116 それ、終わった話じゃなかったのか
「…時々、自分のノリのよさに疑問を感じるよ…」
宴会終了後、簡易謁見の間をちゃんと撤去して来たのはいいが、せっかく作ったので壊すのも何。かといって、空間収納に死蔵するのも、とシヴァは簡易じゃない謁見の間を作ることにした。
キエンダンジョンの中に。
シヴァが作った物を元に、ちゃんとした謁見の間になるよう、コアが調整する。もう少し階段を増やしたり、飾り柱を建てたり、鎧を付けた騎士の石像が両脇に並んでいたり、と。
【マスターが楽しかったのならいいと思います】
「それで割り切れねぇもんがちょっとある、っつーかさ」
この謁見の間は実用で、ダンジョンマスターとしての謁見である。
攻略したパーティとの謁見、と言いたい所だが、かなり長いこと攻略されてなかったキエンダンジョンなので、中々使う機会がなさそうだ。
なので、対外向け、違う所のダンジョンマスターが訪ねて来るとか、国の使者が訪ねて来るとか、の方が可能性としては高い。
それに、シヴァが口出ししたくなる無駄な戦い方をしているパーティを発見するかもしれない。
…いや、管理も運営もコアに任せ切りなので報告があったら、だが。
「あ、このボディバッグ。解析して低層のドロップアイテムに混ぜてやって。タダのバッグとマジックバッグになってるバージョンの二種類。色や素材は色々で。ファスナーの構造モデルはこちら」
コアなら作れるんじゃね?と気付いたシヴァは、三日月型ボディバッグを普及させようと試みる。
自分がファスナーの物を使っていても、目立たないように!ゲットした人も喜ぶ!変わったドロップアイテム目当てに冒険者も増える!…と一挙両得さ。
錬金術師のセラには見せたことがあるが、ダンジョンなら何でもあり!なので、シヴァが関わってることに気付かれることはないだろう。
了承して、早速解析を始めたコアだったが……。
【マスター。このバッグの作製は時間がかかります。このファスナーという物、細かく緻密な構造なので、日常使える精度と耐久性を実現するには一時間は見て下さい。効率化出来れば、速くなるかと思います】
「ああ、急いでないんでごゆっくり。異世界物なんで、作れるってだけでもスゲェよ」
【とんでもないです。わたしはもっと学習するべきでしょう。錬金術を覚えてまだ日が浅いのにも関わらず、こんなに細かい物を作ることが出来るマスターを更に尊敬致しました】
コアはどんどん成長していると思うが、コア的には全然足りないらしい。
「元々手先が器用だっつーのはあるんだって。…あ、それで思い出した。コア、楽器って作れる?まだ見たことねぇんだけど、音楽があるから楽器があるのは知ってる」
【楽器作製は可能です。どういった物をお望みでしょうか?】
「えーと…ちょっと絵書くんで待って」
シヴァが欲しいのはギターとピアノ。
ギターはともかく、ピアノの構造がかなりうろ覚え。
この世界に似たような楽器があれば、コアもすぐ作れるだろうが、どうだろう?
ダンも知らないと言っていたので、おそらく、楽器はかなりかなり高価で購入層は確実に貴族層だろう。
…あ、子爵に知り合いがいた。
しかし、今はシヴァとして行動しているし、アルはしばらくお休みだ。
ダンジョンコアにはバッグを作ってもらっているので、楽器は後回しにし、シヴァはギルドに顔を出しておくことにした。
…とはいえ、朝食後、騎竜でイディオスを住処に送ってから、キエンダンジョンコアルームに転移したので、騎竜でアリョーシャに戻らないとマズイ。
シヴァはかなり手前で騎竜を出して乗り、アリョーシャの防壁前に降りた。
門の警備兵たちにはもう驚かれなかったが……。
「黒の皇帝!お戻り頂き光栄です!」
…などと茶化されてしまい。
そう黒、黒言われると、翻したくなるもので。
『コア、シヴァ仕様で白い衣装を作れるか?デザインはコアに任せた』
シヴァは念話通話で訊いてみる。
【可能です。ブーツ、グローブ、投げナイフ、剣まで一式作製しました】
『ありがとう。一旦、戻る』
シヴァは物陰まで行くと、コアルームへ転移、白バージョンを確かめて一度着て鏡で見てから再び空間収納に入れ、アリョーシャに転移。
ギルドに向かって歩き出すと、すれ違う冒険者たちに昨日の宴会のお礼を言われた。一応、ギルマスの奢りなのだが、シヴァが食材や酒をかなり出したからだろう。
十時過ぎのギルドはいつもなら空いているのだが、何だか人が多かった。
「黒の皇帝!」
「黒の皇帝、おはようございます!」
「黒の皇帝、昨日はありがとうございました!楽しかったです」
「黒の皇帝!」
「黒の皇帝!」
「黒の皇帝バンザイ!」
「バンザイ!」
「真っ昼間から酔ってるなよ。おれのどこが黒い?」
【チェンジ】でシヴァは白バージョン衣装装備に一瞬で変更した。
更に【変幻自在】で顔と身体はそのままで、髪は銀髪、目は赤に。
「……ひねくれてる所も素敵です、皇帝」
「白バージョンも素敵です!白の皇帝!」
「白の皇帝!」
昨日【チェンジ】を宴会芸にしていた面々がいるので、この程度ではもはや誰も驚かなかった。
「そもそも、皇帝呼ばわりをやめろって」
シヴァが背中の大剣の柄に手を掛けて見せると、さすがに黙った。
そして、シヴァが受付に並ぼうとしたら、先に並んでいた二人共に譲られた。
「滞ってる依頼は?」
「あ、はい。先日、隣のイリヤの街、側の森にオークが集落を作ったのですが、それを何者かが殲滅したという出来事がありました。200以上、ジェネラルもやキングもいたのにすべて首を斬られていました。その殲滅した何者かの調査依頼です。もう三週間ぐらい前の話ですから、手がかりを掴むのも難しいと思いますが」
すっかり終わった話だと思っていたのに。
「そんなに前なのに、取り下げないのか?」
「はい、まだですね。殲滅してくれて助かったのは確かですが、何も言わずに立ち去った事情が分かりませんし、かなり腕の立つ人のようですから、ちゃんと身元を確認しておかないと、ということのようです。もう既に偽物が出て報奨金をせびろうとしたそうですよ。それもあって」
「何故、偽物だと分かった?」
「剣の腕です。詐欺をやろうという人間に剣の腕なんてありませんから」
「ごもっとも。それにしても、イリヤの街はともかく、こちらの依頼は取り下げてもいいんじゃないか?」
「おそらく、ここを拠点にしている冒険者じゃないかと疑っているのではないかと。凄腕の人がいましたしね」
「過去形か?」
「はい。今は隣の国に行ってます」
簡単に教えるワケか。守秘義務は?とちょっと言いたい気もする。
「その人にオーク集落の件、訊かなかったのか?」
「はい。殲滅していただろう時間、その人、ここにいましたし、その後も知り合いの店で話し込んでいたそうですし」
アルの仕業を疑って行動を調べているらしい、やはり。
アリバイが完璧な辺りで、また疑われる、ということはなさそうだが。
「その調査依頼は難しいから却下。他に面白そうな依頼は?」
「面白そう、ですか。…ええっと、あ、魚!ダンジョンの27階の魚を欲しがっている依頼主がいました。出来れば凍らせて納品して欲しいとのことで…えーと、これですね」
受付嬢は台帳をめくり、見せてくれた。
「魚なら何でもいい、か」
そうハードルが高いフロアじゃない、とシヴァは思うが、一般的には種類が選べないぐらいには苦戦するのかもしれない。
ダンたちも五人全員でなら魚ドロップを取って来るようになってるそうなのだが。
…ああ、それで、どこかに卸されたのをみたか食べたかして、ウチも、なのか?
魚納品依頼は受けることにしたが、それと自分用ストックだけのためにダンジョンに潜るのも何なので、他の納品依頼もいくつか受けた。
そして、門の警備兵たちに白バージョンを見せ付けてから、いつもの黒バージョンに戻し、アリョーシャダンジョンへ向かった。
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関連話*「番外編09 あの『玉座』は今…?」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330659598157629
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