 そして、バラバラの部位すべてが彼の思う通りに動かせるのです!

 狭い所だって、折れ易い枝に登るのもへっちゃらでした!


 この形に慣れるまでの間、何度かぶつかったりころんだり落ちたり滑ったりしながら、バラバラの部位たちはおかしな姿勢ではいはいゴロゴロします。


 やがて、元の一つの形に戻れるようになりましたが、バラバラの方が便利なのでこちらで過ごすのが新たな日常となりました。

 彼は日々、バラバラになったまま遊びや冒険をします。

 可愛らしいもふもふの手が一人でご飯を食べ(吸収し)たり、胴体の一部が木登りを楽しんだり、お腹の袋の部分が転がって遊んだりと、それぞれが個別の活動をしている様子は、見つけてしまった人々を驚かせるばかり!


 しかし、彼は悪いことをしない魔物や人間には危害を加えません。

 いつしか彼は「バラバラくん」と呼ばれるようになりました。


 悪い人たちにはバラバラくんは容赦しませんでした。

 四方八方からバラバラくんの部位が悪い人たちを襲います。

 敵の生気を吸い取ったり、生きたままバラバラに解体します!

 この奇妙な能力によって、バラバラくんは敵を圧倒しました。


 そして、バラバラくんは気に入った部位があれば、【状態保存】という特殊な能力を使いました。そのままの姿でまるごと保存し、種類や部位別にコレクションするためです。

 更に、バラバラくんは自慢したいので、どんな相手であろうと誰彼構わず、バラバラコレクションを見せびらかすのです!


 これを見た人々は度肝を抜かれ、バラバラくんの悪趣味さに驚愕しましたが、彼自身は何となく機嫌が良さそうな感じで、お気に入りのコレクションを眺めているばかりです。


 人々からは「悪趣味なバラバラくん」と呼ばれるようになり、

「悪いことをしたらバラバラくんに怖い怖いコレクションを見せられるよ!」

「もっと悪いことをしたらバラバラくんが襲って来るよ!」

と子供の教育にも使われるようにもなりました。



 このような奇妙な生き物であるバラバラくんのエピソードは、まだまだ終わりません。

 彼がどんな冒険に巻き込まれ、誰彼構わず自分のコレクションを見せびらかすのか、これからも目が離せないのです!


 ―――――――――――――「むかしむかしのケンじいさんのおはなし」から抜粋―




 ******



 異世界のパンダは「トーデスベルゼルカー(Todes Berserker)

」という名前で、「死の狂戦士」という意味だった。

 もう名前からして悪い予感を覚えたシヴァだが、好奇心には勝てず…………もちろん、調べたことを心底後悔した……。


 見た目は可愛いパンダ(猫サイズ)がスライムのように分裂し、その日常を過ごし、攻撃する時はそのまま生気を吸い取ったり、わざと飲み込ませて内部から破壊したり、敵を生きたままバラバラに解体したり、まではまだ予想の範囲内だろう。


 更に、バラバラに解体した時、気に入ったは、すかさず【状態保存】を付与して、活きのいいまま、や部位別にコレクションし、敵味方、老若男女、誰彼構わず見せびらかすのだ!バラバラ状態のままで!

 そのコレクションの中には魔物だけじゃなく、盗賊や悪人も含まれている……。


 悪趣味極まれり、だった。


 これが種族的なものなのか、個体差なのかは不明で、もう神獣になっている一体しか確認されていない。まだ幸いなことに。

 しかし、この一体のせいで悪趣味な部分も生態になってしまっていた……。


 敵に対する脅し効果は抜群だろうが、神獣への敬意なんかなく、それどころか、本当に神獣かどうか疑われるのがザラだとか……。

 当然、評判も悪く、統合したパンダ外見の可愛らしい見た目を知らず、バラバラ部位の凶悪な魔物だと恐れられてるらしい。



 こちらの大陸管轄がイメージ通りでうやまえるし、気さくなイディオスとカーマインで本当によかった!とシヴァは心の底から感謝したものだ。


 シヴァが最初に会った神獣がトーデスベルゼルカーだったのなら…………。





 人体模型パズルを楽しみ、映画や漫画の作り物と本物との違いを見極め、間違い探しをしたり、製作者側の苦労をしのんだりするマニアックなスプラッタ好きなシヴァは、トーデスベルゼルカーとはあいれないことを思い知り、本格的な殺し合いになったことだろう。


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