番外編09 あの『玉座』は今…?
どーもぉ、玉座です。
王座とも言うけど、国王、皇帝、帝王、公主も入るかな、まぁ、そういった『えっらい人』が座る豪華で権威がある椅子だよ~。
玉座は貴金属と宝石をふんだんに使った豪奢なものだね。
玉座があるのはどこの国でもある謁見の間のような広々とした部屋…ホールで、その奥まった所の五段の階段を上がった所に玉座があるよ。
その玉座から真っ直ぐに真紅の絨毯が引かれ、階段を下り、扉まで続いている。
その両脇に
静かな静かなその場所は、作られてから全然、誰も来なかったんだけど、実はダンジョンの中だから掃除やメンテナンスの手間もいらないこともあるんだよね。
玉座も赤絨毯もいつでもピッカピカさぁ。
宝石好きな貴族女性なら本当にヨダレ垂らして玉座にすり寄りそうな程、玉座に使われてる宝石は希少で綺麗な物ばかりなんだけど、玉座の製作者にしてマスター、もっとたくさんの貴金属を持ってるから、大して執着してないんだよねぇ。
宴会でマジックアイテムの王冠をもらったから「ちょっと作ってみた」だけで。
玉座としては「見てもらってなんぼ」だと思ってるから、張り合いがないんだけど、まぁ、静かな生活も悪くないかな。
******
そんな時だった。
どさっ!どさっどさっどさっどさっ!
いきなり、人間五人が現れた。男四人、女一人。
革鎧やローブを着てる所からして、冒険者だね。
赤絨毯の上に座り込んでる。
でも、転移罠の移動先はここに設定してないんだけど、一体、どこから?
すると、ふわり、とマスターが玉座の頭上?…上に現れ、音もなく玉座に座り、右足を左腿の上に乗せ、足を組んだ。
おお、お久しぶりでございますぅ~。お元気でいらっしゃ…ええ、お元気でございますね。
いやいや、相変わらず、お美しい!
サラサラストレートの艷やかな黒髪も、深い知性を窺わせる意志の強そうな漆黒の瞳も、隙なく整った美しい顔立ちも、無駄なく鍛えられた手足の長い身体も。
飾りベルトの多い長めの黒のジャケットの肩には合金の肩当て、伸縮性のある上位種トカゲ革のズボンの腿には、投げナイフホルスターをぐるりと巻き、ショートブーツにも飾り…いや、実用的?でオシャレデザインが施してある合金のつま先は超バトル仕様。攻撃力はメイスなんて目じゃないだろうね。こちらも黒革。
スパイダーシルクのシャツも黒地に刺繡が入ってる。
本当に黒尽くめ。
…あの初秋とはいえ、まだ残暑が厳しいこともありますが、暑くありません?ない?…あ、ステータスが高いから寒暖の影響はあまり?
ああっ!よく見たら、この装備すべて魔道具だ!「少し涼しい服」仕様になってる!すごい!さすがマスター!
座って頂けるなんて汗顔の至り…あれ?こういった使い方じゃなかったっけ?ええっと、光栄でございますぅ~。
あ、そっか。
この五人の冒険者、マスターの転移魔法か、影転移で連れて来られたんだね。
でも、ここは謁見の間に似せたホールだから、話し合うには不向きのような……???
「口止めしても話すとは思っていたが、予想以上に早かったな」
マスターはそう言いつつ、左手を上げると、その手にはいつの間にか鞘に宝石が
片手で軽々と持てる重さではないんだけど、マスターなので箸程度の重さぐらいにしか、感じてないのかも。それぐらい軽々。格好いいー!
でも、口止めって?
マスターは大剣を鞘に入れたまま、縦にしてその柄を左手で持ち、切っ先でトンッ!と軽く石の床を叩いた。
すると、石像と化していたゴーレム騎士たちが揃って玉座を向き、片膝を付き、玉座に向かって頭を下げた。
ザッ!と揃って!
おお、格好いいー!
「『おれのことは誰にも話すな、詮索するな』その程度も守れなかったから、言った通りにダンジョンに連れて来た。何か質問は?」
「あ、あの時と姿が違うんですが…」
「トモスの街で噂を集めてたんだから、もう分かってるだろ。そう何人もかなりレアな飛行魔道具やマジックアイテムなんか持ってねぇし、ものすごくタイミングよくSランク冒険者が通りがからねぇ。わざわざ名乗ったのは、とっくにアルの噂が流れてたから関わるな、という意味だったんだが、予想外に故障した定期船も助けたからな。この姿の時はSランク冒険者のシヴァ」
ちゃんと説明してくれるマスター親切ぅ~。
二人は分かっていたようだけど、槍持ってる人、長剣持ってる人、長剣持ってる女の人は、驚いてた。
あれ?分かってなかった人がいますよ~?
「あーあ、ただ黙ってるだけでエリクサー二本、腕を繋いだ治療費、変な風に関節がくっついてたのを整復して治した治療費、そして、送迎費用すらも無料になったのに。バカな奴ら」
トンッ!
マスターがまた大剣の鞘で床を叩くと、ゴーレム騎士たちが立ち上がり、赤絨毯の方に向き直って、持っていた槍を構えた。
「さぁ、まずは鬼ごっこだ。本気で逃げねぇと痛い目見るぞ」
マスターが今度はパチッと指を弾くと、ゴーレム騎士たちが逃げる冒険者たちを追いかけ始めた。
鬼ごっこかぁ。何か楽しそうだねぇ。
でも、いくら、広いホールとはいえ…あ、扉が開いた!
そうだよね。ゴーレム騎士たちが多いから、すぐ捕まっちゃって面白くないし。
まぁ、このホールを出ちゃうと他の魔物も出て来ると思うけどねぇ。
そう、ここは本当にダンジョンなんだよ!
ラーヤナ国の北西部のトモスの街の港に近くにある小島、そこにあるトモスダンジョン。
…ではなく、北東寄りの中央部付近にある塔型のキエンダンジョン。
この謁見の間はどことも繋げてなかったんだけどねぇ。ダンジョンの中って異空間だから、簡単に他のフロアと繋がるワケで。
さぁ、頑張って逃げて~!
******
約束破った冒険者五人、結構、怪我はしたけど、死にはしなかったし、マスターがちゃんと治してあげてたよ。
何かデータ?取るんだって。
人によって霊薬も回復魔法も治り具合が違うからって。
まぁ、ものすごくレア、伝説級の霊薬の代金なんて一生かかっても払えないんだから、身体で払うしかないよねぇ。
瀕死の所をせっかく治したのに、あっさり殺しちゃうのももったいないしぃ。
ちょうどいいから、ちゃんと鍛えて、どこまで強くなることが出来るのかも試すんだって。
そうすると、マスターが強過ぎて分からなかった魔物の弱点や、パーティでの戦い方も色々研究出来るし、冒険者たちは今までの稼ぎよりは格段に稼げるようになるから一挙両得なんだそう。
ここのダンジョンコア、キーコさんが教えてくれた。
親切だよねぇ~。
え?
もちろん、ダンジョンを統括するコアだからだよ~。
マスターも「あれ?何か意志を感じる」とは思ってたらしいけど、まぁ、よくあることだしね。マスターの場合。
気軽に名前付けちゃうから、意識が芽生えて自我も芽生えて、ってコアバタたち、ふさふさ猫型ゴーレムにゃーこたちでも証明済だしぃ。
あ、そうそう!最たるものがマスターの「鑑定様」だよね。鑑定スキルのハズなんだけど、それだけで治まらないようになってるみたいだし。
便利だからいっや、とマスターはお気楽~。大物だよね、絶対ね。
マスター、たまには座りに来て下さいませね!
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関連話*本編「116 それ、終わった話じゃなかったのか」
https://kakuyomu.jp/works/16817330653011554221/episodes/16817330653084889727
関連話*本編「123 図に乗るな、小僧っ!」
https://kakuyomu.jp/works/16817330653011554221/episodes/16817330653103370490
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